医学界新聞

寄稿

2014.12.01



【投稿】

米国の産婦人科臨床研修に学んで

川北 哲也(ワシントン総合病院産婦人科レジデント)


 インターネットの普及により,米国臨床留学に関する情報は容易に手に入るようになりました。しかし,こと産婦人科の臨床留学となると情報は決して多くはなく,私自身,留学前にもっと情報があればと思っていました。本稿では,今後米国での産婦人科臨床研修留学を控える,あるいは考えている方々に向け,現地での研修について紹介したいと思います。

ACGMEにより,研修プログラムは均質化

 そもそも「なぜ米国で産婦人科研修を?」と思われるかもしれません。産婦人科は,内科的な要素と外科的な要素を持ち併せ,両者のEvidenceを駆使し,必要とあれば踏み込んだ手術を行うことが求められる領域と言えます。その点,EBM(Evidence-based medicine)の発祥の地である米国に身を置くことで,日々の臨床を通し,EBMの実践にどっぷりと漬かることができます。そして,専門化が進み,症例が集約化された米国の医療環境は,「外科医」として多くの症例も経験できます。私はこれらの点から産婦人科医としてレベルアップにつながると考え,米国留学に踏み切りました。

 さて,米国での臨床研修を紹介する上では,臨床研修の質を評価・監督する非営利団体「ACGME(Accreditation Council for Graduate Medical Education)」について触れる必要があります。ACGMEは,臨床研修プログラムの細かな規定を設け,各施設のプログラムの質を厳しく評価・フィードバックしています。このような厳しい管理のもと,現在(2014年11月4日時点),全米で243の産婦人科研修プログラムがありますが1),国内のいずれのプログラムで研修するとしても一定の質が保証されているのです。本稿においては,このACGMEの規定項目である,研修期間やその期間中の役割,勤務時間や症例数,研究にフォーカスして,研修内容を紹介していきます。

年を追うごとに,学ぶべきことと求められる役割が変わる

 日本の産婦人科研修の期間は,初期研修後,後期研修として3年(以上)となっています。一方,米国では日本で言うところの「臨床研修制度」はなく,研修期間は4年と決められています(なお,米国では医学部3-4年生のうちに病棟研修まで行っているようです)。この4年間の産婦人科研修のうち,1年目はインターンシップ,残りの3年間はレジデンシーと分類されます。経験年数によって,チームの中での役割や執刀できる手術内容が細かく決められている点が特徴的です。

 まず,「インターン」と呼ばれる1年目。産科ではあらゆる患者の重症度のトリアージと,合併症のない通常の妊娠の分娩管理を,婦人科では不正出血や婦人科関連の腹痛に関して他科からのコンサルトを受けます。吸引分娩を除く全ての経膣分娩,初回の帝王切開,子宮内容除去術,子宮鏡などの基本的な手技も1年目から任されています。

 2年目,晴れて「レジデント」と呼ばれるようになると,インターンを指導しつつ,より幅広い働きが求められるようになります。産科ではインターンの手に負えない症例のトリアージや分娩管理を行い,吸引分娩,反復帝王切開,腹式単純子宮全摘術,子宮外妊娠手術などを任されるようになります。

 1-2年目は産科研修に重点が置かれているのに対し,3年目の「シニアレジデント」は,婦人科を中心にローテートします。婦人科がんなどの複雑な症例や,膣式単純子宮全摘術や泌尿器婦人科手術といった難しい手技を伴う手術を任され,外科医として大きく成長する1年です。また,指導者としての役割もさらに求められるようになり,1-2年目研修医と共に手術に入って,指導することも大事な仕事として位置付けられています。

 「チーフレジデント」となる4年目は,チームを率いる立場になります。この1年は指導医になるための準備を行う期間と言え,治療方針の決定や後輩の教育まで一任されます。指導医もチーフレジデントが間違った判断を下した場合を除き,口出しをすることはほぼありません。そのため,自分の科で起こっている全てのことを理解しておく必要があり,外来・病棟・オペ室などで働くシニアレジデントの動...

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