医学界新聞

寄稿

2014.11.24



【Controversial】

コモンディジーズの診療において議論のあるトピックスを,Pros and Cons(賛否)にわけて解説し,実際の診療場面での考え方も提示します。

敗血症の初期蘇生においてEGDTプロトコールは有効か?

田中 竜馬(LDS Hospital呼吸器内科・集中治療科集中治療室メディカルディレクター)


 2001年11月8日に発行されたNEJM誌で,急性期医療に多大な影響を及ぼすことになる2つの文献が発表された。一つは,重症患者への厳密な血糖コントロール(Intensive Insulin Therapy : IIT)のRCT1),もう一つは,重症敗血症・敗血症性ショック患者に対するEarly Goal-Directed Therapy(EGDT)のRCT2)である。

 その後の追試結果からIITはすでに過去のものになった。EGDTについては,最近相次いで発表された2つのRCT(ProCESS3),ARISE4))で再検証された。2001年の発表当時研修医であった筆者の集中治療医としてのキャリアは,EGDTと共にあるといっても過言ではない。ここでは文献的考察と個人的思い入れによる「極論」でEGDTについて語る。


 ショックとは低血圧のことではない。ショックは「組織への灌流が不十分なために起こる臨床的症候群」と定義され,酸素供給と酸素需要のバランスが崩れている状態である。

 酸素は肺で血液中のヘモグロビン(Hb)に結合し,心臓の拍出によって体内を循環する。酸素供給量を式で表すと,

 酸素供給量
=血液中の酸素含有量×心拍出量
=13.5×酸素飽和度/100×Hb量×心拍出量

となり,酸素飽和度,Hb量,心拍出量の3つの要素で決まることがわかる。

 ショックで酸素供給量が不十分になると,組織は血液中の少ない酸素含有量から何とか酸素を取り込もうとするので,中心静脈血の酸素飽和度(ScvO2)は低下する。また,組織で嫌気性代謝が行われると乳酸が上昇する。

 EGDTとは,このような生理学的考え方に基づいたショックの治療方法である。まずはCVP(中心静脈圧)を指標に輸液をして前負荷を補い,それでも血圧が低ければ昇圧薬を開始する。ScvO2が低ければ酸素供給が十分でないと考えられるので,輸血をして酸素含有量を増やして,さらにドブタミンのような強心薬で心拍出量を増やす()。これを病初期の6時間に重点的に行う。Riversらは単一施設の救急室におけるRCT(患者数263人)で,EGDTが通常治療と比較して重症敗血症・敗血症性ショック患者の院内死亡率を有意に低下させることを示した(30.5% vs. 46.5%,p=0.009)2)

 EGDTプロトコール(参考文献2より)

EGDTの広まりと問題点

 EGDTプロトコールは,生理学的根拠に基づいて考えるのを好む集中治療医に急速に受け入れられ,歴代のSurviving Sepsis Campaign(SSC)ガイドラインにバンドルとして採用されて広く使われるようになった5-7)。最初の6時間に集中的に治療すれば,それ以降の輸液量や昇圧薬使用はかえって少なくなり,かつ死亡率が低下する2),というところが早期治療の重要性を示しているっぽいのも,急性期医療現場で受け入れられやすかった原因かもしれない。

 ただし,発表当初から懐疑論がなかったわけではない。EGDT/SSCバンドルによる治療の根幹となるのは,CVPやScvO2といった目標に向かって輸液,昇圧薬,輸血,強心薬をバンドル(束)として用いることだが,CVPの有用性は疑問視されており8),敗血症性ショックに対する輸血や強心薬の効果はそれまでの研究で示されていなかった。そのため,どの要素が死亡率を下げているのかはっきりしないことが指摘された9)。また,ScvO2を持続的に測定できる中心静脈カテーテルを販売する企業の,SSCへの関与も取り沙汰された10)

Pros:EGDTプロトコールは有効である

 EGDTを採用したSSCバンドル(前述)の導入と死亡率の相関を検証した観察試験では,バンドルの遵守率が高くなるにつれて11),バンドルを導入した施設をしなかった施設と比較して12),遵守率が高い施設と低い施設を比較して13),バンドルへの遵守率が死亡率の低下と相関することを示している。

Cons:EGDTプロトコールは有効ではない

 EGDTプロトコールを検証するRCTが最近2つ発表された。米国31施設で行われたProCESS(Protocolized Care for Early Septic Shock)3)は,敗血症性ショックの患者1341人を(1)EGDTプロトコール群,(2)CVPもScvO2も測定しない標準治療プロトコール群,(3)プロトコールを使わず医師の裁量に任せる通常治療群の3群に分けて比較した。EGDTプロトコールに含まれるドブタミンや輸血の使用は(1)群で最も多くなったが,主要評価項目である60日死亡率には3...

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