医学界新聞

寄稿

2014.11.10



【寄稿】

チームステップスの感染対策への応用

中澤 靖海渡 健(東京慈恵会医科大学附属病院医療安全管理部)


 医療事故の防止には,個人の認識や意識の向上のみに頼っていては限界がある。米国では航空業界,軍隊,原子力分野等の協力を得て約20年間にわたり積み重ねられたエビデンスから,コミュニケーションの円滑化によるチームワークの改善が事故の減少につながることが示された。このような航空事故等の分析を応用し,米国防総省とAHRQ(Agency for Healthcare Research and Quality;医療品質研究調査機構)は2005年,チームステップス(Team STEPPS;Team Strategies and Tools to Enhance Performance and Patient Safety)という行動ツールを作成した1)

 これは「医療の成果と患者の安全を高めるためにチームで取り組む戦略と方法」と訳され,良好なチームワークを形成することで医療事故を減少させるために有効なフレームワークとされている。チームワークの要素は大きく4つに分けられ,それぞれにおいて現場で使いやすいツールが示されている(2,3)

 チームワークの要素とツール2)

なぜ,感染対策にチームステップスを用いるのか

 感染対策は,手指衛生や個人防護具の使用等,日々の基本的な動作の積み重ねである。医学的知識としてそれらが必要であることはスタッフに理解されていても,その遵守は個人の認識や意識に左右され,高いレベルで遵守させることが難しい。部署ごとに感染対策上の問題点を共有し,全てのチームメンバーが部署全体における感染対策のパフォーマンスの向上に努めようとする組織文化の醸成が,感染対策にも有効であると考える。後述するように,実際には感染対策の具体的な場面,例えば(1)標準予防策の遵守率向上,(2)職員の健康管理,(3)アウトブレイクの拡大防止等に,チームステップスの要素である「コミュニケーション」「状況観察」「相互支援」の考え方が適応できる。

 なお,米国では既にAHRQが中心となって,チームステップスと同様の要素を含むCUSPを感染対策に取り入れ展開している。カテーテル関連血流感染においてはチェックリストを使い,多施設でその発生率を減少させるなど成果を挙げている。

チームワークでアウトブレイクを防ぐ

 慈恵医大の医療安全管理部門では以前からチームステップスを導入している。筆者(中澤)も,2013年米国での研修でマスタートレーナーの資格を取得した。当院では,チームステップスのツールの一部を組み合わせて感染対策に役立てるため,昨年から以下のような取り組みを始めたので紹介する。

(1)標準予防策の遵守率向上(状況観察,相互支援)
 当院では,チームステップスの要素「状況観察」のツールの一つである「クロスモニタリング」を標準予防策の遵守率向上に役立てている。クロスモニタリングとは,チームメンバーが遵守できていないときに他のメンバーが助言することで,チームにセーフティーネットを構築するというものである。

 手指衛生は感染対策の基本だが,手指衛生の遵守率には個人差がある。医師の遵守率が悪いなど,職種間の格差もある。いくら病棟全体の遵守率が高くても,一部に低値の個人が存在すればそこから院内感染が発生する可能性がある。当院では“できない個人”に対して周囲のスタッフがクロスモニタリングし,的確にフィードバックを実施することで,チーム全体のパフォーマンスが向上することをめざしている。

 クロスモニタリングとフィードバックは感染対策のOJTとして以前から行われてきたことである。しかしチームステップスでは,指摘する側,される側の双方が「アドボカシーとアサーション」(患者の擁護...

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