医学界新聞

寄稿

2014.09.29



【寄稿】

地域医療における薬剤師の新たな役割

狭間 研至(ファルメディコ株式会社代表取締役社長/日本在宅薬学会理事長)


 厚労省が地域包括ケアという概念を示し,今年度の診療報酬・調剤報酬改定では新しい項目も追加され,いよいよ地域医療におけるチーム医療は理論から実践の時期に入った。要介護高齢者の在宅や介護施設での薬物治療が,地域医療の主体となった今日,医師や看護師に加え,大きな社会資源へと成長した薬剤師を活用することは,自然な流れとなりつつある。

 その一方で,在宅医療における薬剤師のかかわりはまだ始まったばかりであり,導入期特有の混乱も散見される。本稿では,医師および薬局経営者として在宅医療に携わるとともに,薬学教育や薬剤師生涯教育にもかかわる立場を踏まえて,これから期待される地域医療における医薬連携の在り方について私見を述べる。

在宅医療において薬剤師は薬の一包化・配達・整理人か?

 在宅医療において,誤解されているのが薬剤師の果たすべき役割である。認知症や脳梗塞後遺症などにより通院が困難であったり,医師の訪問が必要であったりする場合に,医師の処方に基づき薬剤師が調剤した医薬品の配達は必須である。高齢者の場合には薬をそのまま配達されても,定められた時間に正しい薬剤を自分でPTPシートから取り出して服用することは容易ではない場合も多く,服用のタイミングごとに一包化し,カレンダーやボックスを活用するなどの服薬支援も欠かせない。

 ただ,これが訪問薬剤管理指導(介護保険の場合には居宅療養管理指導)であるとすれば,通常の在宅で650点(介護保険では503点),同一建物居住者の場合で300点(介護保険では352点)という設定は,過大評価ではないかという議論は常にある。もちろん,現状の保険制度にのっとって正しい業務を行っているだけであり,調剤や服薬支援業務を通じて医療の質的向上にきちんと寄与しているはずだという薬局・薬剤師側の言い分は私もよく理解できるが,同時に医師側の気持ちも理解できる。というのも,分包機さえ導入すれば,院内処方でも一包化はできるし,配達,カレンダーやボックスへの差し込みは,看護・介護職や家族でも代用可能だからである。

 薬剤師の在宅医療における役割は,決して薬の一包化・配達・整理のみではないはずだが,多少問題を混乱させているのは,当の薬剤師自身も地域医療における自身の役割を十分に把握しきれていないことも一因であろう。

薬剤師と共に在宅患者への訪問診療を行う狭間氏。

薬剤師を取り巻く環境の変化

 近年,薬剤師を取り巻く環境は大きく変わってきている。学校教育法第87条(大学における修業年限)と薬剤師法第15条(受験資格)の改正により,薬剤師になるための教育課程は2006年より4年制から6年制に変更となった。また,2010年のチーム医療推進に関する医政局長通知(医政発0430第1号)では,「薬剤の種類,投与量,投与方法,投与期間等の変更や検査のオーダについて,医師・薬剤師等により事前に作成・合意されたプロトコールに基づき,専門的知見の活用を通じて,医師等と協働して実施すること」と記載されており,現行法規の範囲内でも医師と協働して薬物治療管理に取り組めることが示された。さらに,情報提供義務のみを定めていた薬剤師法第25条の2が今年改正され,薬剤師も医師と同様に指導義務を負うこととなった。

 従来の薬剤師業務は,処方の応需がスタートで,医薬品の説明と受け渡しがゴールであった。しかし,ここ数年の教育制度および法制度の変化は,自分が調剤した薬がきちんと想定された効果を発揮しているか,予期される副作用を発現させていないかを,問診や必要に応じたバイタルサインの採取を通じてチェックし,薬学的専門性に基づいて解釈(アセスメント)した上で,医師をはじめとするチームメンバーに次回の処方までに伝えるという,医療におけるPDCAサイクルに入っていくことを薬剤師に求めているのではないだろうか()。

 調剤業務におけるPDCAサイクル

PDCAサイクルに薬学を組み入れる

 これまで,医師は自らの処方内容の妥当性を,基本的には全て自分で判断してきた。しかし,超高齢社会への突入や在宅・介護施設への患者の移行など,時代が変わりつつある中で,薬剤師が自ら調剤した薬剤の適正使用に責任を持つ時代となり,医師と薬剤師との連携も次の段階へと進んでいると実感する。

 実際に薬剤師と共に在宅訪問診療に赴くと,私が認知症増悪だと思った症状の変化が睡眠導入薬増量による副作用であった事例や,低カリウム血症がツロブテロールの副作用であった事例などに遭遇し,医薬分業がめざした多剤併用・薬害の回避が達成されていることを実感する。これこそが在宅患者訪問薬剤管理指導/居宅療養管理指導として薬剤師が行うべき業務ではないだろうか。医師が薬剤師と連携することは,医師にとって自らのPDCAサイクルに薬学が組み込まれるという新たな治療戦略の立案にもなる。これは在宅医療のみならず,一般の外来や病棟での医師の活動においても,同様だと感じている。

 臨床現場において,医師はあらゆる場面で決断を迫られる。自分が持ち得る限りの知識と技術を結集して患者にとってベストの選択を行う毎日であるが,ある意味では,誰にも相談できない孤独な存在とも言えよう。しかし,時代は変わりつつある。もちろん,診断や治療方針の決定は医師が責任を持って行っていくが,いったん薬物治療が始まれば,その後の経過において薬剤師は医師がより良い決断を行うためのサポートが可能となりつつあるのだ。

 「やっと,孤独から解放されたよ」というのは,私が外科を教わり,最近また,在宅医療の現場で共に活動している先輩医師からの言葉である。薬剤師が患者の状況を知り,医師が知り得ない薬学的専門性に基づいて投与された薬剤の妥当性を評価し,それらを医師と共有するという経験は,地域医療の中で家庭医や総合医という方向性をめざして格闘している医師にとっては一筋の光明のように見えるのではないだろうか。

 ぜひ一度,調剤した薬に責任を持ってほしいと薬剤師に声を掛けていただきたい。全員ではないだろうが,熱い思いで応えてくれる薬剤師がきっといるはずである。


狭間研至氏
1995年阪大医学部卒。阪大附属病院,大阪府立病院,宝塚市立病院を経て,2000年より阪大大学院医学系研究科。04年同大学院修了後,現職。在宅医療の現場で医師として診療を行う傍ら,一般社団法人薬剤師あゆみの会/一般社団法人日本在宅薬学会の理事長として薬剤師生涯教育,近畿大薬学部/兵庫医療大薬学部の非常勤講師として薬学教育にも携わる。