医学界新聞

2014.09.01



Medical Library 書評・新刊案内


脳卒中リハビリテーションマニュアル

宮越 浩一 編

《評 者》千田 益生(岡山大教授/岡山大病院総合リハビリテーション部長)

正確な情報がぎゅっと詰まった脳卒中リハの必携書

 亀田総合病院は,千葉県南部の基幹病院であり,33診療科,病床数865床を有しており,リハビリテーション科医師は7人,コ・メディカルスタッフ約170人という,急性期から維持期までの充実したリハビリテーションを実践している病院です。千葉県南部の医療の中心を担っており,数多くの症例が経験できるということで,研修病院としても非常に人気が高い病院です。高い臨床レベルの治療を行うと同時に,常に若い医師やコ・メディカルスタッフが真剣に研修している場でもあるといえます。

 本書『脳卒中リハビリテーションマニュアル』は,リハビリテーション科部長である宮越浩一先生が「コ・メディカルスタッフの自己学習のための参考書」として企画・作成されました。亀田総合病院のスタッフが執筆されており,叡智が結集された形になっています。

 本書を読ませていただいて,まず感じたことは,「コ・メディカルスタッフの自己学習のための参考書」をはるかに超えた,充実した内容であるということです。脳卒中の急性期から維持期までという長期間のリハビリテーションにおけるゴール設定,リハビリテーションプログラムの作成,またリスク管理を行う上で,必要とされる知識を網羅しています。脳卒中を担当する医師や医学生にも十分参考になる内容です。画像の説明や検査値の読み方が丁寧に記載されており,図・表あるいはフローチャートが効果的に配置されて理解しやすいよう工夫されています。重要な箇所は“ここがポイント!”として強調されており,重要な事柄を箇条書きに,そして具体的に記載されているところが助かります。「脳卒中治療ガイドライン2009」に記載されている内容は,青い色で囲んで強調されており,ガイドラインにはどのように記載されているかがすぐにわかるようになっています。また,CI療法や川平法など,比較的新しい内容についても触れられています。説明文も,長文ではなく短く区切って読みやすくなっており,本自体の大きさも白衣のポケットに入れて携帯できるサイズですので便利です。“困ったときにちょっと拝見”ということが可能です。“ネットですぐに調べられるさ”という方がいるかもしれませんが,正しい情報というのは信頼できる本から得られるものです。また,略語集を付けてくれていることも役立つと思います。

 全体のボリュームも368ページと分厚くなく適当であり,値段も3,200円とコ・メディカルスタッフや学生でも求めやすい値段に設定されています。脳卒中治療に関係する方々には,ぜひ手元に置いていただき,携帯して利用していただきたい一冊です。

B6変型・頁368 定価:本体3,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01924-8


非特異的腰痛の運動療法
症状にあわせた実践的アプローチ

荒木 秀明 著

《評 者》福井 勉(文京学院大教授・理学療法学)

腰痛を多面的に理解するために

 著者は,「非特異的腰痛」の定義として,臨床における腰痛の80%以上において画像所見と臨床所見が一致しないこと,これらは慢性化しやすく,医療・患者個人の生活・労働力の損失などの社会制度の3つの観点から問題となると述べている。理学療法としての評価・治療を「構造」と「機能」に分類することがよく行われるが,「機能的」という言葉の背景には,曖昧な点が多いのも事実である。著者はこの点に関して「解剖学・運動学・生理学に準拠した理学検査と治療は,5年,10年経っても決して色あせない」と確信して,長年,取り組んできた。

 本書の大きな特徴は,まず,広範囲にわたるレビューである。巻末の「付録」には36ページにわたる丁寧な「非特異的腰痛の治療理論の変遷とシステマティック・レビュー」の掲載がある。理学療法士として学ぶべき,現在までの流れを把握するには,むしろこの付録から入ることをお勧めしたい。

 次に,腰痛を理解するために,椎間板,椎間関節,仙腸関節,股関節に分類し,それぞれを「疼痛発生のメカニズム」「臨床解剖」「バイオメカニクス」として,各国の腰痛ガイドラインなどとともに綿密にレビューしている。

 そして,本著の核である評価と治療に関しても,さまざまな情報を取り入れて,バイアスがかからないような配慮がされていると感じた。腹腔内圧理論,後部靭帯系理論なども取り入れ,積極的安定化運動を中心に,より具体的にしようとする著者の苦労をうかがい知ることができる。レッドコードを用いたエクササイズとホームエクササイズは,カラー写真でわかりやすく,具体的指導に有益であると考えられる。

 特筆すべきは,「腰痛の理学療法評価フローチャート」である。自動運動での分類が主体となり観察,疼痛誘発テスト,他動運動テスト,荷重伝達テストなどが枝葉となって,それぞれの対処方法が明確化されている。このようなチャートを提示することは,逆に逃げ道もなくなるため,臨床的確信がなければなかなか書けないものだと思うが,その部分に著者の勇気を感じることができる。

 腰痛を多面的に理解するために,ぜひお薦めの書籍である。

B5・頁160 定価:本体4,200円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01971-2


《眼科臨床エキスパート》
黄斑疾患診療A to Z

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
岸 章治,吉村 長久 編

《評 者》高橋 寛二(関西医大主任教授・眼科学)

明日からの黄斑疾患の診療に直結する座右の書

 わが国の黄斑疾患学の二大碩学,岸章治教授,吉村長久教授の手による『黄斑疾患診療A to Z』が上梓された。本書は眼科臨床エキスパートシリーズの一冊として編集されたものである。

 近年,黄斑疾患学はすさまじい勢いで進歩を遂げ,また診療に携わる眼科医の数も広がりを見せている。評者が黄斑疾患の診療に携わるようになったのは1980年代後半であったが,当時,加齢黄斑変性の治療はレーザー光凝固しかなく,中心窩下新生血管を中心窩ごと凝固していた。そのころ,黄斑外来は,視力がほとんど改善しない患者ばかりを診療していたため,ひそかに「ため息外来」と呼ばれていたものである。当時,日大の松井瑞夫・湯沢美都子両先生による『図説 黄斑部疾患』がすでに出版されてはいたが,黄斑疾患の専門書はまだ少なく,加齢黄斑変性はわが国ではマイナーな疾患であった。その後,わが国でも加齢黄斑変性が増加し,疾患に注目が集まるにしたがって黄斑疾患に興味を持つ眼科医が増加し始めた。さらにOCT,抗VEGF療法をはじめとする診断・治療の急速な進歩も相まって,若い有望な眼科医たちもこぞって黄斑疾患の診療に携わるようになり,加齢黄斑変性は学会でも「華」の疾患の一つとなった。本書はこのような黄斑疾患学の進歩をひしひしと実感させてくれる新しいスタンダードテキストといえる。

 編者の岸教授は言うまでもなく,世界に名だたる硝子体「岸ポケット」の提唱者であり,他にも黄斑円孔の形成過程,光干渉断層計(OCT)による黄斑疾患の解明で世界中に名をはせておられる。一方,吉村教授は前任の信州大に教授として赴任されたころから黄斑疾患の重要性に着目され,京大に帰還された後は,わが国で唯一無比の黄斑疾患治療センターを見事に立ち上げられ,新しいOCTやAO-SLOの開発,黄斑疾患のゲノム解析など,莫大な数の新知見を次々と世に送り出してこられた。本書は,この二大碩学が,進歩の速い黄斑疾患学の最新の知識を整理するために力を込めて編集され,優秀な弟子たちとともに全編を執筆されたものである。本書を通読するとわかるが,全編にただの教科書にはない,ある種のフィロソフィーが貫かれており,非常に読み応えのある一冊となっている。本書の特徴として,(1)黄斑疾患の疾患概念と病態,診断,治療について最新の知見と診療スタイルが網羅されており,読者にわかりやすい記述が徹底されている,(2)SS-OCT,超広角レーザー検眼鏡,眼底自発蛍光など,最新の診断機器による画像によって症例ベースでの解説がふんだんに提示されており,疾患の深い理解と実臨床での診断に大いに助けとなる,(3)筆者がすべて群馬大,京大の先生方で統一されているため,両編者の目が届く状態で,統一がとれた形式で一歩踏み込んだ執筆がなされている,ことが挙げられる。

 網膜や黄斑の専門家はもちろん,これから黄斑疾患の勉強を始める若い学徒や一般眼科医にとっても,明日からの黄斑疾患の診療に直結する座右の書として,広く薦めたい名著である。

B5・頁444 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01940-8


医療におけるヒューマンエラー
なぜ間違える どう防ぐ
第2版

河野 龍太郎 著

《評 者》本田 孝行(信大教授・病態解析診断学)

安全は存在しない。だから攻めのリスクマネジメントを

 ヒューマンエラーの発生メカニズムを熟知し,ヒューマンファクター工学理論を用いたリスクマネジメントを推奨するのが本書の趣旨である。これだけでは何を言いたいのか理解しにくいが,要は,リスクを待ち受けて対処するのではなく,積極的にリスクを軽減する攻めのリスクマネジメントを行うのがよいと述べている。

 リスクマネジメントにおいて100%の安全確保が要求される限り,起こり得る全てのリスクに対処しなければならない。そうなると,リスクに対し網羅的に対処する必要が生じ,人の注意に頼る対策が多くなる。結果として,現場の人間に常に緊張を強いる受け身のリスクマネジメントが行われ,かえってヒューマンエラーの生まれる環境ができてしまう。

 攻めのリスクマネジメントを行うにはどうすればよいのであろうか。本書では,冒頭で“医療事故は必ず起きる”と断言している。さらに,“安全”は概念であり,実際には存在しないと述べている。国際標準化機構(ISO)の定義では,“安全”は“許容できないリスクがないこと”である。医療においてリスクゼロはあり得ないので,“安全”は存在しない。“完璧な安全”という概念を捨てれば,リスクマネジメントを受け身から攻めに転じることができる。“100%の安全を確保する”から“リスクを許容できる範囲に下げる”という目標に変えれば,リスクを下げるための能動的な介入策を行えばよい。医療事故が起きても,許容範囲内であればよいという考え方である。

 “リスクを許容範囲に下げる”という目標が定まれば,これを達成するために戦略を考えればよい。リスクマネジメントにも総論があり,本書ではそれを“エラーを起こしやすい環境”と“エラーに関係のある人間の特性”として説明している。

 医療事故を起こすのは最後にかかわった不幸な人であるが,その人の責任だけで医療事故が起こるわけではない。医療事故が生じるまでの過程に,多くの問題点が介在している。人は,どんなに注意しても誤りを犯すという特性を排除できないので,可能な限り人に頼らない医療事故防止のためのシステム作りが必要である。

 ただ,総論だけでは解決できない問題も多い。個々の実例を検討し,総論を補う必要がある。本書では,“ヒューマンエラー事象分析手法”で具体的解決法を示している。医療事故においても数多くの改善点が存在し,一つでも実行されればアクシデントは避けられる。常に全体(総論)を見渡しながら,個々の事例に学ぶ姿勢が重要なのは,リスクマネジメントに限らず,どの世界においても変わらない。

 実在しない100%の安全を確保するために,現場に過度の緊張と注意力を要求するよりは,戦略的にリスクを軽減するほうが効果的である。視点を少し変えるだけで,リスクマネジメントを受け身から攻めに変えられる。人は攻めるほうが,モチベーションを保ちながら力を発揮できる。ぜひ本書を精読し,ヒューマンエラーを防ぐための,攻めのリスクマネジメント手法を習得してもらいたい。

B5・頁200 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01937-8

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