医学界新聞

2014.08.25



Medical Library 書評・新刊案内


医療におけるヒューマンエラー
なぜ間違える どう防ぐ
第2版

河野 龍太郎 著

《評 者》浅香 えみ子(獨協医大越谷病院看護副部長)

人間の行動をとらえ,事故防止に向き合う

 本書との出合いは,2004年発行の初版である。本書のタイトルにある「なぜ間違える どう防ぐ」の問いに「(間違いの理由が)全部がわかっていたら,どうにかしている」「どんなに考えても,最後は自分たちが気を付けるしかない」という思いの中で出合った。

 初版では,著者が経験した航空業界を含む多様なリスク管理を医療に応用させ,医療事故の発生をシステム構造としてとらえた管理思考を提示し,さらにMedical SAFERを用いた分析手法が紹介されていた。この本で臨床に努力と根性(竹やり精神型安全と表現されている)以外の手段を取り入れることを学び,管理者としてシステムの改善により医療事故を低減するかかわりをしてきた。つまり医療事故を個人の注意不足とする方向を回避し,対策を講じてきた。

 さて,第2版である。初版との大きな違いは,エラー行動の分析の基盤に,人間行動モデルが置かれたことである。「医療事故は,人間の行動の結果である」という前提の下,人間の行動がどのように決定されるかが,行動モデルを用いて説明されている。

 さらに,人間行動の背後要因を探るとき,「人間は正しいと判断して行動する」というとらえ方が示されている。例えば「薬剤を間違えた」のであれば,「なぜ薬剤を間違えたのか」ではなく,「なぜその薬剤が正しいと判断したのか」を考えさせる。このとらえ方は,人間行動を客観的に分析する際の重要な視点となる。

 人間の「行動」「判断」ばかりを見ていると,見落としてしまう要因がある。シンプルに人間行動の背後にあるもの(判断根拠)を振り返ることで,効率的に,エラーの背後にある要因をくまなく探ることができるのである。

 臨床の事故分析では,個人を責めることを回避するために,人間の内的な側面に触れない傾向がある。しかし,人間の行動は認知が先行する以上,これを含めなければ,表層部分のみに課題を見いださざるを得ない。そこに常にジレンマがある。第2版で紹介された分析手法“ImSAFER”は,そのジレンマを軽減してくれる。なぜなら,この手法では,個人ではなく,そもそもの人間の行動を客観的に分析するからである。結果として,人間行動の深い分析が可能となり,エラーの減少,環境の改善に結び付く対策にたどりつくことができる。本書は,医療事故防止を「人間行動を含むシステムへのアプローチ」と考え,実践可能な対策を手にする考え方を学べる一冊である。

 初版発行から10年が経った今,著者は変わらず言う。「医療事故は必ず起こる」「事故が起こると,患者だけでなく医療者も傷つく」と。この言葉を含め,“はじめに”と“「おわりに」に代えて”のメッセージを,特に組織管理者に読んでほしい。医療がどれだけ保障のないシステムの上にあり,スタッフはその中でプロフェッショナルリズムを期待され,リスクと背中合わせの不安,疲労とともに医療を提供しているかが語られている。これは,著者が医療従事者ではないからこそ見えた,「医療の現実」であろう。

 その現実を見据えた著者の言葉は,“医療事故防止は「管理者が行う業務」ではない。人として事故防止に向き合うべきだ”というメッセージにも聞こえる。

B5・頁200 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01937-8


ユマニチュード入門

本田 美和子,イヴ・ジネスト,ロゼット・マレスコッティ 著

《評 者》勝原 裕美子(聖隷浜松病院副院長兼総看護部長)

「看護する自分」を再構成していくために

 テレビや雑誌で取り上げられるようになったユマニチュード。「見る」「話す」「触れる」「立つ」を基本とするユマニチュードの技にかかると,認知症の患者がいわゆる認知症らしさを取り払われ,心身の回復を遂げていく。その様子には誰もが目を見張る。

 実は,私はすでに1年ほど前に知人からユマニチュードを紹介されて興味を持っていた。高度急性期病院である聖隷浜松病院にも,認知症の患者が増えているからだ。そして,認知症患者のおむつ交換をしようとしたら突然手をかみつかれたとか,病棟内を歩き回る認知症患者が3人もいて目が離せないといった現場の声は,随所から聞こえてくる。ケアに難渋し,時には暴力を振るわれてもいる。それでも看護師たちは,相手は患者さんなので辛抱するしかないと言い聞かせ,日々認知症患者に向き合っているのが現状だ。

 本書に期待することは大きく,たくさんの付箋を用意し構えて読み始めた。しかし,書かれていることは,おおむね看護基礎教育の中で教わった「患者に向き合う姿勢」のことであった。だからといってがっかりしたのではなく,その逆である。一つずつの文章に,患者に“認知症”というラベルを貼ることで見えなくなっていた一人の“人”への向き合い方の本質が書かれている。それが素直に心に響いてきた。

 例えば,患者さんの背後から声をかけるのではなく,正面から近づき視線をつかみながら話しかけることを本書では“見る技術”と呼ぶ。これは学生時代にはとても気を使って行っていた当たり前のことである。相手が認知症であるかどうかは関係ない。人の身体や心に触れる仕...

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