医学界新聞

寄稿

2014.08.04

ACPでの日米医学生によるWeb討論会

投稿奥村 和也(島根大学医学部),加納 希生(島根大学医学部),折茂 愛子(東海大学医学部)


 2014年5月31日-6月1日に行われたアメリカ内科学会(以下,ACP)日本支部年次総会2014において,米国ワシントン大・ブラウン大の医学生と,Google+ハングアウトを用いて,キャリアや医学教育,そしてワークライフバランスをテーマにWeb討論会を行いました。

 きっかけとなったのは,2013年のACP日本支部年次総会で,支部長の小林祥泰先生(島根大)からいただいた「日米の教育制度について勉強している学生がいるが,君たちも参加してみないか」という一言でした。ただ当時は脊髄反射で「やります!」と答えたものの,ここまで大掛かりな企画になるとは思ってもいませんでした。

Live discussionの発案から当日に至るまで

 本企画を主催したのは,ACP日本支部のCAMSEという委員会です。正式名称はCommittee for Associate and Medical Student Enrichmentで,ACP日本支部における学生・研修医向けの委員会として組織されています。先生方と学生の間の距離が非常に近く,学生主体で考えたことをすぐに提案できる,そんな自由な雰囲気がCAMSEにはあります。

 以前は英語で症例検討を行う“Western Style Case Discussion”を開催していましたが,今回は「他の勉強会やワークショップではできないような,米国の学会であるACPの特長を生かした企画をしたい」という全員の共通の想いがありました。そこから「米国の学生を巻き込んだLive discussionをしよう!」という案が出てきたのは,ある意味,自然な流れだったのだと思います。

 いろいろな縁がつながり,まずは,米国シアトルにある名門・ワシントン大医学部の医学生3人との,Google+ハングアウトを使った事前Web会議から企画がスタートしました。

 シアトルとの時差は16時間あるため,準備のための事前Web会議はいつも日本時間の深夜12時,シアトルの朝8時でした。まず双方の学生がともに関心のある内容が何かを話し合った結果,テーマとして挙がったのが「キャリア」「医学教育」「ワークライフバランス」でした。次に日米双方の学生が自国の実情についての簡単なプレゼンテーションを準備し,そのブラッシュアップと当日の議論の進め方について,1回1時間以上,計4回話し合いました。話し合いの中で,米国の医学生も日本と同じような悩みを抱えているとわかったことが印象的でした。深夜という時間帯もあって,いつもテンション高めで臨んだこの事前Web会議が,振り返ってみると一番楽しかったようにも思います。

討論会で得られた気付きとは

当日の模様。日米のポリクリについて討論中!
 討論会当日は,ワシントン大の医学生3人に加えて,別の縁でつながったブラウン大の医学生2人,そして日本全国から集まった医学生・研修医20人前後,さらに日米の医師数人にオブザーバーとして参加をお願いしました。オンラインを通じて一堂に会した当日は,少しの不安と200%の期待と楽しさ,そんな気持ちを抱えての幕開けでした。セッション時間は90分。最初は日米のキャリア,医学教育,そしてワークライフバランスに関する現状説明を行い,その後自由討論に入りました。

 議論の中で得られた主な気付きは,以下の3点です。

1)日本の医学部臨床実習のよさもある!
 多くの日本のポリクリは“Bed Side Shadowing”であり,学生が主体で患者さんの診断,治療計画を行うことは少ないです。また,一つの科を回る期間が平均して1-2週間と短いですが,ほぼ全ての科を体験できます。米国の臨床実習は“Bed Side Experiencing”で学生がより主体的に診療に参加できますが,内科などの主要な科のみをローテートするカリキュラムが一般的です。実習後すぐに専門を決定するので,ローテートできない科は自らアポイントを取って別に実習する必要があり,全科を体験することはできないとのことでした。

2)日米の就業時間はイメージと逆!?
 日本人医師は働きすぎ,アメリカ人医師は余暇や家族との時間を大事にする。皆さんもそんなイメージをお持ちではないでしょうか。実は1週間あたりの平均労働時間は,日本で46.6時間1),米国で50時間台と2),米国のほうが日本より少し長くなっています。また,米国のインターン(1年目研修医)は上級医より早く病院に行き(朝4-5時出勤も珍しくない),患者さんの診察,上級医へのプレゼンの準備をすることが一般的とのことでした。

 もちろん,休暇は米国のほうが取得しやすいでしょうが(特に麻酔科と放射線科が群を抜いて休みやすい)3),想像以上に米国の医師は普段働いている印象を持ちました。ちなみに,働かないと学費などの借金を返済できない側面もあるようです。

3)アメリカの指標は面白い!
 米国の医師の「幸福度」調査4),ご覧になったことがある方はいるでしょうか。米国では専門を決める際,その結果を参考にすることが一般的とのこと。データを蓄積してそれをもとに決定するというのは,エビデンスを重視するアメリカならではの姿勢だな,と感じました。ちなみに調査では,幸福度が特に高かったのは眼科,皮膚科で,他に形成外科なども高めでした。

 終了後,アンケート形式で米国の医学生にセッションの感想を聞きました。参加の動機としては,医学生が主体となって運営していることや,他国の医療制度や医療教育・臨床研修制度を学ぶことに魅力を感じたという声がありました。セッションの進行については,Web討論会として企画したこと自体は好評価でしたが,音声システムの不具合で議論がしばしば中断したこともあって,技術面の改善が必要との意見も見受けられました。

 内容については,日米間での制度の類似点・相違点などが挙がっていました。また,両国の卒後臨床研修についてもっと深く話し合いたかったという意見もありました。概して,テーマや討論の評価は高かったものの,時間が短かったという意見が多く見られました。

あなたも学生委員会に!

 CAMSEは2014年6月をもっていったん解散しましたが,7月から新たに学生委員会が立ち上がります。すでに委員会の編成も決まりつつありますが,それぞれの世代の色を出しつつも,できれば何らかの形で「ACPでしかできないような企画」を続けてもらいたいと考えています。興味を持った方はぜひ,学生委員会の企画に参加してみてください(ご連絡はACP日本支部事務局:acpjc@cscenter.co.jp;メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください まで)。次回は皆さんが主役となって企画を立ち上げていきましょう!

●オブザーバーより一言

 今回のセッションは,私にとっても日本の教育制度の潜在的な強みを見直す貴重な機会になりました。私が米国で内科研修をした際,チームにはしばしば医学部3年生が所属しており,特に内科志望の学生には病歴聴取を任せたり,ある程度プランの立案までさせることもありました。毎日新しいUpToDate®の記事や総説などを読んでくる学生も多く,自分の学生時代と比較して,米国の医学部教育はずいぶんよくできていると感心していたものです。

 今回のセッションを通し,日本の教育制度が米国の医学生にどのように映るのか知ることができ,(米国と比べて)自由時間が多く評価が厳格でない点,多くの診療科に曝露される機会が確保されているなど,キャリア選択の自由度が高い点,一人前の医師になるまでの経済的負担が少ない点などは強みたり得ると感じました。昨今,医学生による自発的・内発的な勉強会が複数の大学をまたいでさかんに開催されているのも,そのよい例ではないでしょうか。他国のよい点を取り込む際に,現行の制度の長所とどのように折り合いをつけるのかという議論を今後より深めていければと思います。

(大雄会クリニック総合内科・飯村傑)

 私のような「医学教育を科学する」立場から見ると,日本の医師・医学生には「米国の医学教育は日本のそれよりも優れている」ことが身体化されているように感じます。そもそもACP日本支部という構造もそうですよね。ただ現在,医学教育学の研究者としてアジア・欧州などで国際的に活動するようになってわかったことは,「(単純な)米国からの輸入」は早く卒業したほうがよいということ。もちろん「いいものはいい」ので米国に学ぶことも多いですが,グローバル化が進む現在はむしろ「日本から世界に何を発信するか?」が求められています。医学生・研修医の皆さんには,ACP日本支部という「窓」を通して,ぜひ国際社会に貢献できる医師になってもらいたいと思っています。

(京都大学医学教育推進センター准教授・錦織宏)

文献
1)労働政策研究・研修機構.勤務医の就労実態と意識に関する調査.(accessed on June 20, 2014)
2)Dorsey ER, et al. Influence of controllable lifestyle on recent trends in specialty choice by US medical students. JAMA. 2003;290(9):1173-8.
3)Medscape. Physician Lifestyle Report 2014. (accessed on June 20, 2014)
4)Medscape. Physician Lifestyle Report 2014. (accessed on June 20, 2014)


奥村 和也
島根大医学部医学科5年生。ACP日本支部CAMSE2014代表を務めた。現在は,現5年生の全国医学科生の会「Resident 16」の代表として「2016年3月,8000人での卒業式!」を目標に奮闘中。愛称:インディ。連絡先:indy0723kazuya@gmail.com;メールを送る際,@は小文字にしてご記入ください

加納 希生(きお)
島根大医学部医学科5年生。 大学院時代に宇宙工学分野で研究(火星探査機の開発)に従事した後,総合商社に入社。3年の営業職を経て2012年島根大に学士編入。

折茂 愛子
東海大医学部医学科5年生。英国で医療経済学修士を取得後,金融業界で働くが医師を志すため帰国。2011年東海大へ学士編入。

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