医学界新聞

対談・座談会

2014.08.04



【鼎談】

診断に迫る“勘”を養うために

宮城 征四郎氏(群星沖縄臨床研修センター長)
藤田 次郎氏(琉球大学大学院感染症・呼吸器・消化器内科学(第一内科)教授)
本村 和久氏(沖縄県立中部病院 プライマリケア・総合内科)=司会


 症例検討の場で,先輩医師が鮮やかに診断を絞り込んでいく過程にあこがれを抱く研修医の方も多いのではないでしょうか。一発診断に至る過程で披露される,一見華やかな“ひらめき”や,さえ渡る“勘”。しかしその背景には,情報をどのような形で集め,どう分析していくかというプロセスの確立や,経験したことを復習し,自分のものにして次回に活かしていくという,地道な作業が存在しています。

 本鼎談では,このほど刊行された『Dr.宮城×Dr. 藤田 ジェネラリストのための呼吸器診療勘どころ』の著者で,優れた臨床家である宮城征四郎氏,藤田次郎氏に,鑑別診断の思考過程について考察を重ねてきた本村和久氏が,正しく診断に迫る“勘”を養うために何を知り,何を学ぶべきかを問いかけます。


本村 お二人のご著書『ジェネラリストのための呼吸器診療勘どころ』を拝読しました。特に印象的だったのが,CASE10「若年者に発症した急性の呼吸困難で何を考えるか」でのやりとりです。21歳の男性で,発熱,初めての呼吸困難,というキーワードから,宮城先生が真っ先に急性好酸球性肺炎を鑑別に挙げ,結果的にそれが的中しておられるんですね。

藤田 今年2月の沖縄県臨床呼吸器同好会でも,同様のことがありました。子宮頸がんの化学療法を受けていた62歳の女性患者さんが下痢と嘔吐を主訴に入院され,臨床的には腸閉塞を疑っていました。当科の医師がプレゼンテーションで「腹部の聴診にて金属音がある」と示した瞬間,宮城先生が「糞線虫症だ」と指摘したのです。もちろん腹部単純X線を見る前に,ですよ。あのご指摘は,非常に衝撃的でした。

宮城 沖縄にはHTLV-1という,成人T細胞白血病の原因ウイルスを持っている人が多い。そして糞線虫症は,HTLV-1を持つ人に発症しやすい。さらに糞線虫は,腸管閉塞と非常に似た身体所見を示すけれど金属音を出す,ということは,沖縄で医療をしている者にとっては常識なんです。ヒストリーを聞く限りだと腸管閉塞と糞線虫症,どちらも可能性があると思っていましたが,金属音なら糞線虫症だなと。

藤田 「糞線虫過剰感染症候群に合併した急性呼吸窮迫症候群」の症例でした。当科の医師が準備万端で臨んだのに,宮城先生の「天の声」で,腹部身体所見のみで正確な診断名を指摘されてしまったわけです(笑)。

本村 私も,宮城先生のもとにいた者として,「天の声」という表現にはまさに同感するところです。そうした“勘”,“ひらめき”がどんな経緯で生まれるのか,正しく診断の絞り込みを行うには何を基礎とすべきか”,本日はお伺いしたく思っています。

BMIから浮かび上がるイメージ

宮城 症例検討の際,プレゼンテーションの担当者に必ず渡すのがこのです。まず重要なのが,どういう患者さんなのかイメージしやすくすること。特にポイントになるのが(1)の「BMI」です。普通,カンファレンスでは省略しがちな情報でしょう。

 プレゼンテーションの順序
(1)症例ID,性別,年齢,身長,体重,BMI
(2)主訴
(3)現病歴
(4)既往歴
(5)家族歴
(6)生活歴,個人歴
(7)Review of Systems(系統的レビュー)
(8)生命徴候(バイタルサイン)
(9)身体所見
(10)問題点の整理
(11)各問題点ごとの鑑別診断(“most likely”,“likely”,“less likely others”に分け,最も考えられる病態から挙げる)
(12)鑑別診断に沿って簡単な検査結果から順序よく挙げる(病態の約7割はここで見当がつく可能性が高い)
(13)臨床診断(overall clinical diagnosis)      
(14)臨床計画:診断学的,治療学的,患者教育

本村 確かにそうですね。

宮城 でも,BMIがわかればある程度体型が想像できますし,例えばBMIが35なら,それだけでいわば肥満という“病気”です。ここから,ずいぶんいろいろなことが学びとれるわけです。

藤田 身長と体重とBMI,そして年齢・性別がわかるだけで,患者さんのイメージがフワーッと浮かんでくる。これは私も,宮城先生と一緒に勉強させていただくようになって気付いたことで,非常に参考になっています。

 例えば同じインフルエンザウイルス感染症を想定しても,BMI 16の人なら免疫抑制状態であると理解し,二次性細菌性肺炎に留意することが重要となります。一方,BMI 35の人なら,サイトカインストームを予測してステロイドの早期投与を考えねばならない。すなわち体格によって診断,および治療方針も大きく異なるので,その点から考えても,まずBMIを示すというのは理にかなっています。

 もう一つ,診断を絞り込む上で宮城先生が重要視されているのが「時間経過」です。(2)の「主訴」を示す際に,単に「咳,痰」とするのではなく,「3か月前からの湿性咳嗽」のように,時間経過の視点を加えるのです。

本村 時間軸は,最も診断に結びつきやすい情報だと言われますものね。

宮城 あとは,重症度も忘れてはいけません。一口に呼吸困難と言っても,労作時か,安静時かで全く重症度は異なりますし,VAS(Visual Analog Scale)で必ず示してもらうこと。そうすれば,イメージも膨らみやすいでしょう。

藤田 「救急車で来たのか」それとも「歩いてきたのか」といった情報があるとなおいいですね。患者さんの重症度をイメージしやすくなります。

 (1)の5項目から患者像がイメージされ,そこに時間経過を加えた主訴が加われば,その時点でほぼ鑑別診断が絞り込まれる。私自身,病棟回診時に,主治医に身長・体重・BMIと主訴を最初に呈示するよう求めています。毎週40人ほどの患者さんを回診するのですが,これらの情報のみで,大半の患者さんの診断名を指摘することが可能となります。

患者さんの生活の全てを知ろうとする姿勢で

本村 (6)の「生活歴,個人歴」も,診断を絞り込むためには重要になりますよね。

宮城 はい。病気というのは,その人の生活ぶりがバックグラウンドにあって発症してくるものですから,生活の全てを詳細に聴取しておくような姿勢が大事だと思いますね。

 冒頭のCASE10を例にとれば,若い人が急性の呼吸困難を来したなら,喫煙など何らかの誘因があるはずです。本人が吸わなくても,友達が皆ヘビースモーカーで,もくもくした煙のなかでマージャンを楽しむような趣味があるかもしれない。

 また,例えばオーストラリアに新婚旅行に行き,羊の分娩体験をした夫婦が帰国後発熱したなら,Q 熱は鑑別から外せないでしょう。

 そういう背景事情を細かく聴取していくことで,それとなく考えていた診断が裏打ちされ,はっきりとしたかたちで現れてくるのです。

本村 糞線虫の例のように,居住地域の独自性を頭に入れておくことも求められますね。

宮城 ええ。例えば沖縄では,レプトスピラ症を知らずに臨床はできないくらいですが,本土には少ない。逆にツツガムシ病は沖縄ではめったに診ませんが,新潟,山形あたりでは結構経験します。世界から見れば狭い日本の国土でさえ,北海道から沖縄まで直線にすればかなりの距離があり,気候風土差も大きい。95%は全国共通の知識でカバーできるかもしれないけれど,残りの5%は,その土地のことを知らないと埋められないのです。

藤田 HTLV-1のキャリアも,本島には多いけれど宮古島ではその頻度は低い,といったように,沖縄という一つの県の中でさえ,存在するウイルスの種類が異なる場合があります。

宮城 ただこういうことは,30年,沖縄で医療をしてきたからこそわかるところがあるのも確かです。若い人にはちょっと難しいかもしれないね。

本村 ある程度経験を積んでこそ導かれる“勘”かもしれません。

病歴,身体所見,簡単な検査で7割は診断できる

宮城 今すぐにでもできることを言えば,基礎的な検査を怠らないことです。沖縄県立中部病院では,救急室でもICUでも,痰が出る人にはグラム染色とチール・ネルゼン染色をルーティンで義務付けています。

本村 ええ。グラム染色の習慣が身についていたおかげで,離島の診療所に行った際にはとても助かりました。

宮城 そう。離島のような場所でこそ,とっても活きる検査なんです。チール・ネルゼン染色にしても,99%ネガティブだからといって,スキップしてあたかも検査したかのごとく報告する“要領のいい人”がたまにいますが,後で上級医が診たらガフキーが10号で,大問題になることがある。記憶にあるでしょう。

本村 はい。

藤田 確かに,喀痰の抗酸菌染色をスキップして画像のみで判断すると,後々痛い目に遭うことがありますね。高齢者の肺炎様陰影で,抗菌薬で改善しないために器質化肺炎を疑ってステロイドを投与すると,その後に結核菌が大量に検出されたりするのです。

宮城 専門家になるほど,基礎をおろそかにして画像や侵襲的な検査で判断しようとしがちになります。けれど医師である以上は,臨床医学の基礎を大事にしてほしいですね。僕自身,患者さんの5割程度はヒストリー・テイキングで判断がついています。身体所見や簡単な検査も含めれば,おそらく7割くらいの患者さんを診断できるでしょう。

本村 基礎を大事にするだけで,相当数の患者さんの診断がつくということですね。

宮城 あとの3割は,特殊なアプローチをしないと診断がつかない例ですが,症例検討の目的は,そういう希少な疾患を当てることをめざす“シマウマ探し”ではありませんから。

藤田 宮城先生は「最終診断を当てることは必要ない。診断に至るまでの過程が重要」とおっしゃいますよね。

宮城 ええ。基礎をきちんと踏まえて,最終診断に持っていくまでの経緯を固めることのほうが大切です。

本村 インフルエンザやオウム病など,コモンディジーズといわれる疾患こそ最終診断にたどり着くことは難しかったりするもので,それが臨床診断の奥深さのゆえんでもあります。“シマウマ探し”に走らず,よく診る疾患を確実に鑑別できるよう基礎固めをしていくというお考えは,納得できるところです。

■臨床の“アート”を“サイエンス”へと昇華

藤田 沖縄県立中部病院を見習い,琉球大学医学部附属病院でもルーティンでグラム染色を義務付けています。おそらく沖縄県全域のほぼ全ての基幹病院で,グラム染色が実現できている状況にあるはずです。米国のプラクティカルな臨床医学を早くから取り入れたからこそ,これほどのグラム染色の普及率を達成できたと感じています。

 逆に米国では今,研修医がグラム染色を行わなくなっており,『Clinical Infectious Diseases』誌に“米国にグラム染色がなくなって,感染症診療が物足りない”という趣旨の論文が載ったこともあります。それに対して岩田健太郎先生(神戸大大学院)が「東洋の沖縄県にはグラム染色の文化は残っている」とコメントされ,面白いことに中部病院を“ガラパゴス・ホスピタル”と紹介しておられます(Clin Infect Dis. 2004.)。

宮城 独自路線をとって有名になったわけですからね。基礎的なことをきちんと受け継いでいく伝統を保っているのは,やっぱり素晴らしいことですよ。

 でも,“ガラパゴス”のままで満足していてはいけない。良い医療のやり方を沖縄だけにとどめず,むしろ全国に発信し,広げていくのが理想です。ですから藤田先生が沖縄に来てくれて,プラクティスに偏りがちだった私たちの医療を,論文や書籍など,アカデミックなかたちで広めてくださっていることは,本当にありがたいと思っているんです。

本村 宮城先生をはじめとして,沖縄で培われてきた臨床の“アート”を,“サイエンス”に昇華しておられるのが,藤田先生というわけですね。

藤田 貴重な症例も,診断に至るまでの臨床のコツも,記録に残さなければ,まとまることなく埋もれていってしまいます。私は幸い,若いころから論文を書くトレーニングを積んできて,文字にすることが苦ではありません。わが国のさまざまな地域のジェネラリストに,沖縄のプラクティカルな医療の在り方を伝えていきたいですし,それは巡り巡って,沖縄の医療への貢献にもつながるのではないか,そう考えて記録を続けています。

復習こそが,“勘”を育てる

藤田 ずっと研究会の記録を取っていて思うのですが,宮城先生の“勘”は以前に比べてますますパワーアップされていますね。

宮城 そうですか。やっぱり,復習をきちんとしていますからね。復習を必ずして,次回は間違えないようにする。僕が間違えると,研修医がワーッと喜ぶから,わざと間違えたりすることもあるけどね(笑)。

 医師になるような,勉強のよくできる人は,子どものころから「予習が大事」と言われて育っているでしょう。しかし,臨床というのは次に来る患者を予測できない。予習のできない唯一の学問なんですよ。では,どうすればいいかというと,復習することです。それが次に来る症例の予習になる。その日に診た症例について毎日コツコツ復習する,その積み重ねが大事なんです。

本村 それが,臨床の“勘”を育てるコツだと。

藤田 今でも,回診で知らない症例が出てきたら,帰ってからUpToDate®で勉強されておられるのでしょう。

宮城 中部病院にいた64歳までは呼吸器を専門に診ていればよかったけれど,群星沖縄に移ってからは,ジェネラルを学ばないと教育回診ができなくなりましたからね。僕の呼吸器以外の知識の大部分は,UpToDate®による復習で培われているんです。

本村 どの領域の症例が飛び出すかわかりませんし,さぞ大変だったのではないですか。

宮城 でも,医師人生の後半にこんなに多くを学べて幸せだったと思いますよ。今は中途半端ながらジェネラリストとして毎日教育回診をしていて,呼吸器の症例はほとんど診ないくらいですが,毎日楽しいですね。

藤田 そういう学びをより確実にするには,やっぱり記録に残すことだと思います。貴重な症例を経験しても,そのままでは記憶は薄れていきますから,病歴要約として,もし可能であれば症例報告としてまとめることが重要です。記録を積み重ねることで,こういう症例ならこういう所見があるはず,こういう画像になるはず,という予測ができるようになります。

 ただし1人が経験できる症例数には限界がありますから,沖縄県臨床呼吸器同好会のように多くの先生方が集まって,症例を共有し,さらに論文化する。同様の症例を集積していけば,復習に役立つのみならず,新たな疾患概念を提唱できる可能性さえあります。

宮城 一つひとつの症例について,ヒストリーやフィジカルなど臨床の基礎に忠実なアプローチを心掛け,鑑別診断に持ち込む。皆でディスカッションしてプロセスを振り返り,学びを得て,それを記録に残す。そういう一連の流れこそが臨床の醍醐味であり真髄だと僕は思いますし,“勘”を養う基礎になるのではないでしょうか。

本村 ありがとうございました。

(了)

◆鼎談を終えて(本村和久)

 お二人の卓越した臨床能力は,とうてい追い付くことのできないような名人芸の域にあるが,その基礎は地道に医学教育を行ってきた歴史にあることが実感できた鼎談であった。また,名人の域に達しても,慣れ親しんだ専門領域にとどまらず,カンファレンスを振り返り,教科書や文献でさらに臨床の幅を広げる不断の努力をされている姿はまさにreflection on action(行為に基づく省察)1)を実践されていると感じた。鼎談での一発診断のエピソードは「熟慮に基づく直感」と言えるのではないか。認知心理学では,情報処理,推論といった過程に直感的なもの(「システムI」)と熟慮による分析的なもの(「システムII」)の二つが関係するという二重過程理論で説明することがあるが2),熟慮と直感が織り成している思考過程をこの鼎談で実感できたように思う。知的好奇心を刺激するこのような場に参加でき,とても光栄に感じた。

1)Schön DA. The Reflective Practitioner: How Professionals Think in Action. Ashgate. 1994.
2)J Pers Soc Psychol. 1992 [PMID: 1556663]


宮城征四郎氏
1964年新潟大医学部卒。京大大学院(単位取得後中退。その後同大より医学博士号取得)を経てデンマーク・コペンハーゲン大Rigs Hospital,米国Colorado General Hospitalに留学。72 年より沖縄県立中部病院勤務,96 年同院院長,2004年より現職。日本有数の臨床家であると同時に,教育者として多くの優れた臨床医を育ててきた実績を持つ。今春,藤田氏との共著として『JIM』誌の連載をまとめた『Dr. 宮城× Dr. 藤田 ジェネラリストのための呼吸器診療勘どころ』を刊行した。

藤田次郎氏
1981年岡山大医学部卒。虎の門病院内科レジデント,国立がんセンター病院内科レジデントを経て,85年米国ネブラスカ医大呼吸器内科に留学。帰国後,香川医大(当時)医学部附属病院助手,講師を経て,2005年より現職。宮城氏監修の『呼吸器病レジデントマニュアル』(医学書院)ほか編著書多数。宮城氏と共に沖縄県臨床呼吸器同好会の代表世話人を務め,毎回のカンファレンスの様子を記録。現在も『JIM』誌にて連載を継続している。

本村和久氏
1997年山口大医学部卒。同年より沖縄県立中部病院プライマリケア医コース研修医。県内の離島にある伊平屋診療所勤務を経て,沖縄県立中部病院で内科後期研修に従事。同県立宮古病院,王子生協病院などを経て,2008年より現職。ジェネラリストとして,研修医へのプライマリ・ケア教育に携わっている。