医学界新聞

寄稿

2014.07.28

【視点】

医療機関と就労支援機関の協働で,精神障害者の就労を支える

前原 和明(障害者職業総合センター)


精神障害者の雇用が推進されている

 わが国では「障害者の雇用の促進等に関する法律」にて障害者雇用が推進されている。特に近年,精神障害者の就業促進の機運は高まり,2006年に精神障害者雇用率の算定が開始されてから,求職登録および就職件数は大幅に増加している。13年4月からは企業に対する障害者の雇用義務割合である法定雇用率は1.8%から2.0%へと引き上げられており,18年には精神障害者の雇用義務化と法定雇用率のさらなる引き上げが予定されている。

 就労は回復のきっかけになり得るものだが,逆に体調を崩すきっかけにもなり得る。そのため,就労支援機関は,自分たちが行う就労支援によって生じる,医療的なケアへの正負の影響を常々気にかけている。こうした中,医療機関から得られる指導・助言は心強く,自信を持って就労支援に臨むことにもつながる。そういう意味では精神障害者の就労希望を叶え,障害の悪化を防ぐためには,医療機関と就労支援機関の協働は欠かせず,車の両輪のような関係であることが望まれるのだ。本稿では,就労支援機関がどのようなかかわりを行っているかを提示することで,医療機関の方々との協働の方向性を共有したい。

就労支援機関が行う支援の実際

 就労支援では,就業前の職場外訓練だけでなく,実際に働く企業での質の高い職場定着支援も重要になってくる。職場では,上司・同僚とコミュニケーションをとる必要もあれば,自分一人で進めていかねばならない作業もあるだろう。これらを精神障害者が円滑に,かつ自信を持って仕事に取り組めるよう,職場環境・業務手順を整理し,フィードバックする支援も欠かせない。こうした支援と合わせ,症状とストレスを職務との関連性からモニタリングできるよう支援することが,病気を抱えながら働く人々を支える重要なポイントとなるのだ。人的・物理的・作業的環境を整理するアプローチがうまくいくと,精神障害者の職場定着期間の延長にも資すると実感している。

 なお,このような就労支援を実際に行う上で有効活用したいのが,就労支援を担う職業リハビリテーション機関である地域障害者職業センター,ハローワーク,障害者就業・生活支援センターだろう。これらの施設は有機的に連携し,「職業準備支援」「ジョブコーチ支援」「トライアル雇用」などのサービスを提供している。

 個々について解説する。まず「職業準備支援」は地域障害者職業センターが担うものだ。模擬的就労場面の実習と講習を組み合わせることで,実際の職場で求められるストレス・疲労のセルフマネジメントと,求職活動に必要なスキルの獲得などをめざす。「ジョブコーチ支援」も地域障害者職業センターが中心となって行うサービスである。ジョブコーチと呼ばれる専門職が企業への環境調整と障害理解の支援,本人への作業習得と人間関係の相談といった具体的な支援を職場の中で行っている。また,「トライアル雇用」はハローワークが実施するもので,企業側の障害理解と本人側の職場への慣れを目的に,数か月程度,助成金に基づいて“お試し雇用”をする制度である。このようなサービスをうまく活用していくことで,精神障害者の就労支援を実現している。

 就労支援機関の中には,医療機関とのコミュニケーションに苦手意識を持ち,十分な交流を図ることができていない機関も多い。医療機関に勤める読者に,就労支援機関が行っている精神障害者への支援についてご理解いただくことで,就労支援機関との協働を生むきっかけになれば幸いである。


前原 和明
2004年島根大大学院教育学研究科臨床心理分野修了。臨床心理士。05年より「障害者の雇用の促進等に関する法律」に基づいて設置された地域障害者職業センターにて障害者職業カウンセラーとして勤務。14年より現職。

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