医学界新聞

寄稿

2014.07.14



【寄稿】

薬剤師のジャーナルクラブ
インターネット上でのEBM学習の場を提供する試み

青島 周一(徳仁会 中野病院/薬剤師)


薬剤師のEBM教育の現状

 EBM(Evidence-based Medicine)とは(1)疑問の定式化,(2)問題についての情報収集,(3)得られた情報の批判的吟味,(4)情報の患者への適用,(5)一連の流れの評価,という5つのステップによる臨床行動スタイルです。薬剤師にとってEBMは,薬剤情報提供業務,服薬指導,疑義照会,OTC医薬品や健康食品の取り扱いなど,臨床における「答えのない疑問」に対するツールとして有用なだけでなく,忙しい日常業務の中でも継続して学習を続けるための方法論としても意義のあるものです。

 薬学部が6年制となり,「薬学教育モデル・コアカリキュラム」にはEBMの基本概念や統計学,臨床研究に関する項目が設けられ,学部教育でEBMの手法を学ぶ機会は増えているようです1)。ただ,医療薬学における医薬品情報分野の一部として位置付けられているにすぎず,実際の患者を目の前に,「臨床判断ツールとしてのEBM」を学習する機会は質,量ともにばらつきがあるように思います。

 そのため,定期的な医学論文抄読会開催やEBMワークショップ等,EBM実践のために必要な教育は,卒後研修の担うべきところが大きいのですが,「薬剤師による薬剤師のための」継続的な抄読会やワークショップはまだまだ普及していない印象です。特に1店舗当たりの勤務薬剤師数も少ない薬局薬剤師では,複数人の薬剤師が集まり抄読会を継続的に開催するのは困難なことも多いです。さらにEBM実践の批判的吟味で用いるべき臨床医学論文の情報の多くは英語で書かれており,英語を苦手とする薬剤師には大きな壁となっています。

ジャーナルクラブ誕生の瞬間

 筆者自身,「慢性閉塞性肺疾患(COPD)の患者にチオトロピウムのミスト吸入薬を使用することで,呼吸機能は改善するかもしれないが,死亡が増えるかもしれない」という文献2)に出会い,大変な衝撃を受けました。医薬品が今現在の症状を改善するかどうかを考えるのみで,ヒトの一生にどのような影響を与え得るのかという「真の効果」を何も知らないまま業務を行っていたことに気付かされたのです。このような衝撃を多くの薬剤師と共有し,議論したいという思いが強まる一方で,実現は難しそうだとも感じていました。

 そんななか,2013年9月6日に,桑原秀徳(瀬野川病院),山本雅洋(ありす薬局),そして筆者という3人の薬剤師によるツイッター上でのやり取りの中で,「インターネット上でEBM学習の場を提供できないか」という話で意気投合しました。そして,抄読会から得られる考察をスカイプ通話者3人だけで共有するのではなく,日本全国の薬剤師と共有したいという結論になりました。このやり取りから生まれたのが,「薬剤師のジャーナルクラブ」です。

仮想症例シナリオを設定し,論文の臨床での適用を議論

 臨床医学論文抄読会をインターネット上で公開することで,日本全国の薬剤師が誰でも気軽に医学論文の批判的吟味を体験することを可能にする。また,実際の患者へどのように適用させていくかを考察しながら,EBMの手法を学ぶ機会を提供する。これが「薬剤師のジャーナルクラブ」設立の目的です。

 抄読会においては,論文の批判的吟味に終始するのではなく,仮想症例シナリオ(表1)を設定し,論文の結果を実際にどう臨床で取り扱うかの議論を行うことを重視しました。そして,医学論文に対する敷居を極力下げながら,EBM実践のために必要な最低限のスキルを習得できるような,「論文抄読会を主軸としたEBMスタイル研修プログラム」をめざしました。

表1 仮想症例シナリオ(第3回抄読会より)
 あなたは薬局で勤務する薬剤師です。喘息の治療で通院している30代の男性患者さんから質問を受けました。

「今年の春に喘息の状態が悪くなってから,今までのステロイドの吸入から,2つの成分が配合されたこの吸入薬(...

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