MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2014.05.26
Medical Library 書評・新刊案内
安酸 史子 監修
志田 祐子,平 尚美 編
《評 者》南 裕子(高知県立大学長)
長年培われた防衛看護の知識体系に引き込まれる
「看護師たる自衛官を『看護官』と呼ぶ」,という著者の冒頭の文章に新鮮な衝撃を受けながら読み続けるうちに,自衛隊の中で長年の間培われてきた防衛看護の知識体系に引き込まれました。自衛隊の任務を遂行する看護官の果たす役割の明確なことに舌を巻くと同時に,災害看護の組織化という点でも,示唆に富む経験知が豊かにあると感じました。
第一に,本書の第1章が「災害看護」であることです。「災害看護」に続いて「国際平和協力活動における看護」「戦傷病看護」「健康管理」「メンタルヘルス」と章が並ぶのですが,基本的に防衛看護の知識体系は,われわれのいう広義の災害看護なのだということがわかります。加えて,災害看護の観点から見ると,視野が広がる内容が含まれています。
第二には,組織内での看護の役割が見えることです。阪神・淡路大震災以後,災害時の自衛隊の活動は日本においては重要な役割を果たすことが一般人にわかってきましたが,その中の看護の役割についてはあまり知られていないように思えます。この本を読むと,自衛隊の構造と機能がわかるとともに,災害時,有事,平時の看護官の役割が見えてきます。
看護は組織の中でいつも隠された存在になりやすいのですが,本書によって自衛隊の中の看護の見える化が促進されると思われます。例えば,看護官は,自衛隊員等関係者と地域住民に区別して対象をとらえています。自分が所属する組織の人々を看護の対象としてしっかりととらえているところは新鮮でした。
第三には,自衛隊の看護官たちが培ってきた看護の考え方とノウハウが具体的に書かれてあることです。抽象論にとどまらず,制度や体制の中で看護がどの立ち位置にあるのかが見えてきます。「国際平和協力活動における看護」や「戦傷病看護」は,他の看護の教科書には見られない内容です。
さらに興味深いのは「健康管理」の章です。災害看護の現場では当然支援者の健康管理が大事ですが,自衛隊における健康管理はかなり組織的に定義されていて,具体的に何を意味するかがわかります。例えば,隊員の衛生教育について,教育目標分類学の認知領域,情意領域,精神運動領域の枠組みを一般の看護同様に用いていますが,情意領域の「価値づけ」では「中隊長は,訓練の合間であっても,隊員の『DOTSによる結核薬内服』に関する権利を擁護する」という明確な目標例を出しています。
本書にまとめられたこの知識体系は,自衛隊関係者や自衛隊の看護教育機関で活用されるだけではなく,看護界全体にとっても意義があるものと考えます。
B5・頁180 2013年12月 定価:本体3,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01916-3


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