FAQ アトピー性皮膚炎(椛島健治)
寄稿
2014.05.19
【FAQ】
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
今回のテーマ
アトピー性皮膚炎
その病態と今後の治療戦略の可能性について
【今回の回答者】椛島 健治(京都大学大学院医学研究科 皮膚科 准教授)
アトピー性皮膚炎(atopic dermatitis ; AD)において,皮膚バリア,免疫・アレルギー,かゆみという3つの要素が互いに連動しながら発症に関与することが明らかにされつつあります(図1)1)。また,これら3つの要素はAD患者の個々人により占める比重が異なります。例えば,フィラグリンの遺伝子変異は,AD患者の2割ほどに過ぎず,ストレスによる掻破,汗,金属アレルギー,乾燥した環境などのさまざまな因子が発症に関与しています。したがって,AD患者の個々人においてどの要素が病態形成の重要な要素になっているかを勘案することも重要となります。個人ごとの病態形成過程をこうした観点から説明することが,治療におけるコンプライアンスの向上にもつながると期待されます。
図1 アトピー性皮膚炎発症機序における皮膚バリア,免疫・アレルギー,かゆみの三位一体論(文献1より) |
■FAQ1
ADの発症において皮膚バリアの破壊はどの程度重要なのでしょうか? また,治療はどのようにすればよいのでしょうか?
AD発症における皮膚バリアにおいては,エアコンの使用などによる乾燥した環境や石鹸の多用などの外的因子の関与が知られていました。また近年は,フィラグリン遺伝子の変異によるAD発症の関与が注目されています2)。
フィラグリンは顆粒層のケラトヒアリン顆粒内で合成されます(図2)。1つのプロフィラグリン遺伝子から脱リン酸化により10-12個のモノマーが合成されます。フィラグリンモノマーはケラチン線維の収束のみならず,さらに分解されると天然保湿因子として角質水分量保持やpHの低下に作用します。そのため,ADの患者の皮膚は健常人に比べてアルカリ性に傾いていることが知られます。AD患者におけるフィラグリン遺伝子の異常の頻度は約2-3割といわれていますが,遺伝子に異常がないAD患者においてもフィラグリンの発現が低下していることが明らかとなっています。
図2 フィラグリンの概説 |
現在は皮膚バリアに対しての治療薬は,ワセリンやヘパリン類似物質や尿素軟膏が中心です。将来的にはフィラグリン発現の亢進を促すような積極的なバリア機能修復薬の開発が期待されています3)。
Answer…皮膚バリア機能の破壊はADの根本原因の一つと考えられています。皮膚バリア機能を制御することで,ADの予防や再発防止につながることが期待されます。
■FAQ2
ADにおいて免疫・アレルギー異常はどのように引き起こされるのでしょうか?
皮膚バリア破壊は,抗原の皮膚への侵入につながります。生体は,免疫システムを介して非自己を排除する方向に進みます。その結果,アレルギー反応が誘導されることになります。ADにおける免疫反応は,Th2が主とされており,そのためTh2細胞のケモカインであるTARC/CCL17の血清中の濃度がADの病勢を反映することも知られています。ただし,近年は,Th17などの関与も指摘されています。
タンパク抗原曝露の際には,ダニや花粉に含まれるプロテアーゼがprotease-activated receptor(PAR)-2に作用し,表皮角化細胞からのthymic stromal lymphopoietin(TSLP)の発現を誘導します。そして,TSLPがランゲルハンス細胞に作用すると,曝露された抗原に対するTh2型免疫反応を介してIgEが誘導されます4)。このように経皮感作はIgEの上昇を誘導しやすいことから,ADのみならず,喘息や食物アレルギーなどの他のアレルギーの根本原因の一つとも考えられています。
一方,ハプテンやペプチドのような抗原に曝露された場合には,IgEの誘導に好塩基球が関与することも知られています5)。好塩基球にはTh2サイトカインであるIL-4を産生し,抗原提示能があることがマウスの実験で示され,今後役割の詳細な解明が待たれます。
免疫・アレルギーにお...
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