医学界新聞

インタビュー

2014.04.21

【interview】

地域・多施設が一丸となって取り組む新人看護職員研修
石垣 靖子氏(北海道医療大学客員教授 )に聞く


 2010年4月に新人看護職員研修が努力義務となってから4年。13年11月から14年2月まで計4回にわたり,「新人看護職員研修ガイドライン見直しに関する検討会」が開催され,このたび改訂版が出された。本紙では,検討会の座長を務めた石垣靖子氏(北海道医療大客員教授)に,見直しのポイントと,議論を踏まえ見えてきた新たな課題,今後,新人看護職員研修がめざす方向性などについて聞いた。


――新人看護職員研修ガイドライン(以下,ガイドライン)策定から4年が経ちました。あらためて策定の経緯をお話しください。

石垣 ガイドラインは,当時の医療をめぐる社会状況を踏まえて作られました。少子高齢化により,ケアを受ける高齢者が急増する中,新人看護職員の高い離職率が続いていた。その一つの要因として,基礎教育で学ぶ実践能力と,臨床で求められる実践能力の乖離が挙げられます。

 また,医療安全に対する国民の意識の高まり,多重課題への対応など,新人看護師を取り巻く非常に過酷な状況があります。かつてはもう少し時間をかけて新人を育てられたのですが,昨今の臨床の繁忙さから,新人にも能力以上のことが求められるようになってきている。まだ実践能力に乏しい新人と,そこをゆっくり待てない臨床現場のミスマッチが,結果として高い離職率につながっていました。

 そこで,国も危機感を持って動き出し,2010年,ガイドラインの策定に至ったわけです。09年に「保健師助産師看護師法」(保助看法)と「看護師等の人材確保の促進に関する法律」(人確法)が一部改正されて,新人看護職員研修が努力義務になりました。それもガイドラインの策定と普及の大きな後押しになったのです。

――その後の4年間で,新人看護師を育成する施設はどのように変わりましたか。

石垣 検討会構成員の佐々木幾美先生(日赤看護大)の調査によると,研修が充実した,あるいは今まで研修を行っていなかった施設が研修を始めたという成果が見られます1)。また,新人看護職員研修を自施設単独で行えない場合に,外部組織と連携して研修を行う「医療機関受入研修事業」「多施設合同研修事業」などの,実施件数も増えています()。ガイドラインを作ったことで,全国の施設に新人育成を促す大きな動機付けを与えることにつながっていると思います。

 2011-12年度 新人看護職員研修事業実施状況2)
*2011年度結果は実績報告。2012年度結果は交付決定ベース。

――離職率についてはいかがですか。

石垣 離職率は低下傾向にあります。2000年代,新人看護職員の離職率は9%台で推移していました。それが10年度8.1%,11年度7.5%,12年度は7.9%と変化が見られます。もちろん,日看協がこれまで取り組んできたワークライフバランスの改善など多くの要因が積み重なった結果ですが,ガイドラインも貢献しているのではないでしょうか。

「学校で習ったことが役立つ」と新人に気付かせる指導を

――ガイドラインの基本方針には,「新人看護職員研修は,常に見直され発展していくものである」と書かれています。初めての見直しとなった今回,特に議論された点は何でしょうか。

石垣 「到達目標」と「評価方法」の2点です。

 「到達目標」は,臨床現場それぞれの事情を集約し,現場にそぐわない項目,難易度の順序,適切でない用語の使用について見直しました。また,到達目標の具体例として,新たに「回復期リハビリテーション病院」のモデルを作りました。施設の規模や機能,看護部の理念や職員構成など,病院ごとの特徴は千差万別です。このモデルを参考に,「自分たちの施設ではどう新人を育てるか」を話し合い,現場に応じた目標を作っていただくことが狙いです。

――新人看護師がどのような基礎教育を受けてきたか,教育現場の現状を理解することも欠かせません。

石垣 「基礎教育と臨床のつながり」は,ガイドラインを作った当初から強く意識してきました。基礎教育は,09年の第4次カリキュラム改正によって,到達目標が変わっています。全体の学習時間が増え,統合分野も新設されました。夜間実習や,複数患者受け持ち実習など,少しでも臨床に近付く取り組みがなされています。新カリキュラムで育った学生が,臨床にスムーズに移行できるよう,現実に即した目標に見直しました。

――新人看護職員に対し,どのような視点での指導が必要でしょうか。

石垣 臨床では「新人は何もわからない,何もできない」というとらえ方をするのではなく,基礎教育で学んできたことを上手に引き出し,「学校で習ったことが役立つ」と気付かせる指導が大切です。具体的には「技術指導の例」に示したように,まず初めに「基礎教育での知識と看護技術の確認を行う」ことから始めます。すなわち,基礎教育での修得状況を確認して,そこから次のステップに進めるとよいのです。教育と臨床の橋渡しという観点では,今後,基礎教育の教員が現状の教育内容を臨床の教育担当者に講義したり,逆に臨床のナースが統合演習の時間に現場の実践を伝えたりと,さまざまな壁を乗り越え,相互の交流を広げていくことも必要でしょう。工夫すれば,もっと効率的な新人育成の方策があると思っています。

――「評価方法」の見直しについてはいかがですか。

石垣 評価は,研修において非常に重要な位置付けです。「評価そのものが教育である」という当初の理念に立ち返り,評価の時期,評価方法等議論を重ねました。評価は単に「できた」「できない」をチェックするのではなく,事例や語りを通して,次の行為につながるように支援することが重要です。

 具体的には,できたことを褒め,強みを確認し励ますようなフィードバックを行い,新人が学ぼうとするモチベーションにつながるように導くこと。あるいは,新人の励みや反省材料になるよう,チーム医療のメンバーである他職種や患者視点からの効果的なフィードバックをすることなどを追記しました。

ガイドライン浸透の鍵は,二次医療圏単位の地域交流

――検討会での議論から見えてきた課題は何でしょうか。

石垣 ガイドラインに沿った研修を実施していない施設への対応,特に小規模施設への浸透です。

 11年度の研修の実施状況では,新人看護職員のいる施設の8割がガイドラインに沿った研修を行っています。その内訳は,300床以上の施設では9割以上,100床以上300床未満の施設は約8割,100床未満の施設は6-7割となっており,規模の小さい施設ほど研修が行われている割合が低くなっています。理由の一つとして,新人看護師は何年かに一度の採用,もしくは採用しても少人数のため施設内での集合教育ができず,OJTに偏りがちになっていることなどが考えられます。

――今後どのように,ガイドラインに基づく研修の実施を普及させますか。

石垣 まずは,この4年間,厚労省が実施してきた研修事業のさらなる推進です。病院単独の新人看護職員研修に対する支援をはじめ,看護協会が国や都道府県から委託されて行っている研修責任者等の研修事業,アドバイザー派遣による実施困難病院への助言など幅広い事業が準備されています。

――多くの施設に事業を活用してもらいたいですね。

石垣 ええ。ただ,事業を進める中で,心配していることもあります。それは,ガイドラインによって研修が充実した施設がある一方,実施状況に濃淡が表れることで,施設間の格差が広がっているのではないかということです。ガイドラインでは,新人看護職員研修の「均てん化」,すなわち新人がどこに就職しても一定の知識と技術が身に付けられることを目標として掲げています。今後,さらに研修未実施の施設に実施を働き掛けるには,地域で連携した取り組みが鍵を握ると考えています。

――実際,特色ある地域の実践例は見られますか?

石垣 検討会では,広島県の取り組みが注目されました。県内の医師会や看護協会,病院協会などの関係団体の代表者と,二次医療圏単位の看護部長らが年1回集まり意見交換会を行っています。さらに県看護協会の支部単位で2か月に1回看護管理者が集まり,地域の施設同士が直接話せる機会を設けている。こうして「顔の見える」関係を築いた結果,自施設では補えない研修を他施設で補完し合うなどの成果が出ていると報告されました。

 二次医療圏単位の地域で看護管理者が連携するシステムがあれば,「中小の病院だから研修ができない」ではなく,「他施設と協力して研修体制を充実させれば,毎年しっかり新人を迎えられる」という好循環を生み出せるのです。

「指導者」をキャリアの一段階として位置付ける

――指導する側の人材育成も求められるのではないでしょうか。

石垣 それもガイドラインの重点項目で,大きな課題です。指導者は,研修プログラムを策定する「研修責任者」,研修を企画・運営する「教育担当者」,実地指導に当たる「実地指導者」に役割が分けられます。教育担当者や実地指導者の育成は,プリセプター研修のように施設の中である程度担えます。しかし,研修責任者となると,一施設1人ですから,組織の中だけで研修を行うには限界があります。そこで,他施設と共同で研修を行ったり,都道府県や関係団体が実施する研修を活用したりすることが必要になります。講義形式の研修では受け身になりがちです。そこで例えば,自院に持ち帰って応用できるよう,研修が充実している施設に行き,現場に飛び込んで学ぶことも必要でしょう。この方法に効果があり,積極的に取り入れている施設もあります。

――指導者の負担軽減も考えないといけません。

石垣 たしかに,専任で務めることは極めて少ないのが実情です。通常業務を行いながら新人を指導する施設が多いので,その間の負担は非常に大きい。せっかく担当になっても,役目を終えた途端に退職してしまうという事態が起きかねません。それを何とか防ぎ,次の担当者にしっかりバトンをパスするにはどうすればいいか。それには,指導を担う役職をキャリアの一段階として位置付けていくことも一つの方法です。既に実践している病院もあります。そこでは指導者の研修が修了したら修了証を渡して認定し,きちんと手当もつける。施設全体で新人教育へのモチベーション向上につなげているそうです。国や職能団体が働く女性の支援に力を入れている今,各施設でも,もっと工夫する余地はあると思います。

――周囲の理解と協力も不可欠ではないでしょうか。

石垣 指導者をどう育てるか。これは病院開設者や看護部のトップが職員の教育に対して理解を示し,真剣に取り組む姿勢がないと,広がりは難しいでしょう。ガイドラインが見直されたことを機に,努力義務の意義も考慮し,どのように新人看護職員を育てるか,今一度管理者には考えてほしいです。

新人看護師の,専門職としての人生を引き受ける覚悟を

――今後,新人看護職員研修にはどのようなことを期待されますか。

石垣 ガイドラインを見直したからこれで完成というわけではありません。医療事情や基礎教育の変化に即しこれからも見直しを図っていくことになると思います。そしていずれは,医師臨床研修制度のように新人看護職員研修も義務化しなければならないと私自身は考えています。今回の報告書で,「研修体制や研修方法,研修内容等を検討することは今後の重要な課題である」と記している通り,新たな研修制度の創設に向けて,現在のガイドラインの検証を続けることが不可欠です。医療機関の看護師にとどまらず,施設のなかの他職種,ひいては国民に対してもガイドラインの成果を示していかなければなりません。皆で看護師を育てることが,医療を受ける人たちのQOLに貢献するのだということを,もっと周知していきたいと思っています。

――新人看護職員研修にかかわる医療関係者へメッセージをお願いします。

石垣 医療に限らず組織として最も大切なのは「人」です。施設は,新人看護師の,専門職としての人生のスタートを引き受けるわけですから,覚悟を持って育成に臨んでほしい。ガイドラインの理念「人を育てる組織文化の醸成」は,これからも貫きたいです。

 そして将来,研修を受けて育った看護師が力をつけてキャリアを形成し,やがて次世代を育てる教育担当者や,専門職ナースとして成長していくことを期待しています。

(了)

参考資料
1)平成24・25年度厚生労働科学研究費補助金(地域医療基盤開発推進研究事業)「新人看護職員研修制度開始後の評価に関する研究」(研究者代表・佐々木幾美)
2)厚労省.2011-12年度新人看護職員研修の実施状況


石垣靖子氏
1960年北大医学部附属看護学校卒。北大病院,同大医学部附属看護学校を経て86 年東札幌病院看護部。看護部長,理事,さらに看護師として日本初となる副院長を歴任。2008年から北海道医療大教授,12年より現職。現在,日本がん看護学会理事,日本看護管理学会監事なども務める。10年の「新人看護職員研修に関する検討会」,今回の「新人看護職員研修ガイドライン見直しに関する検討会」では座長を務めた。