MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2014.04.07
Medical Library 書評・新刊案内
河野 茂,早田 宏 編
《評 者》大生 定義(立教大社会学部教授・立教学院診療所長)
テクニカルスキルとノンテクニカルスキルを学べる一冊
この度,『レジデントのための呼吸器診療マニュアル 第2版』が上梓された。「第2版の序」で,編集者のお一人である河野茂先生が,長崎大医学部の「如己博愛」を説かれ,さらに「ジェネラリストの基盤があってこその呼吸器内科の専門性があると信じている」として基本方針をうたわれている。この方針に沿いつつのアップデート版である。
本書はAからEの5章構成になっている。「A 疾患・症状のマネジメント」では,A1で呼吸器診療全体の流れ,臨床推論の基本が述べられた後,血痰? 市中肺炎に出会ったら? など具体的臨床的問題についてフローチャートなどで簡潔に提示され,分担執筆の熟練指導医からのコツ・Tipsがちりばめられている。コラムのミニレクチャーも要領よく適切である。読者対象が呼吸器内科の専門研修医と指導医とされているが,他分野の医師や呼吸器病の理解を求める医療・医学教育関係者にも大変役立つ。
Bは「チーム医療のために」として,研修医に必須な,プレゼンテーションやコンサルテーション,術前評価や呼吸ケアチームについての章である。ここに重要な横断的なスキルである,ノンテクニカル・スキルについての説明もある。これを書かれたのは,もう一人の編集者であり,執筆者としても広範囲を担当されたとお見受けする早田宏先生であるが,先生の医療安全への強いコミットメントが感じ取れる。蛇足ながら「ノンテクニカル・スキル」とは,コミュニケーション,チームワーク,リーダーシップ,状況認識,意思決定など,認知的・社会的なスキルで,専門的な知識や技術である「テクニカル・スキル」と共に,現代チーム医療においては,安全や質の確保に欠かせないものである。この両者を交互にする,章立ての順序自体が本書のポリシーを語っている。
続く「C 基本的な検査のポイント」や「D 治療のアプローチ」の章も,図表が多くわかりやすい。また具体的で,重要点だけをわかりやすく,本当に歯切れよく述べていてクリアカットである。専門研修医には大変有用な情報であろう。ここまで洗練するには大変なご苦労もあったのだろうと思う。最後に,再び早田先生が「E 臨床に役立つエッセンス」として患者中心の考え方,倫理,コミュニケーションについて要約を紹介し,結んでいる。
呼吸器専門研修医・指導医だけではなく,呼吸器の臨床に興味のある,他分野の医師・研修医にも本書ご一読を強く薦めたい。というのは呼吸器病を題材にはしているが,そのテクニカルな領域と医療全般に必須なノンテクニカルな横断的な領域をお互いになぞりながら学べる,いわばDual textbookだからである。
A5・頁404 定価:本体4,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01865-4


阿部 幸恵 編著
《評 者》大滝 純司(北大大学院専任教授・医学教育推進センター/東医大兼任教授・総合診療科)
医学教育を含む医療者の教育に携わる人に勧めたい一冊
「看護のためのシミュレーション教育」は,琉球大の阿部幸恵教授の編集による,シミュレーション教育の解説書です。日本でも海外でも,医療関係職種の教育にシミュレーション教育が急速に普及してきている中,この領域について学ぶ指導者,教育関係者にお薦めの一冊です。
本書の第一の特長は,収められている内容の幅広さです。医療においてシミュレーションが重要になっている背景はもとより,その教育を理解する際に踏まえておくべき教育や学習に関する理論の概要が,過不足なく紹介されています。また,看護教育だけでなく,医学教育や薬学教育におけるシミュレーション教育についても,それぞれの領域の分担執筆者による解説が載せられていて,領域横断的に俯瞰することが可能な構成になっています。さらには,シナリオを作成する手順や要点,それを用いて演習などを行う際に役立つ教育技法,そしてそのような教育を実現するための環境づくりまで,丁寧に述べられています。最終章には,看護教育で実際にそのまま使える多様なシナリオが8編,掲載されています。
第二の特長は,わかりやすさです。医療者の教育を担当し始めたばかりの方には,教育や学習に関する理論は比較的難解で,とっつきにくく感じることが多いと思いますが,それらの要点についてわかりやすく解説されていて,参考文献のリストも充実しています。しかも,日本の医学教育のFDでしばしばみられる,ローカルルール的なものではなく,一般の教育学で用いられているいくつもの理論について,それぞれを相対化しながら概観できる構成になっています。このため,多様な理論について,それぞれの位置付けや概念の特徴を整理して理解しやすくなっています。シナリオの構造や教育技法の解説でも,それらと理論との関連が記述されています。
このユニークで有用な書籍には,編著者の阿部先生のこれまでのキャリアと活動が生かされています。先生は救急部門で看護師としての経験を積まれた後,看護教育に携わられたのを機に教育に深く興味を持たれ,教育学を修めることを志し,学士,修士を経て教育心理学の領域での研究で博士の学位を取得されています。その後,東京医科大学病院の卒後臨床研修センターで,クリニカルシミュレーションラボの管理者として勤務されました。そのころ私も同じセンターで副センター長を担当しており,いろいろとお世話になりました。それからの活躍については私が紹介するまでもないでしょう。医療現場での教育の大切さと,基礎から研究レベルまでの教育学を知る阿部先生は,現在は,全国的にそして海外からも注目を集めている「おきなわクリニカルシミュレーションセンター」の副センター長として,シミュレーション教育の開発研究と実践に日々尽力されています。
医療者のシミュレーション教育について,その背景にある理論から,すぐに使えるシナリオまで,幅広い内容をわかりやすく紹介し解説しているこの本は,看護教育だけでなく,医学教育を含む医療者の教育に携わる人に,きっと参考になると思います。ぜひ一度,手にとってご覧ください。
B5・頁208 定価:本体3,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01764-0


城倉 健 著
《評 者》寺山 靖夫(岩手医大教授・神経内科・老年内科学)
「めまい」の鑑別診断が楽しくなる
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