ルワンダ軍事病院での研修から見えてきたもの(佐野正浩)
寄稿
2014.04.07
【寄稿】
ルワンダ軍事病院での研修から見えてきたもの
佐野 正浩(亀田京橋クリニック 内科医員)
亀田総合病院の総合診療科後期研修プログラムの最終学年で,希望者は1か月間の海外研修を受けられる。私は,2014年1月,アフリカ中部のルワンダ共和国にあるルワンダ軍事病院(Rwanda Military Hospital,以下RMH)で研修する機会を得たので紹介する。
RMHは首都キガリの中心部から数キロの場所にある国営病院で,軍関係者に限らず,一般市民も受診できる。入り口にはライフル銃を構えた兵士が常駐し,敷地内に入るには毎回荷物をチェックされる。内科病床は約30床あり,その他にも一般外科,産婦人科,救急外来,ICU,小児科病棟がある。院内には,エコー検査室,手術室,採血検査室,微生物検査室,一般外来棟,X線2台,心電図モニターが1台,Wi-Fi環境(UpToDate®は利用可)などを備えている。
ルワンダの医療システムは,RMHのように重症患者が搬送されるReferral Hospitals(中核病院)を頂点とし,その下にDistrict Hospitals (地方病院),さらにヘルスセンター(医師は常駐せずに看護師のみ常駐)が置かれるピラミッド構造になっている。
暗い歴史を乗り越え,米国標準の医師教育をめざす
この国を訪れたからには,歴史的な事件に触れないわけにはいかない。それは1994年の“ルワンダ虐殺”である。植民地時代に支配していたベルギー人が,ルワンダ人を身体的特徴から複数の部族に分け,少数派のツチ族を優遇する政策を開始したことに端を発する。ツチ族と多数派のフツ族の間には軋轢が生じ,わずか100日間で100万人ものツチ族および穏健派フツ族が殺害された。ツチ族を殺さなければ裏切り者とみなされ自分も殺されてしまう。食卓を同じくした村の隣人が,ある日を境に自分を殺しに斧で襲ってくるという惨劇が繰り広げられた (Wikipediaや映画『ホテル・ルワンダ』等で当時の状況がよくわかる)。たった20年前の出来事とは思えない。このときに隣国へ避難した富裕層や知識人たちの中には,既にルワンダに帰還した者もいるが,医療システムは依然として大きなダメージを受けており,人材育成が今も急務となっている。
現在,“Human Resources for Health Program in Rwanda”という人材育成プログラムが行われている。米国クリントン財団の支援を受けたルワンダ共和国保健省が中心となり,医師や看護師などの人材育成を目的にダートマス大やハーバード大などからスタッフを招聘している。
米国標準の医師教育をめざした研修では,ベッドサイドで一症例ずつ十分に時間をかけて,なぜそうなるのかを考えながら丁寧な議論が行われていた。外国人医師が独自に医療行為をするのではなく,ベッドサイド・ティーチングを中心とした臨床教育を行うことで,近い将来自国のスタッフだけで有能な医師を育てられるシステムづくりを目標としている。
ダートマス大の教員として現地の医師に対する臨床教育活動をされている青柳有紀医師も招聘スタッフの一人だ。UNESCOなどの勤務を経て,群馬大医学部に学び,若手医師のための海外臨床医学留学プログラム「N Program」(東京海上日動主宰)を通じてベスイスラエル・メディカルセンターで内科を,またダートマス大教育病院で感染症および予防医学を修めた。青柳医師と共に医師の研修にかかわったが,看護師の育成も途上だと感じた。X線撮影の指示をしても,撮影が次の日になるという,日本では考えられない時間感覚だった。しかし,青柳先生は忍耐強く待ち,「怒ってはだめなんですよ」とおっしゃっていた。環境の違いこそあれ,この姿勢は日本の病棟でも重要だと感じた。
写真 左:この病院で習慣化されていないグラム染色の手技を研修医に伝える筆者。右:現地医師たちとの集合写真。右端が青柳医師。右から3人目が筆者。 |
確定診断が困難な環境で,「甘かった!」と痛感
RMHの院内には,CTやMRIはない。採血項目は限られている上,数日後でないと結果がわからない。ポータ...
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