医学界新聞

寄稿

2014.03.24

【寄稿】

空想インタビュー
百年の時を超えて,ナイチンゲール自らを語る!

茨木 保(いばらきレディースクリニック院長)


 医師であり漫画家でもある茨木保氏が,このほど『ナイチンゲール伝 図説看護覚え書とともに』(医学書院)を刊行しました。それを機に,氏によるナイチンゲール(1820-1910)への“インタビュー”が実現。100年以上の時を超えて,茨木氏はナイチンゲールに何を聞くのでしょうか(本紙編集室)。


茨木 本日は,『ナイチンゲール伝』刊行にあたり,フローレンス・ナイチンゲールさんにインタビューをさせていただくことになりました。

N(ナイチンゲール) よろしくお願いします。ところで,この本には『看護覚え書』も漫画で描かれているそうですね。

茨木 はい,少しでも多くの読者に,ナイチンゲールさんの代表作のエッセンスを知っていただこうと……。

 でも,私がその本を書いたのは今から150年以上も前。今の時代には合わないのではありませんか?

茨木 ええ,たしかに社会も科学も随分変化しました。でも,あなたの生き方や著作は,ボクの時代でも共感を持って受け入れられています。今日はそんなナイチンゲールさんの言葉のいくつかについて,お話を聞かせていただこうかと思います。

看護に神秘などはありません。(『看護覚え書』)1)

茨木 「白衣の天使」という言葉のように,人は看護にロマンチックなイメージを抱きがちです。でも,あなたはそれをあまり好ましく思われていなかったようですね。

 ええ,例えば優秀な看護師が,患者の容態を改善させるのを見たとき,人はしばしば「奇跡だ」「神秘だ」,ともてはやします。しかし実際,そうした看護師は,患者の状態に合わせて枕の位置を変えたり,食事の与え方を工夫したりと,当たり前の工夫をきめ細やかに行っているだけなのです。

茨木 知識と経験に裏打ちされたプロの仕事を「神秘」などという言葉でごまかしてはいけないということですね。

 神が定めた健康回復の手立てをとらない人に限って,「神の祝福があれば患者は回復するでしょう」などと話します。健康を守る手法は神に与えられているわけではありません。神様はそれをわれわれの手に委ねているのですから。

あなたが窓を開けることは何もしないよりは確かによいでしょう。しかし大切なことは,あなたがいないときにも誰かが必ず窓を開けるように手配しておくことです。(『看護覚え書』)1)

 寝ずの番を続ける看護師よりも,「自分の仕事を他人に任せる術」を知っている看護師のほうが,良質な看護を行えることは多いものです。

茨木 でも,無駄な努力を貴ぶようなところは,われわれの時代にもあるんですよね(苦笑)。

 もちろん献身や自己犠牲は貴ばれるべきです。しかし合理性を求めることはそれと同様に大切です。

茨木 あなたが自分で初めて設計した病院に,ナースコールの原型の呼び鈴を病院に初めて設置したのもそのひとつですね。

 ええ,救護活動に関してもその運営が構成員の自己犠牲のみに依存するものは長続きしません。持続可能な支援をするための知恵を働かせることこそ,重要なのです。

迷信の多くは間違った知識,いい加減な観察,「BはAの後に起こったので,AはBの原因である」という論法によるものです。(『看護覚え書』)1...

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