医学界新聞

2014.03.17

Medical Library 書評・新刊案内


《眼科臨床エキスパート》
糖尿病網膜症診療のすべて

吉村 長久,後藤 浩,谷原 秀信,天野 史郎 シリーズ編集
北岡 隆,吉村 長久 編

《評 者》山本 修一(千葉大教授・眼科学)

糖尿病網膜症,わかり

 糖尿病患者の増加と社会の急速な高齢化が相まって,糖尿病網膜症の患者は一向に減る気配がない。むしろ経済状況の悪化が原因なのか,網膜症はおろか糖尿病そのものも無治療で,失明寸前の症例(しかも比較的若年者)に遭遇することも少なくない。日本が世界に誇る高水準の医療にほころびが出始めているのでは,と不安すら覚えてしまう。

 糖尿病網膜症は眼科において一般的,そして極めて重要な疾患でありながら,なかなか優れた成書に恵まれなかった。黄斑症の治療や硝子体手術に特化した書籍は多いものの,「一冊丸ごと網膜症」は少なく,あっても共著のため読みづらいものであった。そのような教育上の問題が影響しているのか,紹介を受ける症例の中には,それまでの治療歴に首をかしげたくなるようなものが少なからず存在する。地域での講演会では糖尿病網膜症を頻繁に取り上げるようにしているし,内科と合同の勉強会も定期的に開催しているが,やはり単発の講演では「耳学問」にとどまるものかもしれない。

 その点,本書は「糖尿病網膜症,わかり」とでも副題をつけたくなる内容豊富なものである。長崎大の北岡隆教授と京大の吉村長久教授が編集を,そしてこの2大学で定期的に開催してきた共同研究会のメンバーが執筆を担当している。このため共著でありながら,その内容は極めて統一されており,記述にブレがみられない。また,眼底写真,蛍光造影写真,OCTがふんだんに,しかも適切な症例が適切なサイズで掲載されている。全紙面の半分以上を画像が占めているかのような印象すら受ける。超広角走査レーザー検眼鏡による写真が多数掲載されているのも時機にかなったものといえる。

 さらに特筆すべきは,通常なら「ちょっと一休み」的に挿入される「ケーススタディ」が,本書の冒頭に,全体の5分の1のスペースを費やしていることである。しかも「moderate NPDRだが蛍光眼底造影で進行している症例」など,かなり具体的に,実臨床で判断に迷いがちな症例が並べられている。

 治療の項目では,パターンスキャンニングレーザーや抗VEGF薬などの最新の方法はもちろんのこと,血管強化薬や血管拡張薬などのどちらかといえば「古典的」治療法にもしっかり紙面が割かれており,先のケーススタディと併せて,臨床現場を見据えた編集方針が読み取れる。

 惜しむらくは,網膜症の発症機序の説明が1枚の図で済まされていることである。実臨床の現場でも発症メカニズムの理解は重要であり,網膜症の治療がかなり進歩したとはいえ,結局のところは破壊的,場当たり的なものに終始している現状を鑑みれば,より根本的な治療法の開発はこれからの眼科に課せられた大きな宿題と言えるだろう。

B5・頁392 定価:本体17,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01872-2


神経診断学を学ぶ人のために
第2版

柴崎 浩 著

《評 者》水澤 英洋(東医歯大大学院教授・脳神経病態学)

神経症候と診察法の背景にあるメカニズムが明らかに

 待望の『神経診断学を学ぶ人のために』第2版が出版され,全て拝読する機会を得た。本書はふつうの神経症候学のテキストではない。その最大の特徴は,神経生理学(神経解剖学,薬理学を含む)から神経症候への橋渡しであることである。換言すれば,神経症候を,その背景となる神経機能の障害という視点で解説したものである。

 神経系が人のあらゆる機能をコントロールしていることからわかるように,神経症候は数が非常に多く内容も多彩である。神経症候を診ることは神経内科医にとっては楽しみである一方,初学者にとっては必ずしも楽ではない。そのようなときに多彩な神経症候の背景となる神経機能とその異常をわかりやすく解説してくれる本書は極めて有用である。そして,広範な神経症候を神経生理学・解剖学・薬理学などの視点で効率的に整理して理解する大きな助けとなる。

 これは,著者である柴崎浩先生が,経験豊かな臨床神経内科医であるとともに優秀な臨床神経生理学者であることによると思われる。これは京都大学にて臨床神経学講座と脳病態生理学講座の教授を兼任され,その後国際臨床生理学会連合の会長を務めた柴崎先生であるからこそなせる業であると思われる。20件追加された図表はまさに症候,画像検査(解剖),生理検査が多用されその象徴となっている。

 第二の特徴は,90題に倍増したコラムであり,目次の後に一覧表が載っているのもうれしい。最新のトピックあり,代表的症例あり,病態の説明あり,治療による症候の変化ありなど,本文を補って幅の広さと奥行きを与えている。コラムのみを拾い読みするといった楽しみ方もある。

 第三の特徴は,神経疾患の診断をつける上で重要な,神経学的診察の手順はもちろん,神経学的診察と全身診察の関係,そして検査の仕方に至るまで,きちんと説明があることである。すなわち,病歴聴取による病因診断,神経学的診察による病変部位診断,それらによる最終的な臨床診断の付け方が示されている。第2章は丸ごと診察の第一歩である病歴聴取に当てられており,重視されていることがわかる。

 第四の特徴は,わかっていることとわかっていないことが明確に区別されており,ポイントとなる記述には根拠となる文献が添えられていることである。これは柴崎先生が診断学も科学的・論理的でなければならないとお考えの故と拝察している。

 柴崎先生は私が最も尊敬する神経内科医のお一人である。私はこれまで何人かの著名な神経内科の先達から直接,神経学的診察の手ほどきを受けることができたが,残念ながら柴崎先生にはまだその機会はない。この『神経診断学を学ぶ人のために』は私の願いを叶えてくれる名著である。全編を通じて,神経症候とその診察法の背景にある,メカニズムを明らかにしてそれをもって理解するという一貫した科学的・論理的な姿勢がみられる。最後に「あとがきに代えて」と題して,神経学をこれから学ぼうとする人への温かいメッセージが添えられている。そこにある,神経症候学は現代的な手法で検討し,科学的な検証を加え,わかりやすい明確なものとする必要があるという柴崎先生のご意見に私も全面的に賛成である。

B5・頁400 定価:本体8,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01632-2


レジデントのための呼吸器診療マニュアル
第2版

河野 茂,早田 宏 編

《評 者》西村 正治(北大大学院教授・呼吸器内科学/日本呼吸器学会理事長)

ただのマニュアル本と言うなかれ

 本書は2008年3月に初版が上梓され,2014年1月に改訂第2版として発行された。初版の序に「医学は再び長崎から」とあるように,著者は長崎大病院第二内科出身の諸先生による。文字通りレジデントのためのマニュアル本であるが,ただのマニュアル本と言うなかれ! その内容の充実ぶりは素晴らしく実に使いやすい。目次は,「A 疾患・症状のマネジメント」「B チーム医療のために」「C 基本的な検査のポイント」「D 治療のアプローチ」「E 臨床に役立つエッセンス」と章立てされている。その内容を個々に見ると実にうまく工夫されている。

 呼吸器疾患を順に並べたマニュアル本とは異なり,疾患・症状のマネジメントでは,患者の主観的訴え,検査上の客観的症候,そして,市中肺炎,インフルエンザ,喘息,COPDなどのいわゆるcommon diseaseがA1-A22までバランス良く並んでいる。診療に応じて知りたい項目が選びやすい。個々の項目は実際の診療の流れに沿ってポイントがわかりやすく解説されている。「B チーム医療のために」では,今回の改訂で加筆された「他科から術前評価を依頼された際の注意」「妊婦の呼吸器疾患を診療するときの注意」「Infection control team」などの項が並び,この本の際立った特徴となっている。

 長崎大第二内科は感染症学でわが国をリードしている教室であるが,それを反映して,「D 治療のアプローチ」では特に抗菌薬の使い方に関するまとめが出色の出来栄えである。呼吸器専門医が読んでも知識の整理に役立つことだろう。

 最後の「E 臨床に役立つエッセンス」もまたこの著書の特徴を余すところなく伝えている「インフォームド・コンセント」の次に,「悪い知らせを伝える-癌の告知の場合」という項目がある。レジデントは一度この項目に目を通すと,知識を伝達することだけが告知ではないと気付くことだろう。最後の項目「こころある医療を求めて-患者そして家族・地域社会へ」と併せて読んでみて,私はこの著者らの強い想いを感じたのである。良き臨床医とはこうあるべきだと……。レジデントばかりではなく,呼吸器診療に携わる機会のある一般内科医にもお薦めの一冊である。

A5・頁404 定価:本体4,700円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01865-4


統合失調症

日本統合失調症学会 監修
福田 正人,糸川 昌成,村井 俊哉,笠井 清登 編

《評 者》大森 哲郎(徳島大大学院教授・精神医学)

心理社会的治療法も詳述した統合失調症の実践的教科書

 統合失調症学会が総力を結集して作成した全75章700ページを超える浩瀚(こうかん)な全書である。多士済々の執筆者が専門領域を記述する文章は平易明解で精彩に富んでいる。

 全書的な教科書でありながら,いくつもの点で新しい。統合失調症はもはや遺伝的に発症不可避でもなければ,心理的に了解不能でもなく,病的過程が進行する疾患でもない。それは発達の過程で素因と環境が応答しつつ形成され,前駆期での介入が発症を阻止する可能性があり,未治療期間が短縮されれば病態の進行は抑えられ,初発エピソードをうまく乗り切れば安定期に至り,経過は治療介入と生活環境の影響を受けていかようにも可変的である,そのような疾患なのである。諸条件によっては未病に終始する可能性を考えれば,非疾患との境界は連続的ともなる。もはやかつての精神分裂病ではない。

 実際には私たち精神科医療者が関与を始めるのは,早くて前駆期であり,多くの場合は初発エピソードとなる。この段階での最適な治療介入が予後を大きく左右するかもしれないことを考えれば,この時期に関して章立てが手厚いのもうなずける。将来的には発症阻止を視野に入れる意図があるのかもしれない。

 しかし,現実には私たちは発症後の患者に長く付き合い,症状の完全消失に至るのは一部の症例であることを知っている。本書は実践的でもあって,現場の治療目標としては,疾患を抱えながらも地域社会において有意義な生活を送ること,すなわちリカバリーが強調されている。そのための支援方法として,薬物療法はもちろんだが,「精神療法」「対話のための工夫と守るべきこと」「心理社会的治療・社会資源」「認知行動療法」「生活臨床」「多職種チーム医療」「患者家族への見方の変遷と家族支援」などにわたり心理社会的治療法の紹介に相当の紙幅が割かれている。

 当事者と家族が執筆しているのも斬新だ。教科書としては意表を突くが,考えてみれば患者から学ぶのは臨床医学の鉄則である。最も痛切に疾患に直面している方々の声を聞かずしては,全てが机上の空論に終わる恐れさえある。

 研究諸領域の最前線は全21章にわたって記述されている。診断や治療を扱う部分にも共通することだが,内容は最新かつ簡潔で,その領域の核心部分をやさしく伝えようとする意図を感じる。興味を引かれた読者はおのずと章末の参考文献に向かうことになるだろう。

 統合失調症はもはや鵺(ぬえ)のように正体不明な疾患ではない。しかし,編者と執筆者の英知を結集した本書を読んでもその全てを知ることはできない。それはまだ誰も知らないことなのだ。しかし,統合失調症の全てを知るために現時点で何が必要かは本書に全て書いてあると思う。参考書として机上に置くもよし,通読を楽しむもよし,拾い読みでもよいだろう。読めば精神医学がいかに豊かな領域であるか実感させられる。

B5・頁768 定価:本体16,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01733-6


救急整形外傷レジデントマニュアル

堀 進悟 監修
田島 康介 執筆

《評 者》大泉 旭(明理会中央総合病院副院長・整形外科部長)

整形外傷の診療に対する不安を払拭する当直マニュアル

 以前評者が二次救急病院の当直をしていたころ,搬送された外科系疾患の多くが整形外科疾患であり,その中でも外傷が大半を占めていた。現在もそれは変わっていないだろう。しかし整形外科を専門としない医師にとって,整形外傷は専門的な知識と手技が必要と思われて敬遠されがちである。事実,東京都には搬送困難例を地域救急医療センターに搬送する「東京ルール」と呼ばれるものがあるが,その対象となる患者のキーワード第1位が「整形外科」であることが2013年5月に行われた東京都保健福祉局救急医療対策協議会でも報告された。

 つい最近出版された田島康介先生の『救急整形外傷レジデントマニュアル』は,表紙帯に掲げているように,整形外科を専門としない医師を対象とした整形外科疾患の当直マニュアルである。当直帯で搬送される整形外科疾患のほとんどが外傷であり,本書は二次救急病院に搬送される整形外傷をほぼ網羅している。非外傷性疾患に関しては7ページのみではあるが,緊急を要する疾患や生命にかかわる疾患との鑑別に焦点が絞られている。当直医の職務は初期治療,すなわち診断,緊急性の有無の判断と応急処置のみを行えれば十分であり,根治的治療は要求されていない。むしろ下手に必要以上の処置を行い,治療方針まで私見で説明されてしまうと,それを引き継ぐ担当医師の治療に影響を及ぼしかねない。

 本書はある意味「開き直って(?)」応急処置に徹し,根治的治療については触れていない。診断方法(レントゲンの撮り方,所見の取り方など),シーネなどの外固定の適応と方法が多くの写真やイラストとともにわかりやすく書かれており,患者(小児の症例ではその家族)への説明のコツなどもしっかり述べられている。的確な応急処置ができるかどうかはもちろんその医師の技量にもよるが,少なくともこのマニュアルがあれば整形外傷の診療に対する不安はかなり一掃されるのではないかと思う。当院も常に整形外科医が当直しているわけではないので,この書を既に救急外来に常備し,整形外科医以外の医師が当直するときの参考にさせてもらっている。

 また,本書を読破して感じたことは,第1章「創傷処置」の冒頭や第2章の「外固定の仕方」でも出てくるように,用語の定義を非常に大事にしていることである。医師間,特に専門が異なる医師間では共通言語を持っていないと,カルテ上もしくは緊急の電話連絡でも,患者の病状(部位や損傷形態)を正確に把握することができない。また,最終章の診断書の書き方でもあるように,公文書は正確な医学用語で書くことが大事である。この書に出てくる創傷の用語,上腕骨遠位の解剖学的名称,第5中足骨基部骨折,脊髄の損傷高位や脊椎の脱臼方向などは整形外科医でさえ混用もしくは誤用していると思われる。恥ずかしながら今回自分も用語の使い方について襟を正すよい機会になったことも最後に付け加えておきたい。

B6変・頁192 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01875-3


プロメテウス解剖学アトラス 頭頸部/神経解剖
第2版

坂井 建雄,河田 光博 監訳

《評 者》近藤 信太郎(日大松戸歯学部教授・解剖学)

臨床に直結した解剖書

 『プロメテウス解剖学アトラス』の第3巻「頭頸部/神経解剖」の第2版が刊行された。初版は「頭部/神経解剖」となっていたが,改訂に伴って頸部が第3巻に含まれることとなった。頭部と頸部が同じ巻となったことは歯科関係者からも歓迎されるところである。顎運動に関する筋を学ぶ場合は咀嚼筋群と舌骨上・下筋群が同じ巻に記載されているほうが便利であるし,歯科領域の動脈系は頸部からたどったほうが理解しやすい。初版よりも格段と使いやすくなったと感じる。

 本書の特徴はアトラスと教科書の利点を兼ね備えたところといえよう。書名は解剖学アトラスとなっているが,通常のアトラスよりも記載に力を入れている。精緻な図と明解な文章は相補的に機能しており,人体構造を深く理解することができるように工夫されている。SobottaやPernkopfのような精密な解剖図を世に送り出してきたのはドイツの伝統であろう。その伝統にコンピュータ技術を融合させて完成された本書の図は精細で美しい。図の脇にある説明文は短い中にも関連する図を示し,その図を順に追うことにより理解が一層深まるように構成されている。頭頸部に関しては,骨,筋,脈管,内臓といった系統解剖の後に,局所解剖と断面図が掲載されている。各器官系の系統的な理解と局所の器官系の関係を同時に記載している点は本書の魅力といえよう。

 本書は医療系学部や専門学校で解剖学を学ぶ学生のみならず臨床家の参考書に適している。特に局所解剖と断面図は有用な記載である。顔面は言うに及ばず,側頭下窩,翼口蓋窩,頸部の三角や咽頭周囲隙の局所解剖は歯科にとっては非常に重要である。これらの部分は詳細に記載されており,歯科医師が臨床解剖を学ぶのに有用である。見開きページにより浅層と深層が一度に理解できる点もよくできている。歯科用CTの開発により歯科臨床でもcross sectional anatomyの知識が必須となってきた。断面図の章では,画像診断の参考になる冠状断面(前額断面),水平断面(軸位断面),矢状断面の図が多く掲載されている。これらの図に付けられた名称は画像診断の専門書に比べれば多くはないが,必要なものはすべて網羅されており,かえって見やすい。本書は頭頸部の器官系の系統的な解剖と局所の解剖を精緻な図とともに記載しており,臨床に直結した知識を得るのに適した解剖学アトラスといえよう。

A4変型・頁552 定価:本体11,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01441-0


運動障害診療マニュアル
不随意運動のみかた

H. H. Fernandez,R. L. Rodriguez,F. M. Skidmore,M. S. Okun 原著
服部 信孝 監訳
大山 彦光,下 泰司,梅村 淳 訳

《評 者》髙橋 良輔(京大大学院教授・臨床神経学)

ベッドサイドで頼りになる運動障害疾患の虎の巻

 Movement Disorderの和訳は運動障害(疾患)あるいは運動異常(症)で,運動が過多になり,不随意運動を呈する疾患群(例:舞踏病),逆に運動が過少になる疾患群(例:パーキンソン病),そして場合によっては運動が不器用になる疾患群(例:脊髄小脳変性症)の総称である。運動障害は神経内科疾患の中でも最も謎めき興味の尽きない疾患群であり,研究が重ねられてきた。今日では,その病態生理や遺伝学的背景について数多くの知見が得られ,それらを基に新しい薬物治療法が生まれ,手術療法やリハビリテーションなど非薬物療法の進歩も著しい。しかし運動障害の診断・治療は必ずしも容易ではなく,例えば特異な不随意運動をどのように記載するかは,熟練した専門家の腕の見せどころ,といった面がある。初学者の中には苦手意識を持つ人も多いかもしれない。

 このたび訳出された『運動障害診療マニュアル』は,運動障害は複雑と考えて敬遠しがちな向きの人には朗報となる実践的な手引書である。著者のうち,Hubert Fernandez氏は著名なパーキンソン病の専門家であり,国際パーキンソン病・運動障害疾患学会(International MDS)ではWebsite editorとして大変魅力的なサイトを構築して,学会で表彰されたこともある。またMichael Okun氏はDBSの世界的権威で,2012年の日本神経学会で招待講演をされたことも記憶に新しい。この2人にRodriguez氏,Skidmore氏の2人の若手研究者が加わって作成された本書は,極めて斬新,かつ実践的なアプローチで運動障害の診断と治療のポイントを教えてくれる。

 前半の「運動障害疾患の内科的アプローチ」では,ミオクローヌスを「ピクつく(“jerky”)患者」,パーキンソニズムを「ヒキずる(“shuffling”)患者」とその特徴を端的にとらえて運動障害を定義している点が,新鮮な印象を受け,取り付きやすい。内容も鑑別診断や治療法をわかりやすい図表を使って,また箇条書きで解説してくれるので,短時間で重要事項が頭に入りやすい。

 また,後半の「運動障害疾患の外科的アプローチ」ではDBSの適応疾患,ターゲット,手技からプログラミングまで,要領よく解説されている。さらに「運動障害疾患の包括的アプローチ」では言語療法,作業・理学療法,栄養療法が取り上げられ,個々の疾患への対応がわかりやすく書かれている。これまで,運動障害の外科療法,包括的療法についてこれだけ具体的,明解で,しかもコンパクトに書かれているものは読んだことがなく,大変得るところが多かった。

 わが国での本格的なMovement Disorder Clinicの設立に尽力されている順天堂大学脳神経内科・服部信孝教授の監訳のもと,大山彦光氏,下泰司氏,梅村淳氏の3人の若手・中堅の脳神経内科医・脳外科医の共訳による訳文は,正確で,かつ表現がこなれていて,読みやすい。熱心な読者なら2-3日で通読できるだろう。サイズも白衣のポケットに入る重さと大きさで,マニュアルの名にふさわしい。研修医から専門医に至る医師はもちろん,メディカルスタッフにも手元において役立ててほしい,ベッドサイドで頼りになる虎の巻である。運動障害の患者を扱うすべての医療関係者に強く推薦する。

B6変型・頁288 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01762-6

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