医学界新聞

2014.02.10

Medical Library 書評・新刊案内


がん診療レジデントマニュアル
第6版

国立がん研究センター内科レジデント 編

《評 者》小松 嘉人(北大病院診療教授・化学療法部長・腫瘍センター副センター長)

エビデンスが明確でわかりやすい診療マニュアル

 このたび,『がん診療レジデントマニュアル 第6版』に対する書評を書くようにご依頼をいただいた。おそらく,私は実はがん診療レジデントマニュアルの第1版の著者の一人であるので,先輩として後輩たちの作った第6版を厳しく評価せよ(笑)ということであろうと思われるので,お引き受けした。

 世の中には,たくさんのがんの本が出版され,どれを選んで良いのか,迷う先生方も多いのではないだろうか? 最近は随分減ってきたが,私がマニュアル作りに携わったころには,がんのテキスト本でも,著者の私見ばかりで,しっかりとしたエビデンスの記載のないものがたくさんあった。やはり記載された文書には,その考え,解説に至ったエビデンスの出典がしっかり記載されたテキスト本を選ぶべきである。そういう点から,本書を読むと,まさにその通りで事細かに,適切なエビデンスが選ばれており,著者の記載が適切であることが保証されているわけである。われわれが,抗がん剤という毒性の強い薬を患者に用いるときに,EBMの裏付けのない治療を施行することは絶対に避けねばならないが,本書を選択すればその心配はほぼないものと思われる。しかも,そのエビデンスも重要度が★によってわかりやすく格付けがなされ,その推奨度が一目でわかるようになっている。

 さらに本書は,治療のみならず,疫学から必要な検査,病理所見から治療成績の結果,実際の投与量までが,簡潔明瞭にまとめられている。したがって,がん診療を始められたばかりの研修医やレジデントの先生は,これを一冊持ち歩くだけで,患者に必要な検査のオーダーから,確定診断をし,治療方針を立て,必要な化学療法を選択することが可能となり,大変有意義な書であると思われる。また,それだけの重要なEBMが記載してある割には,レジデントが中心にまとめているために,難解な事項をわかりやすく,かみ砕いて平易な文書で記載してあり,医師のみならず,看護師や薬剤師などのmedical staffや,学生にでもわかりやすい本となっている。またほとんどの各種がんを網羅しており,さまざまながん腫を診なくてはいけない腫瘍内科にとって大変有用であり,セカンドオピニオンをするときに,自身の専門外の腫瘍のエビデンスの確認用としても最適な本であることは間違いない。指導医クラスの医師にとっても,日々忙しく,なかなか新しい論文を読めないような方には,エビデンスブックとして利用いただくのもよろしいかと思われる。

 OBであるがゆえに辛辣な批評をせねばならないところであろうが,残念ながら文句のつけ所はあまりない。願わくば,学生や貧乏なレジデントのために価格が下がれば言うことはないのではと思われるが,まさにがんと戦うすべての仲間のための必携の書といえる。

B6変型・頁528 定価:本体4,000円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01842-5


糖尿病外来診療 困ったときの"次の一手"

吉岡 成人 著

《評 者》赤井 裕輝(東北労災病院副院長/糖尿病代謝センター長)

糖尿病診療のあらゆる場面が網羅された良書

 吉岡成人先生は日本糖尿病学会誌「糖尿病」編集長,医学書院専門誌「糖尿病診療マスター」編集委員などの仕事を常時こなされる多忙な先生である。加えて今春札幌市で開催される日本糖尿病学会主催のpostgraduate course「第48回糖尿病学の進歩」世話人として準備に当たっておられる。このように最も忙しい糖尿病専門医であるが,日々実によく勉強しておられる。まさにスマートに仕事をこなす達人であり,出張先でもジョギングを欠かさない。だから吉岡先生は当代きっての臨床糖尿病学の論客なのである。その理詰めな考え方,アプローチ法は「糖尿病診療マスター」誌の毎回の編集会議で評者はよく知っている。

 その吉岡先生が北大病院,NTT東日本札幌病院で,かかりつけ医や院内他科から紹介された症例を一例一例大事にして,最も新しい考え方で診断するとどうなるのか,そのプロセスが示され,その診断に基づく治療の流れを,他科のドクターにもわかるように書かれた記録をまとめたのが本書である。内科医にとってはまたとない懇切丁寧な実習書となるであろう。

 さて目次を見てみよう。第一線の臨床医が遭遇する糖尿病診療のあらゆる場面が網羅されている。本書はどこから読んでも構わないし面白い。その患者の背景が,吉岡先生の驚くべき知識量に裏打ちされた洞察力で分析され,奥深い考察となってまとめられている。ありきたりの症例のように見えても,一例読む度にそうだったのか,読んでよかった,儲け儲けとなるのである。私はコラムにこそ吉岡先生らしさが出ているなと思った。イングリッド・バーグマン主演の映画「カサブランカ」のセリフ「A lot of water under the bridge.」は鴨長明の「ゆく川のながれは絶えずして,しかももとの水にあらず。……世の中にある人とすみかと,またかくの如し」とまさに同じ表現であると喝破しておられる。西洋にも無常の表現があるとは……! 医学書としてはまれな味わい深い余韻に浸ることができる素晴らしい良書である。

B5・頁176 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01857-9


基礎から学ぶ楽しい学会発表・論文執筆

中村 好一 著

《評 者》渡辺 晃紀(栃木県県北健康福祉センター・地域保健部長補佐)

はじめの一歩を踏み出すための勇気を与えてくれる本

 保健医療では地域保健という分野がある。全国の地方自治体に勤務する保健師3万2124人(常勤,2012年)をはじめ,多くの職種が携わり,地域住民の疾病予防や健康増進のためと称し,啓発,教育,健診など日々介入の努力をしている。ところが実際に地域保健活動に取り掛かると,エビデンスや効率などが重視される昨今,「うちの地域でもこの方法で良いのか」とか「この点を明らかにしないと次の施策に進めない」など,たちまち疑問や課題に包まれ,評者も含め従事者の悩みは尽きない。

 「この地域や集団の実態をまとめたい,自分でもエビデンスを作りたい,そして保健活動を進めたい」と考えている人は多いと思う。この本は,そのような人が調査や研究の成果を「世に出す」はじめの一歩を踏み出すための勇気を与えてくれる本である。調査や研究を「まとめたい」「発表してみたい」と思っている人,あるいは「発表することになってしまった!」という人は,ポスターやスライド,論文の該当する章から読み進めれば,すぐに実践的なアドバイスが得られるだろう。

 またこの本には,系統立てて聞く機会が少なく,何となく済ませてしまっているが実は重要なことも数多く書かれている。例として,「そもそも研究や発表とは」(1,4,10,22章),「まず日本語から」(2章),「申し込みの段階から既に始まっている」(5,19章),「発表本番でしくじらないために」(8,9章),「論文投稿後も抜かりなく」(20,21章)など。本書は実用書として使ってもよいし,折に触れて通して読んでみると襟を正す思いがするであろう。調査や発表の意義(22章)については励まされる思いで読むことができる。これらのほか,これは著者と接する者だけが味わえる思いなのだが,言文一致ぶりが素晴しい。まるで教室,教授室,講演会場,移動の車内,酒の席などあらゆる場で聞こえる著者の声がそのまま活字になっている。例を挙げれば,著者が「広辞苑にこう書いてある」と言って相手を黙らせようとしている場面(2章)を,私は何度か目撃したことがある。

 こうした実用的な,教育愛あふれる内容は,一朝一夕にまとめられるものではない。著者の勤務先がある栃木県では,地域で保健活動に取り組むグループを対象とした調査研究支援研修が行われている。著者は教室を挙げて十数年にわたって指導に取り組まれているし,あらゆる相談や指導の要請を,多忙な中先着順で受けている(らしい)。そうした著者の姿勢と実績が具体化したようなものであり,今まで「口伝」や「秘伝」だったものが「経典」になったような本である。さあ皆さん,心して読もう。そして読んだ後は「知の共有」に力を合わせよう(22章)。

A5・頁240 定価:本体2,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01797-8


内科診療 ストロング・エビデンス

谷口 俊文 著

《評 者》八重樫 牧人(亀田総合病院総合診療・感染症科部長)

エビデンス・プラクティス・ギャップへの果敢な挑戦状

 日本の医療はガラパゴス化している。専門分野以外は十分な卒後教育を受けることなく診療していることが一因である。2004年に卒後臨床研修が必修となり改善はされているが,内科ジェネラリストとしてのトレーニングは依然不十分なままである。その結果,世界各国でエビデンスが不十分であるとされる薬(例えばシベレスタット)に巨額の医療費が投入され,一方で必要な治療・予防が提供されていないことも多い。後者の一例としては,65歳以上人口の肺炎球菌ワクチン接種率はいまだ15%程度である。

 エビデンスのある治療が患者さんに届いていない状態を「エビデンス・プラクティス・ギャップ」という。このギャップに果敢に挑戦したのが本書である。著者の谷口俊文先生は,コロンビア大学の関連病院であるSt. Luke's-Roosevelt病院での内科研修を経て,『ワシントンマニュアル』で知られるワシントン大学で感染症の専門研修を修了し帰国した。留学中から,よき内科系サブスペシャリストになるためには総合内科の確固たる知識・臨床能力が必要であることを理解しており,『週刊医学界新聞』に「レジデントのためのEvidence Based Clinical Practice」を連載していた。その内容をグレードアップしたのが本書である。連載も素晴らしかったが,今回の書籍化では格段の進化を遂げている。

 これだけの分量を単独執筆するのは至難であったと推察するが,おかげで全体を通じての一貫性があり,通読しやすい。幅広い内科分野で最新の知見を取り入れ,エビデンスに基づいた治療を目の前の患者さんに届けるにはどうしたらよいか。そのために必要な知識がコンパクトにまとめられている。心房細動のAFFIRM研究,周術期β遮断薬のPOISE研究,集中治療室での血糖コントロールに関するNICE-SUGAR研究等,押さえるべきランドマーク研究に関しても解説した上で,実際の診療におけるアプローチが明示されている。臓器別ではなく米国の総合内科医のトレーニングを経ただけで,ここまでエビデンスを吟味して診療に役立てられるようになるという良いお手本である。

 切れ味も最高に鋭い! 「c-statisticsを提示していない,その妥当性を評価していない診断基準やリスク・スコアは使用を推奨しない」(29頁),「UpToDate®や総説の引用にはご注意」(82頁)等々。後輩のために,ここまで明確な発言ができる勇気に敬意を表したい。初学者の心にも響き,行動変容につながるであろう。また,「ベネトリン® 2 mL(10 mg)=喘息1回使用量の4倍」(194頁),「海外の教科書や文献にみられる高張食塩水(3%)は,生理食塩水(0.9%)400 mLに10% NaCl(20 mL)を6アンプル追加することにより作ることができる」(208頁)等々,病棟でのコツも随所に散りばめられていて,研修医には至れり尽くせりである。

 米国の書籍や翻訳では触れられていない日本独自のデータについても言及されている。アスピリンによる脳梗塞の予防効果を示すことができなかったJAST研究,アジア人においてシロスタゾール(プレタール®)がアスピリンと比較して非劣性を示したCSPS2研究,日本人糖尿病患者に対するアスピリンの一次予防効果をみたJPAD研究等々。EBMを日本において実践する際にはこうしたデータも必要であり,抜かりがない。日本と米国の両方で研鑽した著者ならではある。

 本書は,米国指導医による回診(Attending round)で議論される内容を参考に執筆している。こうした教育機会を得るために米国臨床留学をめざす医師にとっては,値千金の価値があるだろう。逆に国内で研鑽を積む医師は,米国臨床留学の気分でそのエッセンスを味わってみてはどうだろうか。「出る杭は打たれる」ではなく「出る杭は伸ばしてもらえる」米国で研修を受けた著者による会心の一冊であり,病棟・外来で成人の患者を主治医・担当医として診療するすべての医師にぜひ読んでいただきたい。

A5・頁340 定価:本体3,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01779-4


図解 解剖学事典
第3版

Heinz Feneis 原著
山田 英智 監訳
石川 春律,廣澤 一成,坂井 建雄 訳

《評 者》河田 光博(京府医大大学院教授・解剖学/生体構造科学)

本屋大賞第一位に当たる医学版の解剖図譜事典

 本書は,ドイツ人Heinz Feneis氏著のオリジナル図譜教科書を,同じくドイツ人Wolfgang Dauber氏が新たにBild─Lexikon(図解事典)として出版した日本語版である。訳は山田英智先生監訳による日本解剖学会の名だたる方々によるものであり,日本語に加えて,英語,ラテン語,さらに1-2行程度で解説を加えたイラスト事典である。アメリカ系の局所解剖を中心とした教科書が多い中で,いわば伝統的な事典である。

 本書の第一の特徴は,コンパクトなサイズでありながら,その内容が大変充実しており,見開きになって左のページに解剖学名が日本語,英語,ラテン語と解説文,右のページにその番号にしたがったイラストが記載されており,とても見やすいことである。カラー刷りの大著なものと違い,どこでもいつでも手にとって見ることのできる,しかも品格のある本である。

 第二の特徴として,配列が系統的である。近年の解剖書にみられる神経,血管,筋,骨が一緒になった図とは異なり,骨から始まり,関節,筋,各器官系の臓器の順に用語と図がならび,最後は神経系,皮膚で終わる。局所解剖時に,あの骨はどうだったか,血管全体はどうだったかと思うことがしばしばあるが,それに応えてくれる頭の「交通整理官」である。

 第三の特徴は,今どきラテン語と思われるかもしれないが,ヨーロッパ系の教科書は,英語であってもラテン語に忠実であることである。私たち日本人に必要とされる正確な日本語名と,英語名,さらに,小さなフォントでラテン語名が記載されている解剖学図譜はこの本をおいて他に類を見ない。加えて,それらが巻末にきちんと,日本語の索引,英語の索引,ラテン語の索引と別々に分類されているのも,読みやすさを助けている。

 もちろん,本書一冊では複雑な人体の解剖の指南書とはならないが,日本人に特徴的な系統的に物事を考えようとする気質に合致した本であり,補助アトラスというだけにとどまらない良書である。解体新書もターヘルアナトミアの図譜を中心とした訳本であったが,本書は,直木賞,芥川賞ではない本屋大賞第一位に当たる医学版の解剖図譜事典ではないだろうか。

A5・頁608 定価:本体3,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-00006-2

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