医学界新聞

2014.02.03

Medical Library 書評・新刊案内


乳幼児の発達障害診療マニュアル
健診の診かた・発達の促しかた

洲鎌 盛一 著

《評 者》大澤 真木子(東女医大名誉教授・小児科/元日本小児神経学会理事長)

思わず膝を叩きたくなる宝の言葉と愛情にあふれた一冊

 故・洲鎌盛一先生による『乳幼児の発達障害診療マニュアル』がこのたび医学書院から刊行された。健診や診療場面でしばしば医療者から発せられる「様子をみましょう」という言葉が,親御さんに与える不安あるいは楽観がもたらす害を,訪れる患者さんご家族の様子から身をもって体験してきた著者。本書には,そうした事態を防ぐため,それぞれの児の背景や年齢にあった,具体的で実行可能な指導方法が記されている。子どもの健診にかかわるどんな職種の人にも役立つ,とても実用的な書である。

 著者を個人的に知る者としては,本書の一行一行に,また行間に,子どもたちのみならずその子どもをとりまくご家族,ひいては保育士,教師など全ての人々に対する,氏の温かいまなざしと愛情を感じる。氏は国立成育医療研究センターで3年連続Best Teacher Awardを贈られている。学問的に優秀なだけでなく,人格者であり,心に感動を与えながら若者を育てるのが大変上手な人物であった。

 本書は「発達障害概説」,「発達障害の診断」(病歴のとりかた,検査,診察のしかた),「乳幼児健診における発達障害の診かた」(異常をみつけるキーポイント,マイルストーン別の発達の促しかた,発達障害児の特徴的行動),「発達障害児の指導」(発達の促しかた,手の発達の伸ばしかた,視覚,視運動機能の伸ばしかた)という4章に分かれており,付録として「主な機能の発達の目安」(視力,眼球運動,聴力,仰臥位,腹臥位,手指の巧緻運動,視運動機能,手と目の協応動作,手の機能,摂食行動)が掲載されている。またコラムには,「発達障害者支援法」「内分泌攪乱化学物質」「感覚過敏」「shuffling baby」「乳児の摂食障害と経管栄養依存」「赤ちゃんは笑顔が好き」「タイムアウト法」「トークンエコノミー法」など21の役立つ情報がまとめられている。さらに,9つの症例が紹介され,読者に実感を与えるものとなっている。本書の随所に登場する乳幼児を描いたかわいいイラストの数々は,その実態が生き生きと伝わってくるばかりでなく,その愛らしい表情には,読みながら思わず顔がほころんでしまう。

 著者による実際の診察場面では,子どもが萎縮することなく,生き生きと,ありのままの自分の姿を表現していた,と多くの先生方が驚きの声を上げているという話をよく耳にした。本書のあちらこちらに,「そうかこれだ」と思わず膝をポーンと叩きたくなる宝の言葉がちりばめられている。健診にかかわるすべての方に一読をお薦めする一冊である。

A5・頁130 定価:本体2,500円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01026-9


CRCテキストブック 第3版

日本臨床薬理学会 編
中野 重行,小林 真一,景山 茂,楠岡 英雄 責任編集

《評 者》森下 典子(国立病院機構大阪医療センター臨床研究センター 臨床研究推進部臨床研究推進室長)

悩めるCRCへの「道標」となる教科書

 もしあなたの周りで,ある日突然上司から「明日から臨床研究コーディネーター(Clinical Research Coordinator ; CRC)になって」と言われて悩んでいる人がいたら,あなたはどうしてあげますか? また,CRCになったものの,仕事の進め方に悩んでいる人がいたら,どのようにアドバイスをしてあげますか? あるいは,病棟に勤務する看護師の中には,担当する患者さんが治験や臨床研究に参加している場合もあるかもしれません。そんなとき,私は迷わず本書を差し出します。

 今,治験や臨床研究を活性化するための取り組みが国レベルから個々の医療機関のレベルまで盛んに行われています。そのため,医療人としての臨床研究や治験に関する知識と,研究にご協力くださる患者さんのケアのポイントは最低限押さえておきたいものです。そんなとき,とても頼りになるのが本書です。研究者や臨床研究をサポートするCRCに限らず,医療機関で働く人なら誰でも一度は手に取っていただきたい必見の書とここに推薦いたします。

 本書は初版が出版されて以来,日本臨床薬理学会が実施する認定CRC試験を受験するための対策本として活用されてきました。現在CRCとして活躍している人の多くが一度は目を通したことがあると言っても過言ではない,まさにCRCの「教科書」であり「道標」となっています。そして初級者だけではなく,経験を積んだCRCにとっても,日常業務で悩んだり困ったりすることがあったときに,解決に導くためのヒントが随所に記載されています。そんな“痒いところに手が届く”本書の魅力は,多彩な執筆陣のうちその多くを現役で活躍しているCRCが占めていることにもあるでしょう。

 昨今,臨床研究の環境は目まぐるしく変化しています。その変化に対応するために本書は5-6年ごとに改訂され,初版から11年目を迎えた今回,第3版となりました。第2版と比べてみると,従来からの質を維持しつつも「医療機器」「トランスレーショナルリサーチ」などの項目が新たに加わり,CRC業務も「検査の基準値と精度管理」「EDCシステム利用時の支援」などが追加されています。本書の項目を追っていくだけでも,この5年間でCRCに求められる役割が,従来の医薬品を用いた治験の支援から,早期・探索的臨床試験,ICH-GCPに準拠した大規模臨床試験へと拡大していることが見て取れます。ですが,どれだけ臨床研究環境が変化しようとも,臨床試験の科学性・倫理性・信頼性を担保し,被験者の人権を守るという点について,CRCの役割が何ら変わることはありません。

 本書を読んで育った多くのCRCの仲間たちが,今日もどこかで本書を片手に奔走している姿を思い浮かべて,私も頑張ろうという気持ちが湧いてきます。

 これまで日本のCRCの養成と育成にご尽力くださり,影となり日なたとなり見守り続けてくださった責任編集者の中野重行先生,小林真一先生,景山茂先生,楠岡英雄先生には心から感謝を申し上げます。そしてこれからCRCをめざす人,CRCとしてエキスパートの道を極めたいと考えている人,臨床研究に携わるすべての方々の傍らに置いてほしい,まさにお薦めの一冊です。

B5・頁376 定価:本体4,400円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01796-1

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