医学界新聞

2014.01.27

Medical Library 書評・新刊案内


救急レジデントマニュアル
第5版

相川 直樹 監修
堀 進悟,藤島 清太郎 編

《評 者》中村 惠子(札幌市立大副学長・看護学研究科長)

救急のチーム医療で協働する多職種の必携書

 『救急レジデントマニュアル』は1993年11月に初版が発行され,このほど第5版が刊行された。持ちやすいポケットサイズ(11×18 cm)の中には,ぎっしりと内容が詰まっている。本書の編集者の一人,慶大救急医学教授の堀進悟先生は「第5版の序」で以下のように記している。

 「(前略)医学研修は航海(臨床)と海図(教科書)に例えられてきた。航海では暴風に遭うことがある。海図を読まない航海は危険であるが,海図をいくら学んでも航海しなければ船乗りになれない。本書はERで使用するマニュアル(簡単な海図)であり,臨床研修(航海)と一体になって,初めて効果を発揮するように編集されている。(後略)」

 本書は全9章の構成で,救急部門で遭遇する症状や疾患について要点を簡潔に押さえている。例えば,第1章「救急患者の診療にあたって」では「レジデントの心構え」「医師の応招義務」「患者・親族への対応と説明の仕方」「注意事項(CPA患者,患者死亡,転送)」などが記載されており,ERで困っている研修医をフォローする内容となっている。第2章「救急診療の進め方」,第3章「救急蘇生法」,第4章「症候からみたER診療」,第5章「外傷」,第6章「中毒,環境障害,テロリズム」では,基本的に「(1)ポイント,(2)最初の処置,(3)重症度の判定,(4)病態の把握・診断の進め方,(5)引き続き行うべき救急処置,(6)入院・帰宅の判断」の順に書かれている。これはERで患者診察を進めるときの順序を踏まえていて,現場で活用しやすい。

 第7章「各科救急」では,小児科,精神科,眼科,耳鼻科,産婦人科,歯科口腔外科の各科で救急受診数が多い症候ごとに,状態の把握,対応と処置,入院・帰宅の判断が示される。第8章「救急治療手技」は,酸素療法,ベンチレーター,人工ペーシング,PCPS,血液浄化などの緊急治療について。第9章「救急医療関連事項」では,インフォームド・コンセント,脳死判定基準,届け出義務,災害医療など,救急指導医が来るまで何をしたら良いかがわかる。巻末には資料として,ISS(Injury Severity Score)や抗細菌薬一覧など19項目が約30ページで掲載されている。これらは確認したいときにサッと開くことができて,研修医や看護師の強い味方になるだろう。

 救急医療の第一線で活躍している医師によって執筆された本書には,現場でとっさの判断が必要なときに知りたい情報が精選されている。評者と救急医療のかかわりは30年余りになるが,その当初(1980年代初頭)は救急医療に関する医学書や看護書のタイトルは極めて少なく自己学習や後輩指導には難儀したものである。本書が当時出版されていたら,救命救急センターで働くチーム医療者全員の実践書として活用していたに違いない。救急医療のエッセンスが凝縮されており,研修医・指導医だけでなく救急のチーム医療で協働する多職種の必携書として,本書を推薦したい。特に看護師は本書を1冊手元に置いて救急業務を実施すると,医師と共通の視点で医療が進行し,看護アセスメントも容易になるだろう。

B6変・頁536 定価:本体4,800円+税 医学書院
ISBN978-4-260-01874-6


臨床実践力を育てる!
看護のためのシミュレーション教育

阿部 幸恵 編著

《評 者》垣花 美智江(那覇市医師会那覇看護専門学校学校長)

学習者主体の教育方法を具体的に提示した書籍

 本書の巻頭で著者は,「学習者が看護師(あるいは看護学生)として出会うであろう患者・家族に対して彼ら自身の知恵と心,そして身体を使ってエビデンスに基づいた看護を提供できるよう導く,つまり,看護教育がめざすものは,学習者が自ら考え,自立した看護実践が行えるまで育てることである」と記しています。

 私は,この一文の中に著者がこの本で伝えたい命題があると理解しました。これは,看護師は臨床経験のなかで自己のキャリアを育み,成長し続けなければならない。そして,教育者(指導者)は,学習者主体の能動的学習方略を考え,学習者の課題発見と学習意欲を引き出す支援者として存在しなければならない,ということにほかなりません。

 この命題は,私たち教員が教育課題として取り組んでいる「看護実践力の育成」「自己教育力の育成」「学習者主体の教育」に一致するものです。私が所属する看護専門学校においても,フィジカルアセスメントや心音・肺音の聴取できるシミュレータ,リフレクションを可能にする視聴覚教材などの整備,学内技術教育へ臨床指導者を参加させるなど,試行錯誤を繰り返しながら教育方法を模索してきました。しかし,納得できる...

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