コンピテンシー・モデル活用術!(宗村美江子,別府千恵,武村雪絵)
対談・座談会
2014.01.27
【鼎談】看護管理者の行動指針や評価指標になるコンピテンシー・モデル活用術! | |
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適切な評価による看護管理者の育成は,患者満足度の高い看護を実現する上で施設にとって重要なテーマだ。また,看護管理には通常の看護業務とは異なる能力が必要とされ,自らの管理能力に自信が持てない看護管理者も少なくないだろう。こうした看護管理者の成長を促す行動指針としても,施設における管理者の評価指標としても活用できるのが「コンピテンシー・モデル」だ。
本紙では,コンピテンシー・モデルをいち早く導入した虎の門病院の宗村氏,本年中の同モデル導入に向けて準備を進めている北里大病院の別府氏,自施設への導入だけでなくコンピテンシーを用いた看護管理学会主導の教育プログラムの企画にも携わる東大医科研病院の武村氏の三氏を迎え,コンピテンシー・モデルの活用法と導入のメリットについてお話しいただいた。
宗村 私が在籍する虎の門病院では,2005年からコンピテンシー・モデルの開発を始め,07年から実際に運用しています。当院ではもともと,看護師一人ひとりの能力を高めて全体の看護の質を向上させるための教育プログラムを充実させてきたのですが,患者さんにもっと満足してもらえるケアを提供するためには,現場をマネジメントする看護管理者の質を上げなければと考えていました。その方法を探っているときに出会ったのが,コンピテンシー・モデルです。
武村 コンピテンシー(MEMO)という概念は,経営などの分野でもよく用いられますよね。私は,大学院生時代に読んだ経営学の雑誌でコンピテンシーという概念を知り,看護の分野でもCNSやNPといったアドバンスト・プラクティス・ナースのコンピテンシーについて研究されていることを知りました。その後,自分が大学病院の副看護部長になり,大学の方針で新しい評価制度を導入する必要に迫られたため,09年からコンピテンシー・モデルを導入することになりました。それまでの「できている/できていない」を業務ごとに細かく評価する形式より,「その業務をどんなふうに行うか」に注目するほうが,管理者としての実践能力の違いが明らかになると考えたのです。
別府 私がコンピテンシー・モデルに出会ったきっかけも,書店でスペンサーの本1)を手にとったことでした。09年当時,看護部長になったばかりだった私は,看護師としては仕事ができたのに管理者になると力を発揮できない人に関して,どう成長させればいいのか,頭を悩ませていました。看護師と管理者では,求められている能力が違うのではないかと感じていたのです。そこで,既存のクリニカル・ラダーやマネジメント・ラダーを改編してコンピテンシーと結び付ける新たな仕組みを作り,今年から導入しようとしています。
成果につながる素晴らしい働きから学ぶ
宗村 北里大病院は,今まさにコンピテンシー・モデルの導入に向けた準備の真っ最中なのですね。
別府 ええ。今年の5月に新病院がオープンするので,これに間に合うタイミングで導入する予定です。「病院のリニューアルとともに私たちも変わるんだ!」と,看護部内の意思統一を図る機会にもなっています。
宗村 コンピテンシー・モデルを導入するためには,まず自施設の理念の組織分析が必要となりますが,具体的にはどのような取り組みを行っていますか。
別府 まずは,自分たちがどのような看護師を求めているのか,徹底的に話し合いました。具体的には,それぞれの職域に応じてどのような行動が成果につながっているのか,主任クラス以上の看護師でグループワークを繰り返し実施しました。また,この作業と並行して,院内で素晴らしい活躍をみせる看護師にインタビューを行い,彼らにどのような特長があるのかも調べています。
武村 素晴らしい働きをする人に倣うことは,とても大事ですね。私は副看護部長時代,目標管理の評価面接の際に看護師長からどんなふうに目標に取り組んだのかを聞く機会がたくさんあり,本当に勉強になりました。そこで,看護管理者対象の目標管理発表会を開き,目標に向けて成果を出した看護師長がどのように思考し行動したか,そのプロセスを他の管理者に紹介する機会をつくったのです。普段は見えない部分ですし,皆が「なるほど」と思う学びが豊富にあったため,大変好評でした。
別府 ほかの人の思考や行動のプロセスを学べる機会というのは,とても貴重ですね。
武村 ええ。また,管理者研修ではマネジメントの構成要素の学習やトレーニングを実施していたため,コンピテンシー・モデルを導入する際にも非常にスムーズに理解が得られました。
ただ,実際の評価に使うには各概念を正しく理解する必要があるので,ちょっと大変でしたね。コンピテンシーについての説明会を開いたり,看護師長,主任がそれぞれグループワークを行い,各コンピテンシーの概念と日常の具体的な実践とを結び付ける作業をしたりと,さまざまな方法でコンピテンシーへの理解を深めてもらいました。
宗村 コンピテンシーの本質を一つひとつ理解するというのは,本当に難しいですね。当院では,各コンピテンシーの力量をレベル分けしたコンピテンシー・モデルを導入しており(表),各職位に応じて必要な力量を明示しています。例えばレベル0は,「主任レベルの看護師に最低限達成してほしい能力」という具合に設定しています。これとは別に,コンピテンシーの解釈や定義もまとめ,事例とコンピテンシーを結び付ける作業や説明会などの取り組みを通してコンピテンシーを理解してもらえるよう努めています。
表 虎の門病院におけるコンピテンシー・モデルの例(『看護管理者のコンピテンシー・モデル』p. 142より一部抜粋して掲載)(拡大した表はこちら) |
別府 導入までに数々の苦労があるコンピテンシー・モデルですが,実際に導入して良かったと実感されるのはどのような点でしょうか。
宗村 最大のメリットは,看護管理者が自身の能力を発揮しながらマネジメントできているかどうかを,上司である評価者が行動に基づいてきちんと判断し,本人にフィードバックできる点ではないでしょうか。
武村 そうですね。現場の看護師長からは,主任や副看護師長を指導する際に「あなたには,こういう場面でこのように行動してほしい」と,具体的な説明ができるようになって助かるという声が上がっています。また,評価される側からも,自分の課題が具体的にわかるようになったという声が聞かれました。コンピテンシーの概念を理解してもらうまでの過程は大変でしたが,使っていくなかで,皆がその有用性を実感しているのではないかと思います。
強みと弱点を知り,成果につながる行動を起こす
武村 コンピテンシー・モデルは,評価場面以外に,個々の成長を促す行動指針としても有用です。特に「どんな成果をもたらしたか」が重視される看護管理者にとって,どう行動すれば成果につながりやすいかを示すコンピテンシー・モデルは大変役立ち,看護管理者の自発的な成長をサポートしてくれるでしょう。
ここでいう「成果」とは,病床の稼働率や看護師の退職率などの指標で簡単に表されるものではなく,「病院や看護部の理念やミッションにつながる変化をもたらした」ということなのですが,このままでは抽象的で,実際にはどのように行動すればいいか,わかりにくいですよね。そうしたときに,過去の成果を振り返って,そのときの行動をコンピテンシーに還元することができれば,次の成果を挙げるための行動に活かすことができるのではないでしょうか。
別府 成果を挙げるためには自分を客観的に評価することが大切です。毎回の成果をコンピテンシー・モデルに当てはめると,自分の強みとなるコンピテンシーや,弱点であるコンピテンシーがわかってくるので,長所はそのまま伸ばし,弱点はどうすれば克服できるかを考えることができます。コンピテンシー・モデルを一つの行動モデルとして扱い,自分の行動にも反映できるといいですね。
武村 実際にコンピテンシーを上手に活用している例などはありますか。
宗村 一番よくコンピテンシーを役立てているのは,自分の行動計画の中にコンピテンシーを含めている人だと思います。例えば,「私のコンピテンシーはレベル2まで到達したから,次はレベル3をめざそう。そのためには,どんな行動,どんな成果が望まれるのかを考える」という使い方ですね。過去の成果を後ろ向きに評価するだけではなく,意識的に将来の行動を変えるためにコンピテンシーを活用する。そんな使われ方が理想的です。
武村 ただ,気を付けたいのはコンピテンシーを高めること自体を目的化しないことです。すべてのコンピテンシーが高い「あるべき看護管理者の姿」を追い求めたい気持ちはわかりますが,私たちの目的は,あくまでも患者さんに有益な成果を出すこと。コンピテンシーは,そのための手段であることを忘れないことが大切ですよね。
宗村 そうですね。コンピテンシーはあくまで指針・指標ですから,今年到達できたレベルに来年も到達するとは限りません。部署や役割などの環境にも左右されるので,本人の知識や技術の問題ではない場合もあります。
武村 環境でいえば,育児休業など長期間の休みから明けたばかりのときにも,コンピテンシーのレベルが下がってしまうことがありますが,逆に子育てや介護を経験して,レベルが上がるコンピテンシーもあります。指標としてのコンピテンシーレベルが下がったからといって,看護師として後退したわけでは決してありません。
別府 コンピテンシーを高めて成果をもたらすと
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