今,なぜリハビリテーション栄養か(若林秀隆)
寄稿
2013.12.23
【寄稿】
今,なぜリハビリテーション栄養か
若林 秀隆(横浜市立大学附属市民総合医療センターリハビリテーション科)
「栄養ケアなくして,リハビリテーションなし」の原点
リハビリテーション(以下,リハ)医である私が栄養に関心を持つようになったきっかけは,脳梗塞で重度の摂食嚥下障害の患者さんが餓死してしまったことでした。最大の原因は不適切な栄養管理でしたが,栄養状態が悪化していく患者さんに当初,積極的な機能訓練を行っていたことも,餓死の一因だったのです。
その後も餓死寸前の低栄養であった患者さんのリハを担当することが何度かありましたが,やはりリハだけでは機能,ADL,QOLを十分に改善させることは不可能だと痛感し「栄養ケアなくしてリハなし」「栄養はリハのバイタルサイン」と考えるようになりました。そして2004年には前所属先にて栄養サポートチーム(NST)を立ち上げ,リハとNSTを同時に実践する体制を整備したのです。
当初は,極度の低栄養のため機能改善は困難であった患者さんが少なくありませんでした。しかし次第に,従来の予後予測では「車いすベースのADLがゴールだろう」と判断した方が歩行自立できたり,「経口摂取は楽しみ程度にとどまる」と判断した方が3食経口摂取可能となったりと,予測を超える回復を示す患者さんが出てきたのです。こうして栄養改善とリハの併用による予期せぬ成功を経験したことで,栄養の重要性の確信をますます深めた結果,たどり着いたのが「リハビリテーション栄養」という概念でした。
これは,スポーツ選手に対する「スポーツ栄養」と同様,障害者や高齢者が最高のパフォーマンスを発揮するためには,「リハ栄養」が必要という考え方に立つ概念です。具体的には,障害者や高齢者に対し,SGA(主観的包括的評価)やMNA®-SF(簡易栄養状態評価表)などによる栄養評価も含め,国際生活機能分類(ICF)における「心身の機能」「生活活動」「社会への参加」,それぞれについて評価を行います。その上で,各項目において個人のパフォーマンスを最大限発揮できるよう,機能訓練直後に分岐鎖アミノ酸を多く含んだ栄養剤を摂取するなど,運動栄養学の知見を応用した栄養管理を行うものです。
リハ栄養の視点でみた摂食嚥下障害の原因とは
特に「栄養ケアなくしてリハなし」という考え方が活きるのが,摂食嚥下障害です。臨床現場では,低栄養のために重度の摂食嚥下障害を抱えている患者さんが少なくありません。逆に言うと,経管栄養などによって「栄養」状態を改善することで,摂食嚥下の「機能」が改善し,経口摂取に移行できる患者さんもいるということです。
また,摂食嚥下障害の原因として最も多いのは脳卒中ですが,リハ栄養の視点からはこの病態を「脳卒中による麻痺」によるものではなく「サルコペニア」によるもの,ととらえることができます。サルコペニアとは,狭義では加齢による筋肉量低下,広義では加齢,活動,栄養,疾患による筋肉量,筋力,身体機能の低下を指す概念であり1),本年の第19回日本摂食・嚥下リハビリテーション学会では「サルコペニアの摂食嚥下障害」について「加齢以外の原因も含めた全身および嚥下筋の筋肉量低下,筋力低下による摂食嚥下障害」と定義されました。また,下記のとおり診断基準案も作成されました2)。
◆「サルコペニアの摂食嚥下障害」診断基準案(2013年9月23日) (1)+(2)+(3)+(4)→difinite diagnosis |
サルコペニアの摂食嚥下障害と診断された場合,最も効果的な治療は,筋肉量増加・栄養改善をめざした積極的な栄養管理と筋力トレーニングの併用です。「1日のエネルギー投与量=1日のエネルギー消費量+エネルギー蓄積量(200-750 kcal)」となるように,栄養摂取とトレーニングを行います。サルコペニアの摂食嚥下障害については,このように概念と診断基準案が作成されたことで,今後のエビデンス創出が期待されるところ...
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