MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2013.12.16
Medical Library 書評・新刊案内
質的研究法ゼミナール
グラウンデッド・セオリー・アプローチを学ぶ
第2版
戈木クレイグヒル 滋子 編
《評 者》やまだ ようこ(立命館大特別招聘教授・質的心理学)
質的研究者が贈る“共同生成する生きたテクスト”
「質的研究法」は,今では多くの学問領域で市民権を得ているといってよいでしょう。いうまでもなくグラウンデッド・セオリーは,その中心的な研究方法の一つです。著者は,その日本の第一人者として大きな役割を果たしてこられました。
私が尊敬するのは,著者が初学者にもわかりやすく実践的なテクストを出され,すでに定評あるそのテクストを繰り返し改訂し続けてこられたことです。そして,今度ついに『質的研究法ゼミナール』第2版を出されました。そこには,「研究方法は生き物で,使い手の成長に伴って変化するものだと思います。いったん出版した以上,よい方向への変化があれば,可能なかぎりそれにあわせて書き替える責任があるのではないかと思ったのです」という著者の思想が裏打ちされています。
これは,教科書としてのテクストだけに当てはまる思想ではなく,「共同生成する生きたテクスト」をめざしている質的研究者の多くが持つ思想だと思います。しかし,私を含めて「言うは易く,行うは難し」,本当に実行することは容易ではありません。著者が,ゼミナールの受講者も巻き込んだ教育プロセスの中で「共同生成する生きたテクスト」を真に実践されてきた成果が,この第2版には生き生きと盛り込まれています。
グラウンデッド・セオリーは,普及しましたが,「正しく根づいていない」「研究法がデータ分析だけを指すと誤解されている」という著者の嘆きに,私も大きく賛同します。そこで第2版では,「研究テーマとリサーチ・クエスチョン」「データ収集」の説明などが加わりました。グラウンデッド・セオリーだけではありませんが,特に日本では,てっとり早く使える即席の技術としての「質的データ分析法」を求める傾向が強いように見受けられます。研究は,どのような問いを立て,何を探求したいのか,そのためにはどのような方法論をとるべきかを十分に考えてなされなければ,新しい「知」を生み出す「学問」や「研究」の領域には到達しないでしょう。
「はじめて質的研究法を学ぶときは,1つの方法にコミットして,系統立って学んだほうがよいと思います。いろいろなものをちょっとずつかじるというやり方では,パッチワークのような知識になる危険性が高くなってしまいます」。
全体を通じてみられる,経験者でないと...
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