知っておかなければならない職業性皮膚疾患 ラテックスアレルギーの危険性と安全対策(矢上晶子)
寄稿
2013.12.16
【寄稿】
知っておかなければならない職業性皮膚疾患
ラテックスアレルギーの危険性と安全対策
矢上 晶子(藤田保健衛生大学医学部皮膚科学講座・准教授)
ラテックスアレルギーは,天然ラテックス蛋白を含むゴム製品により誘発される即時型アレルギーである。本疾患は,1990年代から主にゴム手袋を利用する医療現場において患者が増加した。その後さまざまな対策が行われ,新規の患者は少なくなってきたが,現在でもラテックス製品による即時型アレルギーの症例は報告されており,今後もアレルギーの領域に限らず,各診療科,看護部等において啓発活動が必要な疾患である。
特に医療従事者は,幅広い医療現場で本疾患に遭遇する可能性があるため,その臨床症状,アレルゲン,診断,食物との交叉反応性を理解し,予防対策,手袋の選択など"適切な医療安全対策"を行っていくことが求められている。医療従事者自身がハイリスクグループであることを認識し対応することも大切である。
さらに,近年では,ラテックス製手袋および合成ゴムに含まれる手袋製品による遅延型アレルギー(接触皮膚炎)の報告もあり,職業性皮膚疾患としても注目されている。
アナフィラキシーショックに発展する危険も
ラテックスアレルギーは,医療従事者の3-12%,一般の人の1-6%が罹患しているとされる。感染防御対策のため,医療現場において使い捨てのラテックス製手袋の使用が劇的に増加したことにより,手袋の製造法が一時的に変更されるなど,粗悪な(アレルギー性の高い蛋白質含有量が多い)手袋が市場に供給されたことが患者増加の要因とされている。
そもそも,ラテックスとは,東南アジア地域で栽培されているHevea brasiliensis(パラゴムの木)の樹液である。採取された樹液を加工・形成することにより,手袋やゴム風船,各種医療用具などさまざまな製品が作り出される。これらの最終製品に残存する水溶性の蛋白質成分が抗原(アレルゲン)となる。
通常,天然ゴム製品に接触してから数分以内に症状が出現する。接触部位の掻痒感や紅斑,蕁麻疹,鼻汁,喉の痒み,息苦しさ,咳,喘鳴などが誘発される。症例によってはアナフィラキシーショックにも発展する。
ラテックスには250種類以上の蛋白質抗原が含まれているが,そのうち14種の蛋白質(Hev b 1-14)が,ラテックスの主要抗原として正式に命名・登録されている。天然ゴムを含むあらゆる製品がラテックスアレルギーの原因となり得るが,医療従事者においては,日常的に装着するゴム手袋がラテックスアレルギー発症の最大の原因であり,14種類の主要抗原の中でもHev b 6.02(hevein)が原因抗原とされている。
医療従事者は"ハイリスクグループ"
天然ゴムを含む製品に曝露し続けていると,ラテックス抗原に感作されるリスクが高くなる。ラテックスアレルギーの"ハイリスクグループ"とされるのが,(1)ラテックス製手袋を頻繁に使用する医療従事者,(2)アトピー体質(アトピー性皮膚炎,アレルギー性気管支喘息,アレルギー性鼻炎,アレルギー性結膜炎など)を持つ者,(3)二分脊椎症を有する患者など,先天的な機能障害があるために繰り返しの手術や医療処置を必要とする者,(4)頻度は低いがラテックス製品製造業者などである。よって,看護師を含む医療従事者はハイリスクグループに属するため,ラテックスアレルギー患者への対応とともに,自身が感作されないように注意しなくてはならない。
医療用具の素材は経時的に変化する。医療用具の代替品等について,日本ラテックスアレルギー研究会が発行している『ラテックスアレルギー安全対策ガイドライン2009』に......
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