医学界新聞

寄稿

2013.11.18

【寄稿集】

男性看護師に聞く,「性差は看護の質に関与する!?」


 施設内ではまだまだ少数派の男性看護師。これまでの経験から感じる,男性だからこそやりやすいことや,やりづらいことって? 男女の性差は看護の質に影響を与えると思う?――。率直な疑問について,さまざまな領域で活躍する現役男性看護師の4人に答えていただきました。

こんなことを聞いてみました
(1)施設の男性看護師数(%)/全看護師数(2013年10月時点)
(2)「男性だからこそ」やりやすいこと/やりづらいこと
(3)ズバリ,性差は看護の質に関与する!?
(4)男性看護師の同志へ一言!
村松 和歩
前田 将文
山口 円 福田 豊洋


あえて中性を演じている!?

村松 和歩(富士市立中央病院 在宅療養支援グループ 訪問看護認定看護師 1987年卒,看護師26年目)


(1)27人(6.2%)/438人

(2)男性看護師のほうが医療機器の取り扱いはやりやすいのかもしれません。かつて手術室勤務だったときはME機器の動作不良時に呼ばれることが多くありました。また,腕力で期待されている面もあって,病棟勤務時には移乗や体位変換の手伝いを依頼されることは数多くありました。私としては,モンスターペイシェントやその家族の対応時に,女性看護師より男性看護師のほうが,感情的にならず,淡々と応対できる方が多いと感じています。特に救急外来で見られるような,理不尽で高圧的に要求を出してくる患者・家族に対しては,男性のほうが冷静かつスムーズな対応ができるのではないでしょうか。

 女性にまったくかなわないこともあります。多忙を極める看護現場では,同時に複数の業務の遂行を求められるのが常です。女性が3つ以上のタスクを同時に難なくこなす場面でも,男性のほうは何かと1つは忘れてしまう印象です。こればかりはかなわないと,私はあきらめています。

 女性ばかりのギスギスした職場環境において,「男性看護師はその雰囲気を中和させる役割がある」とよく言われます。が,私自身は中和作用を果たしている実感はありません。同様に,女性看護師から「男性というよりも中性に感じる」と言われることも多いのですが,私たち男性看護師は声を荒げ,きつい言い回しはしないよう,つまり笑顔をもって優しく同僚の女性たちに接するように努力しており,“あえて”中性を演じている面も多々あるのです。否,本質的にそのような態度ができない男性は看護職場で働き続けることが難しいのかもしれません……。

(3)質そのものに差はないと思いますが,やはり性質はあるのかもしれません。個人的な見解ですが,女性看護師はその日のメンバーの関係性や,その日の気分に左右されて仕事を行うことがあるのではないでしょうか。その点,私たちは職場を俯瞰的に眺め,立ち位置を見極め,気分のムラなく,どんな患者さんでも差別せずに一つひとつの看護ケアを丁寧に実践できていると自負しています。

(4)少数派ゆえの困難もあるかと思います。時には落ち込むかもしれません。しかし,自らの状況もアセスメントし,性差を乗り越え,言うべきことは言い,やるべきことはやり抜ける看護実践能力の獲得をめざして,日々精進してまいりましょう。それはもちろん,患者さんのQOL向上のために。


「差」を専門性と認識する

山口 円(大阪赤十字病院 外科病棟 手術看護認定看護師 2000年卒,看護師14年目)


(1)31人(4.4%)/891人

(2)最近,臨床で勤務する看護師の6%以上が男性で占められてきたため,男性看護師と聞いても違和感を抱かなくなってきたのではないでしょうか。医療現場はもちろん世間一般の認識も大きく変わってきたと,患者さんとのかかわりを通して感じています。

 私が入職した当時はまだ男性看護師の社会的な認識も低く,患者さんには医師と間違われて治療方針の相談をされ,非常に困った経験があります。特に高齢患者さんは,何回にもわたる説明を要し,理解していただくまで非常に時間がかかったものです。

 ただ,そうした「やりにくさ」を感じる面も,最近は少なくなってきたようです。先人の活躍によって,マイノリティであった男性看護師も女性社会である看護界に受け入れられ,世間一般にも認識されるようになってきたため,かつて「やりにくさ」だったものが看護における専門性にとって変わってきたからなのかもしれません。つまり臨床では,何をとっても「昔よりはやりやすく」なってきているのです。

 一方で,男性患者が抱く羞恥心への対応ができる,女性集団において男性は緩衝材として機能できる,同性の医療職との連携が図りやすい……といった,「やりやすさ」は,いまだ男性看護師のメリットであると感じます。

(3)私は男性看護師だからといって,ケアの質に差が生じるとは考えません。ただ,男女によって力を発揮できる部分に違いは当然あるものです。男性という理由で医療機器の修理を任されたり,体位変換・移乗などの力仕事を頼まれたりした経験は,男性看護師であれば皆あるのではないでしょうか。

 反対に,女性患者特有の不安への対応や処置を同僚の女性看護師に依頼したこともあるはずです。患者にも性別はあり,医療現場において求められるケアにも,男女の患者によって違いが必ず存在します。ですから,それらの違いを専門性として看護師間で認識し,患者に合わせた看護ケアを提供する,それこそが最高の看護だと思うのです。

(4)男性看護師が増えることで,わかり合える仲間が増えるのは非常に心強く感じます。世の男性看護師の皆さんも,男性看護師が働きやすい職場を作っていくとともに,男性としての役割や特色を活かしつつ,「看護師」そのものが魅力あふれる職業になるようともに男性の看護を伝承できれば幸いです。


「男に看護は無理」に抗って

福田 豊洋(伊勢赤十字病院 緩和ケア病棟 がん性疼痛看護認定看護師 1999年卒,看護師15年目)


(1)34人(4.7%)/718人

(2)看護師になって今年で15年目。よく続けてこられたなと,今あらためて思います。就職時,先輩の男性看護師は2人しかいませんでした。とても珍しい存在だったため,白衣の男性というだけで「リハビリの先生ですか」「先生,病気のほうは順調ですか」と患者さんから尋ねられてばかりでした。まずは自分が看護師である旨を説明することから,一日の業務が始まっていた日々を今でも覚えています。

 就職して数か月たったころ,ある患者さん(以下Aさん)の採血を失敗し,先輩の女性看護師に代わってもらうことがありました。その後,隣のベッドの患者さんの処置をしていると,Aさんのご家族の方々が「やっぱり男に看護は無理よね」って話をしているのが聞こえてきました。採血を失敗したというショックよりも,「男に看護は無理」という言葉が何よりも辛いものでした(当時,病棟に男性看護師は僕1人だけで,良くも悪くも目立つ存在でした)。正直,「採血の失敗=男に看護は無理」なんて考えはおかしいと思いましたが,Aさんのご家族に悪い意味で男性看護師を印象付けてしまったことは事実でした。こうした環境で男性の自分が看護師を続けていけるのかと不安にもなりましたが,「ここで逃げたらいかん,逃げたら負けだわ」と自分を奮い立たせ,その後の看護の励みになりました。あの時,Aさんのご家族の言葉があったからこそ,今でも「逃げたら負け」と看護師を続けてくることができたと感じており,本当に感謝しています。

(3)確かによく「男の人なのに看護師って大変ですね」と言われるのですが,僕自身は性差をさほど気にしていませんし,その質にも影響はないと思います。看護師の性別や性格,年齢,経験,社会的背景等の多様性は,看護の対象となる個々の患者さん・ご家族にとって,質の高い看護を受けるためのツールや選択肢が豊富であることを意味すると考えます。性差もツールや選択肢の一つと考えれば,患者さんやご家族と看護師双方にとって理解しやすいのではないでしょうか。今後もっと男性看護師が増え,さらにニーズがあるようであれば,男性看護師だけの病棟を誕生させるのも夢ではないのかもしれませんね(笑)。

(4)昨年度,「三重男性看護師会」を発足させ,僕が副代表を務めています。いまだ少ない男性看護師の情報交換の場を作ろうと始めたものです。将来看護師になりたい男子学生等も交え,「男性看護師って一体どんなことを考えているんだろう」という疑問を共有できればと思っています。Facebook上でも広報活動を始めており,次年度からは全国展開も予定しています。ご興味をお持ちの方はご覧ください!


少数であることが,患者との関係性づくりに有利

前田 将文(名古屋大学医学部附属病院 胸部外科病棟 2007年卒,看護師6年目)


(1)70人(8%)/約875人

(2)当院の男性看護師は,産婦人科病棟を除いた一般病棟・小児病棟・ICU・オペ室・放射線部等に配置されています。どの部署においても大半が女性であり,その中で仕事をしていく上では,喜びも苦労もあると感じます。

 やはり女性と比較して腕力があるので,男性看護師のほうが保清やリハビリ,動作の介助等はやりやすいと思います。身体の大きな患者さんであってもある程度のケアであれば単独で行えますし,女性看護師からの応援の要請を受けることも多くあります。せん妄等の影響で認知力が低下した患者さんが興奮しているときも,女性看護師が対応するより,身体の大きな男性看護師が対応したほうが落ち着きやすいと感じたことが何度もあります。

 また,「少数であること」は悪い面ばかりでもありません。患者さんからすぐに顔や名前を覚えてもらえるという利点もあって,患者さんとの関係性づくりに役立つと感じる場面が多いと思っています。

 一方で,女性患者さんへの対応のときは常に気を使う必要があります。特に検査や,手術後の傷の状態確認,保清等のときは必ず女性看護師と一緒に入るようにしています。若い女性患者さんを受け持つ場合であれば,ケアや処置の内容によっては女性看護師にすべて依頼し,自分はその場にはいないようにする等,患者さんの羞恥心には最大限に配慮することが求められます。

(3)ズバリ,男女の差はない! と思います。さらに言えば,性差は看護のケアの質に表れるものではありませんし,表れてはならないと考えています。看護師としてよりよい看護サービスを提供するという目標は,男女関係なく,共通のものなのです。

 確かに女性のほうが隅々まで気配りができ,丁寧で優しい対応ができるというイメージは私もありますし,現に同じ職場の女性看護師に見習うべき点は数多くあります。しかし,お世話になった先輩男性看護師の中にも,ベッドサイドでの身の回りの整理やルート類のまとめ方,処置後の片付けなど素早く綺麗に行う方はいました。不得意と思われる分野であっても,看護師一人ひとりの経験(教育)と意識付けで変えることできますし,変えていかねばならないと考えています。

(4)女性は,男性と違っておしゃべりが好きな生き物です(笑)。何かと言葉数が多いので,少し耳が痛くなることもあると思いますが,どんなときも笑顔で返答するようにしましょう。そうすると自然と周りの人も笑顔になると思います。心や体の調子が悪いときでも常に満面の笑顔で頑張りましょうね。僕も毎日頑張っていますから!

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