医学界新聞

2013.10.14

Medical Library 書評・新刊案内


日本近現代医学人名事典
【1868-2011】

泉 孝英 編

《評 者》高久 史麿(日本医学会長・自治医大名誉学長)

日本の近代医学の歴史を語る貴重な資料

 今回,医学書院から泉孝英先生の編集による『日本近現代医学人名事典』が刊行された。この事典で紹介されている方々は,2011年末までに死去された医療関係者の方々である。紹介の対象になっているのは医師,医学研究者が大部分であるが,歯科医師,看護師,薬学,体育指導者,宣教師,事業家(製薬業),工学者(衛生工学),社会事業家,厚生行政の方,生物学者など,幅広い業種の方々であり,いずれもわが国の医療の発展に大きく貢献された方々である。本書に紹介されている方々の年代は誠に長く,1868年から2011年までの143年に及び,その数は3762名に達している。

 本書の「序」にも紹介されているように,1868年はわが国に西洋医学が導入された年であるから,本書は,日本の近代医学・医療に貢献された先達のご経歴とご業績を網羅した"一大人名事典"であるといって過言ではないであろう。

 この書評を書くにあたって,私自身が指導を受けた20人近くの恩師の方々の名前を拾い上げてその内容を読んでみたが,その内容の正確さに強い感銘を受けた。なお,この20人の方々の各々のご業績の紹介に関しては,その内容にやや濃淡があるように感じられたが,これだけ多くの方々の紹介であるからこの程度のばらつきはやむを得ないであろうと考えている。

 泉孝英先生が胸部の疾患をご専門にされておられたことは,先生が京都大学の教授の時からよく存じ上げていたが,先生がご退官後14年間かけて本書の編集にあたられたことを本書の「序」で知った。医学者としての泉孝英先生しか知らなかった私にとって,大きな驚きであった。あらためて泉先生の本書の編集に対する甚大なご尽力に心からの敬意を表すると同時に,泉先生のご努力が本書を日本の近代医学の歴史を語る貴重な資料にしたと私は考えている。

 このような貴重な資料の作成に成功された泉孝英先生ならびに医学書院の方々に衷心からお祝いの言葉を捧げるとともに,1人でも多くの方々に本書を貴重な資料として温存していただきたいという私の願いの言葉をもって,推薦の言葉の締めくくりとしたい。

A5・頁810 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00589-0


SHDインターベンション ハンドブック

ストラクチャークラブ・ジャパン 監修
古田 晃,原 英彦,有田 武史,森野 禎浩 編

《評 者》夜久 均(京府医大大学院教授・心臓血管外科学)

カテーテル治療専門でない多職種にも読みやすい貴重な書

 ストラクチャークラブ・ジャパンの監修による,書籍『SHDインターベンション ハンドブック』を読ませていただいた。SHDに対するカテーテル治療を網羅し,その病態生理,手技に至るまでを簡潔にまとめてあり,この本を一読すればSHDに対するカテーテル治療の概要が理解できる構成になっている。この本の特徴はいくつかある。

 まず,コンパクトなボリュームであることである。SHDに対するカテーテル治療のすべての事項を細大漏らさず,わずか200ページそこそこ,厚さ約1 cmの本にまとめられている。どこにでも持っていけ,また平易な文でわかりやすい。カテーテル治療を専門としていない小生にとっても非常にとっつきがよく,斜め読みだが一気に読んでしまえた。このことは,考えてみればSHDに対するカテーテル治療という領域の書として,非常に重要な要素である。というのは,この治療は「ハートチーム」なしには完璧には遂行できない治療であり,このチームの中にはカテーテル治療を専門にする医師以外に,循環器疾患を総合的に担うcardiologist,心エコーを専門に行うcardiologist,小生のような心臓血管外科医,麻酔科医,画像専門の放射線科医,臨床工学技士,看護師,そして後期研修医などのjunior staffが参加する。構成員すべてが分厚いバイブルを読んで,ハートチーム・カンファレンスに臨むことは不可能である。そういう意味で,私も含めてカテーテル治療を専門にしていない者にとっては非常に貴重な書であり,多職種のハートチームでカンファレンス,治療を行っていく上ではなくてはならない書である。

 もう一つの特徴は,各疾患の病態生理の解説があることである。大動脈弁疾患,僧帽弁疾患,三尖弁疾患に関しての病態生理,解剖が説明してあり,そして引き続きそれぞれのカテーテル・インターベンションについての詳しい解説がなされている。シャント疾患に関しても同様の構成になっている。基本的な解剖や病態生理を一通りおさらいするには非常に便利であるし,循環器疾患には普段携わっていないハートチーム構成員にとっても有用であることは疑いの余地がない。また,現在のガイドラインに基づいた治療指針を示してあり,日常の臨床において常に手元において利用することも可能である。

 SHDに対する従来からの手術手技においては,三つのモードに分けられると思う。(1)欠損の補填,(2)構造物の置換,そして(3)機能の回復(再建)である。カテーテル治療の昨今の進歩は著しく,Amplatzerに代表される(1)に関しては,ほぼ市民権を得た。TAVIに代表される(2)は,間もなく保険償還となる。今後将来的には(3)に対して,カテーテル治療がどこまで迫れるかが焦点となってくる。特に自己弁を温存する弁形成術においては,1. Preserve or restore normal leaflet motion, 2. Create a large surface of coaptation, 3. Remodel and stabilize the annulusがすべてなされないと,一生涯使用に耐え得る形成術にはならない。MitraClipは僧帽弁逆流に対してカテーテル治療を可能にしたが,そもそもAlfieri stitch(edge-to-edge)はあくまで僧帽弁形成術における一つのbail out procedureであって,外科医は最初からこれを行うことはしない。これら三つの原則を実現可能とするカテーテル治療の開発に期待したいところである。

 いずれにしても,SHDの治療に関しては,その患者にとってどの治療がベストなのか,それをハートチーム・カンファレンスで,それぞれの科のセクショナリズムなしに決めて行く。それが患者が主役の治療ということであろう。

B5・頁240 定価6,825円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01708-4


作業療法がわかる
PBLテュートリアルStep by Step

宮前 珠子,新宮 尚人 編

《評 者》藤原 瑞穂(神戸学院大准教授・作業療法学)

臨場感溢れるOT教育の可能性の提示

 本書のどこから読み始めても,読者は作業療法教育におけるPBL(問題基盤型学習)の経験知へと導かれていくだろう。

 作業療法の専門教育にPBLテュートリアルの導入を試みるとき,これまでは医学教育(医学系教育)のガイドブックを参考にすることが多かった。しかし,作業療法教育には医学教育とはまた異なる独自の文化やカリキュラムがある。医学教育のガイドブックは大いに参考になったが,作業療法教育での実際を知りたかった。本書は,こういったニーズに応えるわが国初の実践書である。

 編者の宮前珠子教授は,2001年に広島大学で開催された医学教育のPBLワークショップに参加されたときから,PBLテュートリアルの作業療法教育への導入に向けて構想を温めてこられた。そして聖隷クリストファー大学作業療法学科の開設1年前より,就任予定の教員とともに準備にあたり,2004年の開設からPBLテュートリアルを実践され,今回,長年の成果としての本書を上梓されることとなった。

 この2001年のワークショップに,評者も宮前教授に誘っていただき,参加していた。小グループに分かれた医学生たちがシナリオを読み込み,生き生きとディスカッションする姿を目の当たりにして,これはすごいと思った。しかしいざ取り組もうとすると,膨大な準備と強いリーダーシップが必要になることも痛感した。

 聖隷クリストファー大学作業療法学科は,PBLテュートリアルの導入に先立ち,何をどのように準備したのか。そして実際に展開していく途上で立ち現れてきた具体的課題は何だったのか。教員は何に悩み,どのように解決していったのか。シナリオの数々とテューターガイド,PBLテュートリアルを生かすために構成されたカリキュラム,さらにグループの作り方,発表の仕方,スキルラボの利用や教育評価,PBLを経験した学生たちからのフィードバック。実際にPBLを導入していく際に遭遇するこれらの課題が,臨場感をもって本書に披瀝されている。また資料編には,海外4大学の視察記録が写真とともに紹介されている。

 もう一人の編者である新宮尚人教授は,PBLを授業に導入することは,自分がこれまで試行錯誤を重ねた末に固まったスタイルをいったんゼロに戻すことを意味しており大変勇気のいることであったが,学生は予想をはるかに超えて情報を収集し,そして学習することを楽しんでいたと述べておられる。卒業生たちが,今後どのように成長し,活躍していくのか,興味と期待が高まる。

 本書は,聖隷クリストファー大学におけるPBL導入の経験をすべて開示し,作業療法教育の議論の俎上に載せてこれからの方向性を見出そうとしている。「PBLが作業療法教育に変革をもたらす」と。

B5・頁176 定価3,675円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01700-8


脳動脈瘤とくも膜下出血

山浦 晶 編
山浦 晶,小林 英一,宮田 昭宏,早川 睦 執筆

《評 者》村山 雄一(慈恵医大教授・脳神経外科学)

くも膜下出血と脳動脈瘤に特化した力作

 脳動脈瘤破裂によるくも膜下出血は脳神経外科医にとってその診断から治療,術後管理に至るまで,脳神経外科診療の基礎が詰まっている病態である。本書は脳動脈瘤手術のパイオニアである山浦晶先生を代表とした初版から(4)半世紀を経て,歴史的考察から現代の最新の知見までをまとめた書である。この間,くも膜下出血の治療は大きく変貌を遂げたが,その背景にはEvidence based medicineの普及,クリッピング技術の改良,脳血管内治療の発展などがあり,また社会的には医療訴訟の増加などわれわれ医師を取り巻く状況も大きく変わりつつある。

医学書院よりタイムリーに出版された本書は脳動脈瘤によるくも膜下出血に焦点を絞り,また少数の筆者による執筆であるため,各章の統一性が高くevidenceがはっきりしている事例のみならずcontroversialな事例に関しても筆者の考え方がよく伝わっている。また豊富なmemoにより関連する知識の肉付けもなされており,教科書としてだけでなく読み物としても興味深い書である。

 本書が最もユニークな点はくも膜下出血に関連した法医学と医療訴訟を独立した章として設けてある点であろう。くも膜下出血の可能性のある異状死の際,医師として適切な警察への届け出などのlegal actionをどうすべきか,われわれが避けることのできない法的義務に関し詳細に記述されている。さらに脳神経外科医として知っておくべき医療訴訟関連知識も具体例を挙げながら解説されており,万が一の事態に遭遇しない,あるいは遭遇した際にも適切な判断ができるよう明示されている。これまでここまでくも膜下出血に特化した教科書であらゆる知識を網羅したものはなかったであろう。

 若手脳神経外科医のみならず熟練したベテランにも知識の整理とともに広く役立つ書である。

B5・頁320 定価8,400円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01647-6


がんの痛み
アセスメント,診断,管理

中根 実 監訳

《評 者》佐々木 常雄(がん・感染症センター都立駒込病院名誉院長)

「がんの痛み」のほぼすべてを網羅した書

 緩和医療の発達とその普及もあり,「がんの痛み」について,医療関係者向けに書かれた本はたくさん出版されている。本書を読み,がんのあらゆる痛みについて,懇切丁寧に,詳しく説明してくれているのには正直驚きであった。

 本書は,第I部「アセスメントと診断」,第II部は「管理」に分かれている。

 がんの痛みについて,まずその原因を正確に診断することが,その対策,管理に最も大切なことであるのは言うまでもない。

 第I部では,がんによるあらゆる痛みについて,分子レベルにまで焦点を当て,解剖図や症例の図,CT・MRIなどの写真を多数用いて説明されている。これは本書の大きな特徴であり,疼痛の原因の診断に大いに役立つものと思われる。また,多くの図がカラーであり,とてもわかりやすい。

 第II部では,がんの身体的痛み対策として,鎮痛薬の使い方について懇切丁寧に大きく紙面を割き記載されている。さらに身体的苦痛のみならず,抑うつ,がん関連疲労,不安,不眠などについても説明は及んでいる。

 多くの本・教科書ではこの辺で終わるのだが,本書では治療による疼痛として,放射線治療,化学療法と生物学的療法,手術療法と,その副作用についても記載されている。手術の項ではステント留置術,ドレナージ処置などについても記載され,さらに化学療法では副作用として口内炎の記述にとどまらず,髄腔内化学療法と硬膜穿刺後頭痛にまで触れている。

 最後に,疼痛やQOLに関した評価用テンプレート・質問票,オピオイド使用に関した同意書など,実際の診療に役立つ付録が付いているのも,がん医療現場で働く人間としてとてもうれしく思う。

 本書は,「がんの痛み」について,ほとんどすべてを網羅し,詳しく,理解しやすく書かれている。緩和医療に携わる医療者のみならず,がん医療に関わっている多くの方にお薦めしたい。原著を書かれたDermot R. Fitzgibbon, MB, BCh, John D. Loeser, MD,そして本書の監訳者,訳者に感謝したい。

A4変・頁408 定価15,750円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook