全疾患を対象とした,緩和ケアサポートチームの横断的活動(関根龍一)
寄稿
2013.10.14
【寄稿】
全疾患を対象とした,緩和ケアサポートチームの横断的活動
関根 龍一(亀田総合病院 疼痛・緩和ケア科部長)
がんに限局した緩和ケアは見直しが必要
2006年に制定されたがん対策基本法以降,日本の緩和ケアは大きな広がりを見せたが,それは,対象疾患を“がん”のみに限局したものである。人生最後の生を充実した時間として過ごせるようにサポートする“ホスピス・緩和ケア”において,がん患者のみを対象とする現状の緩和ケア体制は早晩見直しが必要になるだろう。
筆者が緩和ケアの専門研修を受けた米国においても,ホスピス・緩和ケアは全疾患の終末期を対象としており,ホスピス契約者の半数以上は非がん疾患で占められている。
非がん疾患に緩和ケアを応用する際のバリア
2011年のわが国の年間死亡者数のうち,悪性腫瘍の占める割合は28.5%1)であった。つまり,割合からすると非がん疾患による死亡者は,がん患者の約2倍と多数派である。それにもかかわらず,なぜ,非がん疾患に急性期病院の緩和ケアチームが介入することはほとんどないのだろうか。
まず,その要因として,非がん疾患の病気の軌跡(trajectory)は,がんと異なり,予後の予測が難しい点が挙げられるだろう(図)2)。また,非がん疾患では終末期であっても疾患特異的な何らかの治療を継続できる場合が多く,がんに比べて,緩和ケアへの移行がより困難であることも知られている。
図 疾患群別予後予測モデル(文献2を参考に作成) |
しかし近年,がんでは終末期に限らない早期からの緩和ケア介入が重要視され,がん診療に携わる者の中でもこの考え方は少しずつ受け入れられつつある。筆者は,この概念を非がん疾患にも
疾患名にかかわらずサポートする,緩和ケアチーム活動
当院では,緩和ケア病棟を持たずに,痛みやつらさがあれば疾患名にかかわらず院内横断的にサポートするチーム活動を07年度から続けている。活動当初より,緩和ケアチームへの非がん疾患の依頼は毎年約2割(50-60件/250-300件中)で推移している。この数字自体は決して多くはないが,日本全国の急性期病院の緩和ケアチームにおける全依頼件数中の非がん疾患の割合が2.5%であること3)を考慮すると,日本の特殊な状況下では,疾患によらない緩和ケアサポート活動がある程度周知されていると言うと言い過ぎだろうか。
それでは,院内で行っている横断的なチーム活動について下記に示す。
◆オピオイドサーベイランス活動
急性期病院で,非がん疾患への緩和ケアサポートを行うには,疾患によらず,痛みやつらさが強い患者の拾い上げをいずれかの時点で行う必要がある。当院では,入院患者で医療用麻薬を使用している全患者に対して,疼痛状況,処方内容,副作用対策等の項目に関するチェックと,主治医チームに対する処方等に関する推奨内容の記載を電子カルテ上で,10年1月から週1回,チーム薬剤師が主導するかたちで実施している。
ポイントは,“疾患を区別せず麻薬使用者全員をモニターする”点である。疾患によらず網羅的に痛みのサーベイランス活動を継続していくことで,緩和ケアチームが非がん患者の痛みやつらさについても対象にするというスタンスを,病院内に継続的に示すことができる。このオピオイドサーベイランスにおける非がん患者の割合は全体の約1-2割で推移している。
◆術後疼痛プロジェクトの推進
3年前から術後疼痛プロジェクトが院内に発足し,現在は緩和ケア医である筆者が責任者を務めている。麻酔科...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。