医学界新聞

2013.09.09

Medical Library 書評・新刊案内


産婦人科外来処方マニュアル
第4版

青野 敏博,苛原 稔 編

《評 者》小西 郁生(京大大学院教授・婦人科学産科学)

「女性のヘルスケア」のための産婦人科処方集が登場!

 産婦人科医が白衣のポケットに入れていつも携帯できるよう工夫された『産婦人科外来処方マニュアル』の改訂第4版が出版された。徳島大学医学部産科婦人科学教室の青野敏博名誉教授と同苛原稔教授の編集によるもので,同大学の産婦人科医局の先生方が中心となって精魂込めて執筆されたものである。

 わが国が現在直面する最も大きな問題の一つは「少子化問題」であり,政府もその対策に本腰を入れようとしている。少子化の大きな要因は女性の晩婚・晩産化であり,今,必要なことは若い20-30歳代女性のヘルスケアである。ストレスによる無月経や月経前症候群,月経困難症を我慢しているうちに子宮内膜症が進行することなどが,不妊のリスクを高めている。したがって,女性は月経開始の時点から産婦人科「かかりつけ医」が必要である。この書では,そういった若い女性の訴えに対する対処法が実に丁寧に書かれている。

 また,産婦人科診療のありとあらゆる場面を想定し,実に細やかに記載されていて,通読しても非常に楽しく読むことができる。中には「あっ,こういう処方もあるのか!」とあらためて学べる箇所も出てくるのである。全体として,エビデンス,サイエンス,そして豊富な経験に基づいていることがわかる。漢方の処方例も詳細に記載してくれている。また使用法の記載においても,毛ジラミ症の項では「シャンプー後5分間放置した後に洗い流す」など非常に具体的に書かれてある。また,巻末には内服薬や座薬の写真まで載せてくれている。

 徳島大学医学部産科婦人科学教室は本年で創立70周年を迎えられたが,一貫して,生殖内分泌学研究を世界的にリードしてきた伝統があり,その学問的な業績には素晴らしいものがある。しかし,それだけでなく,常に実際の臨床への還元という面でも大きく寄与してこられた実績があり,「科学的であり,かつ実践的である」という伝統を培ってこられた。

 本書は,こうした徳島大学産婦人科の歴史と伝統がそのまま凝集された見事な一冊である! ――そのように感じているのは私だけではないと思う。この産婦人科外来診療に必携の書が,全国の多くの産婦人科医のポケットに入れられている様子が目に浮かんでくるのである。

B6変・頁232 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01749-7


感染対策マニュアル
第2版

大野 義一朗 監修
吉田 美智子,藤井 基博 執筆

《評 者》石井 良和(東邦大教授・感染制御学)

見て,理解して,実践できる感染対策

 1995年ごろは,わが国の病院で分離される黄色ブドウ球菌の約90%がメチシリン耐性株(MRSA)という信じられない状況でした。当時は,"それが当たり前"ととらえられており,その制御はほぼ不可能と考えられていました。そのような中,1996年に「病院における隔離予防策のためのガイドライン」がCDC(米国疾病管理予防センター)のHICPAC(医療感染制御業務諮問委員会)によって公開されました。

 本ガイドラインは,科学的根拠に基づく実践的な内容であることから,多くの施設で感染症対策に取り入れられてきました。CDCは複数の実践的なガイドラインをその後も公開し,それらは世界の感染対策に多大な影響を与えてきました。現在,わが国の多くの病院で分離される黄色ブドウ球菌に占めるMRSAの頻度は約30%にまで低下しています。

 CDCガイドラインは日本の感染対策にも大きく貢献しました。CDCガイドラインを基にした感染対策の書籍も出版されました。しかし残念ながら,その多くは若干の図表が掲載されているものの文章ばかりで,初心者向けのものではありませんでした。いつも多忙で時間のない医療現場で使われるマニュアルとして最も重要なことは,知りたいことを簡単に検索し,見て(読んでではありません),理解して,実践できるようなものです。

 2007年に大野義一朗氏から,本マニュアル(初版)発刊の連絡を受けました。その後,学会会場の書籍販売店で本書を見かけましたが,正直に言いますと,一抹の不安を感じながら手にしました。なぜなら,私の認識では大野氏は感染対策の専門家ではないからです。

 しかし,本書を開いてすぐに,私の不安は杞憂であることがわかりました。本マニュアルには多くの写真が取り入れられており,誰でも一目で重要な手技・方法を理解して実践できるように配慮されていたからです。CDCガイドラインに示された感染対策が,しっかりとマニュアルとして落とし込まれていると感じました。

 大野氏は,初版の冒頭で"感染対策に関しては,全医療従事者が一定レベルに到達していることが重要で,たった一人の不注意から破たんする"という趣旨の考えを述べています。さまざまな職種が関与する感染対策業務において,このことは極めて重要です。それまで,それを意識して作成されたマニュアルはなく,私が知る限り,本書はそれを意識して編纂された最初のマニュアルです。

 今回,大野氏は2007年に刊行された感染対策マニュアルを改訂して,第2版を上梓しました。第2版では「透析室の感染管理」,「感染性胃腸炎(ノロウイルス)」,「ワクチンによる感染症予防」が追加されました。もう少し早く本書を入手できていれば,多くの施設でノロウイルスのアウトブレイクに効果的な対策がとれたかもしれません。そのことが残念です。

 本書は院内感染対策チームのみならず,調理,清掃,事務などの仕事に携わる職員を含め,病院に勤務するすべての医療従事者に見てほしいと考えます。

B5・頁144 定価2,520円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01821-0


医療者のための結核の知識
第4版

四元 秀毅,山岸 文雄,永井 英明 著

《評 者》桑野 和善(慈恵医大教授・呼吸器内科学)

臨床で必ず遭遇する世界最大の感染症を明察

 1882年にコッホが結核菌を発見し,1944年にワクスマンらがストレプトマイシンを抽出,その後次々と有効な薬物が登場し,結核による死亡者は20世紀後半には激減した。それでも潜在性結核感染者は世界人口の3分の1,わが国でも70歳以上の高齢者では半数を超える。毎年世界で約880万人が結核に罹患し,約140万人が死亡する,マラリアと並ぶ世界最大の感染症である。その9割を超えるアフリカ,アジアの高まん延地域の罹患率は,10万人当たり100人以上である。先進国における大都市では,人口の集中,貧困,過労などのリスクにより罹患率は高い。ではわが国はどうなのか。第二次世界大戦後はそれまで200人を超えていた罹患率が急激に低下したが,それでも欧米には及ばず10万人当たり18人と中まん延地域である。高齢化,HIV感染者の増加,外国人の増加などが結核の罹患率低下の障害となっている。したがって,誰でもどこでも遭遇するチャンスがある。しかも最近は多剤耐性菌という厄介な問題がある。

 本書は,最近の結核医療のめまぐるしい変遷に対応すべく改訂された第4版である。疫学および細菌学的に敵(結核菌)の策略を知ることができる。そして,patients' delayとdoctors' delayを防ぐコツや新規診断技術の解説によって早期診断の目を養える。また治療に至ってはその基本および新規薬剤の解説と,耐性菌に対する治療や院内感染対策に至るまで,微に入り細に入り目の前で教えてもらっているかのようである。各項目には最初にtake home messageとしてのポイントと,最後に将来への展望が語られている。巻末の症例提示を見ると,結核菌がいかに身を隠すことに秀でた細菌であるか実感させられる。

 本書は,実地医療に必要な基礎知識および応用の効く結核の入門書であることはもちろん,日本で最も結核の臨床に造詣の深い3人の著者ならではの,明解な,しかも日本における将来の結核医療まで展望できる必読書である。

B5・頁208 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01686-5


解剖実習カラーテキスト

坂井 建雄 著

《評 者》松村 讓兒(杏林大教授・解剖学)

実習担当者にも薦めたい視覚に訴える実習書

 人体解剖学実習は,医学部・歯学部の教員であっても,これにかかわることのない方にとっては「別世界の話」であり,その認識は「解剖学実習はどこの大学でも同じ」というものであろう。しかし,実際の実習の進め方はそれぞれの大学・教室によって異なる。これについては,近年のカリキュラム改変による実習時間の削減や,学生定員増に伴う教員不足などによる影響もあるが,それ以上に歴代の解剖学実習担当者による創意・工夫が大きな理由である。

 このような解剖学実習のバリエーションに対し,従来,数多くの実習書が出版されてきた。いずれも著者によるさまざまな工夫が凝らされており,解剖学実習への思いが感じられる名著である。しかしながら,実際の実習で使用するとなると,必ずしも使いやすいとは言えない面があることも事実である。大学ごとの解剖手技やアプローチの違い,実習回数の違いなどにより,実習内容が振り分けしにくいためである。

 本書は,長年にわたって解剖学実習を検討されてきた著者が,標準的な解剖手技をもとに,多くの大学が考案した工夫を加えるかたちで上梓されたものである。全8章(頸・体幹浅層/上肢/体壁/胸腔/腹腔/下肢/骨盤/頭部)は基本的には局所解剖の体裁を採っているが,最大の特徴は「視覚に訴える実習書」となっている点である。全ページ見開き構成となっており,精細なイラストレーション,実習手順の簡潔な記載,コラム形式の「Clinical View」「Lecture」など,短時間で実習への導入を促す工夫がなされている。「学生たちは図だけを見て解剖している?」という危惧に対して著者が提示した解決案と見てとれる。

 本書で採用している解剖手順は,標準的解剖手技をベースに全国の大学で考案された工夫を加えたものである。著者が「序」に記されているように,筋を筋腹で切断する原則の見直し,肩甲骨を含めた上肢の離断法の採用など,既存の方法にかたくなになることなく,実際に即した手技を提唱している点は,実習の合理化に頭を痛ませている多くの解剖学教室で検討するに値するものであろう。

 なお,いかなる実習書であっても,実習に使用する場合,担当者は「実習回数に即した振り分け」を行うことになる。その視点で本書をみると,掲載されている153節の実習項目は領域ごとに表層から深層に向かって配列されており,20-25回(頸・体幹浅層:2-3回/上肢:2-3回/体壁:2回/胸腔:3回/腹腔:3回/下肢:3-4回/骨盤:2-3回/頭部:3-4回)で修了できるように想定されている。本書の内容が細かく153節に分けられているのは,各大学における「振り分け」の多様性を最大限に考慮した上での方針であろう。

 以上,本書には,解剖実習のあり方に対する著者の姿勢が提示されている。本書が学生のみならず,実習担当者にとっても力強い道標となることを確信している。

B5・頁384 定価6,720円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01702-2


薬剤師レジデントマニュアル

橋田 亨,西岡 弘晶 編

《評 者》望月 眞弓(慶大教授・医薬品情報学)

6年制の薬学生にもぜひ薦めたい1冊

 本書を読んでまず感じたのは,薬剤師レジデントとして研修すべきminimum requirementを要領よくまとめてあるという点である。一つ一つの文章は短いながらポイントは外さず無駄がない。薬剤師の学ぶべき膨大な臨床的知識をこれほど短い文章や表で的確にまとめることができるのは,本書の執筆陣である神戸市立医療センター中央市民病院の薬剤部・総合診療科の皆さんの日頃の臨床能力の高さがあってのことであると思う。さすがは全国屈指の人気を誇る研修病院ならではである。

 本書は,総論として調剤,注射,DI,検査,フィジカルアセスメントなどを解説し,各論で基本的な51疾患を解説している。こんなに内容が詰まっているのに,ポケットに入れても問題ないサイズであり,常に携帯して病棟に出向ける。対象は卒後1,2年目の薬剤師ということであるが,6年制の薬学生にもぜひ薦めたい1冊である。

 日本における米国のPGY1,PGY2に相当する薬剤師レジデント制度は,2002(平成14)年からスタートしている。2013(平成25)年の募集は35施設を数えるに至っているという。しかしまだ,日本のレジデント制度には米国のような公的な研修プログラムの認証は行われておらず,求められるプログラムの水準も明確ではない。本書はそうしたプログラムの現状に1つの指針を与えるものでもあると思う。

 書評にはふさわしいものではないかもしれないが,本書の編集者に2つお願いしたいことがある。1つはそう長い間隔を空けずに改訂をしていただくこと,そしてもう1つは,略語の充実である。臨床検査や医薬品の略語だけでなく医療従事者がよく使う医学用語の略語を整備していただけると新人薬剤師にとってさらに便利になると思う。これら2つが欲張ったお願いであることは承知の上での要望である。あまりにも本書の出来が良く,褒めちぎるばかりになってしまうのも書評の読者はつまらないだろうという手前勝手な気持ちからである。

B6変・頁376 定価3,570円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01756-5


基礎から学ぶ楽しい疫学
第3版

中村 好一 著

《評 者》辻 一郎(東北大大学院教授・公衆衛生学)

疫学を学ぶなら,まず「黄色い本をお読みなさい」

 いま疫学を学ぶ人が増えている。疫学を志す人が増えていることに加えて,他の研究領域と疫学との接点が広がっているからである。例えばゲノム科学にとって,疫学は不可欠なものになった。臨床医学の共通言語ともいえるEBM(根拠に基づく医学)は,疫学に基盤を置いている。公共政策や生命倫理,メディアの方々にとっても,疫学の理解は重要である。そこで疫学を学ぶ人が増えているのである。

 しかし初学者にとって,疫学は何ともわかりにくい。そのような悩みをよく聞く。私の助言は,ただ一言。

 「黄色い本をお読みなさい」

 畏友・中村好一教授が2002年に上梓された名著『基礎から学ぶ楽しい疫学』(俗に「黄色い本」と呼ばれる)の第3版が出版された。序文の書き出しがすごい。

 「売れ行き好調な本書である」

 いつかは言ってみたいセリフではないか。ただ前記のように,私もわずかながら売り上げに貢献していると思う(だから評者を頼まれたわけではないだろうが)。

 疫学の定義や基本的な考えに始まって,疫学の研究方法,偏りと交絡,因果関係を議論した上で,「疫学の集大成」としてスクリーニングを取り上げているのは興味深い。その上で,統計解析に約50ページを確保している。そして,倫理の問題と社会への応用について読者に問いかけて,本書は完結する。

 一読して,私は留学先のジョンズ・ホプキンズ大学の疫学科長を長らく務めたゴーディス教授の「疫学入門」の名講義を思い出した。ちなみに同大学では,入門→中級→上級となるにしたがって,講義は若手が担当する。入門編を,楽しくわかりやすく伝えるほど難しいことはないからである。

 本書のもう一つの魅力は,「脚注」である。解説に加えて,著者のホンネあり,冗談あり,読者への問いかけあり,まるで著者と会話している気にさせられる。この重層感が本書をより楽しくわかりやすくしている。

 そして今回新たに加わったのが,各章の末尾を飾る「疫学デッドセクション」というコラムである。その中で,航空機パイロットの養成が,プロペラ機からジェット機,ハイテク機へと,航空機の進歩をなぞるように順を追って学んでいくことを紹介しながら,疫学者の養成も,まず記述疫学に始まり,他の観察研究から介入研究へと順を追っていくべきだとの主張は,実に説得力がある。これは疫学者の養成に限ったことではない。冒頭に述べたように,他分野から疫学を勉強する方々も増えている。その方々が本書を読まれる際は,必要な部分だけを「つまみ読み」するのでなく,第1章から最後までじっくり読んで,疫学そのものをご理解いただきたいと思うものである。

A5・頁240 定価3,150円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01669-8


ゾリンジャー外科手術アトラス

Robert M. Zollinger, Jr./E. Christopher Ellison 著
安達 洋祐 訳

《評 者》中川 国利(仙台赤十字病院副院長/東北大臨床教授・外科学)

研修医はもちろん指導医にも推薦の一冊

 私の本棚に古ぼけた『Zollinger's Atlas of Surgical Operations』がある。最後のページには1976年10月5日購入と記載されている。私が研修医時代に,薄給にもかかわらず大枚を叩いて買い求めた最初の本にして現在も愛読している本である。そして当時の指導医から強く薦められ,先輩研修医も持っていた憧れの本でもあった。

 外科医は主に消化器疾患を対象とし,専門分野は消化管と肝胆膵に大きく分かれ,さらに消化管は上部消化管と下部消化管とに,肝胆膵は肝臓,胆嚢,膵臓とに細分化されている。しかし,研修医は基本的には人間全てを対象として臨床を学ぶ必要がある。また私の専門は消化器外科であるが,研修医時代に「頭からつま先まで」全ての外科的疾患を経験したことが日常臨床では大いに役に立っている。『Zollinger's Atlas of Surgical Operations』は消化管や肝胆膵ばかりではなく,血管外科,婦人科,甲状腺,乳腺,ヘルニア,さらには腱縫合や皮膚移植まで記載されており,外科全体を網羅する手術書である。

 現在,手術書はカラー表示は当然のこと,DVDによる動画まで付けられて販売されている。しかし,私が研修医時代の手術書は文章表記が主体で,図が少なく理解することがはなはだ困難であった。一方,『Zollinger's Atlas of Surgical Operations』は右ページには各手術における要点を的確な線画で手順を追って記載していた。また標準術式ばかりではなく,症例に応じた術式を行えるように他の術式も列記していた。さらに左ページには手術方法に加えて,適応,術前準備,麻酔,体位,術後管理までを的確に解説していた。研修医の私は手術の直前にアトラスを見ながら,手術のシミュレーションを何度も繰り返したものである。そしてアトラスを参照して手術所見を記載し,さらに術後にアトラスを精読しながら手術を反省した。

 外科手術の進歩と共に版を重ねる『Zollinger's Atlas of Surgical Operations』が,2011年に内容をさらに充実させて第9版が出版された。第9版には最新の腹腔鏡下手術や自動縫合器を使用した手術などが追記され,イラストもすべてカラー表示され大変読みやすくなった。この実績と伝統ある名著を安達洋祐さん(「先生」と敬称されることを嫌われるため,あえて「さん」とします)が一人で翻訳され,『ゾリンジャー外科手術アトラス』として出版された。

 安達さんは『外科の「常識」――素朴な疑問50』(医学書院),『最新エビデンスに基づく乳がん診療ガイド』(金原出版),『消化器外科のエビデンス――気になるテーマ30』(医学書院)など,外科医に愛読されている名著を世に送り続けている。これは安達さん自身が優れた臨床外科医であるとともに,常日頃から膨大なる医学雑誌を熟読し,最新の医学知識を取り入れているからこそできる偉業である。『ゾリンジャー外科手術アトラス』では読者に理解しやすい文章に翻訳するとともに,随所に適切な訳注をつけて原著の内容をさらに充実させている。一例を挙げると,虫垂切除では「訳注:手術せずに抗生物質で治して虫垂切除も行わないことがある」と記載してある。さらに詳細なエビデンスを知りたい読者は,安達さんの名著『消化器外科のエビデンス――気になる30誌から(第2版)』(医学書院)を参照すると明解となる。

 安達さんは若き医師や看護師の教育に情熱を燃やし続ける「教え魔」である。原著でしか読むことができなかった名著が,安達さんによって読みやすく日本語に翻訳された。しかも値段はなぜか原著に比べて格段に安く,買い求めやすい価格に設定されている。手術を行う際には慣れた術式でも,解剖書に目を通すことが大切である。さらに手術書を読むと,新しいヒントが得られるものである。外科手術全体を網羅した『ゾリンジャー外科手術アトラス』は,平易で示唆に富む手術書である。外科医を志す初期・後期研修医は勿論のこと,熟練の指導医にも是非推薦したい必携の書である。

A4・頁520 定価15,750円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01714-5


大うつ病性障害・双極性障害
治療ガイドライン

日本うつ病学会 監修
気分障害の治療ガイドライン作成委員会 編

《評 者》久住 一郎(北大大学院教授・精神医学)

単なる治療ガイドラインの域を超えたレベルの高い治療のための手引き書

 本書は,日本うつ病学会の治療ガイドライン作成委員会が3年越しで作成した双極性障害ならびに大うつ病性障害の治療ガイドラインを書籍の形にまとめたものである。日本うつ病学会は,ガイドライン作成にあたって可能な限り最新の情報を提供することを重視して,学会ホームページにそれらを公開し,随時更新する方針で臨んでおり,本書の発行後も学会ホームページから最新情報を補完することを推奨している。また,本ガイドラインは,うつ病および双極性障害の診療の手引きになることを意図したものであり,実際の診療は医師の裁量権に基づいて行われるべきものであること,実地臨床においては多くの個別要因が臨床的判断に影響するため,本ガイドライン通りの診療でなければ正しい医療水準ではないとはいえないことを繰り返し強調している。

 全体は3部構成になっており,大うつ病性障害と双極性障害の治療ガイドラインの他に,患者さん向けの疾患教育に活用できる「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために」が収録されている。大うつ病性障害のガイドラインは,うつ病治療計画の策定,軽症うつ病,中等症・重症うつ病(精神病性の特徴を伴わないもの),精神病性うつ病の4章立てになっており,双極性障害のガイドラインは,躁病エピソード,大うつ病エピソード,維持療法の3章立てで,それぞれのガイドラインには序文と簡単なサマリーが付されている。序文には,今回のガイドライン作成にあたっての理念が明確に示されており,全章が一体となって体系化されていること,アルゴリズム形式を取らないこと,エビデンスに準拠した治療法が推薦されているが,必ずしも保険適用の有無を考慮していないことなどが述べられている。

 全体を通読してみると,特に「うつ病治療計画の策定」の章がエビデンスを基に日常診療の参考になるように非常によく書き込まれている。Minimum requirementが凝縮されており,初心者は読み流してしまうのではないかと危惧するくらい無駄な部分がない。その他の章も必要十分な情報が要領よくまとめられているので,通読するのが全く苦にならない。本書は,かかりつけ医や研修医が通読して基本的な考え方を身につけるのに適しているのはもちろんのこと,ある程度臨床経験のある精神科医が時々読み返して自分の診療を振り返るためにも絶好の書である。非常に完成度の高いガイドラインであるが,将来の改訂に向けての改善点をあえて挙げれば,双極性障害のガイドラインでは,「うつ病治療計画の策定」に相当する総論的な記述がなく,大うつ病性障害に比べて全般的にあっさりとした仕上がりになっていること,大うつ病性障害ガイドラインでは,「双極性障害(躁うつ病)とつきあうために」で取り上げられている妊娠・授乳中の薬物療法について触れられていないことくらいであろうか。

 いずれにしても,本書は,単なる治療ガイドラインの域を超えた,レベルの高い治療指針の手引き書に仕上がっており,長期間にわたり心血を注いで作成に携われた日本うつ病学会の治療ガイドライン作成委員会の皆様に改めて敬意を表したい。

B5・頁152 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01783-1

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