医学界新聞

2013.09.09

第45回日本医学教育学会開催


 第45回日本医学教育学会(会長=千葉大・横須賀收氏)が,7月26-27日,「Quality assurance of medical education――学習成果基盤型教育の導入と展開」を基調テーマに千葉大亥鼻キャンパス(千葉市)で開催された。本紙ではシンポジウム「卒前・卒後教育のアウトカムとしての"プロフェッショナリズム"」(座長=横浜市大・後藤英司氏,東大・北村聖氏)のもようを報告する。


今,求められるプロフェッショナリズム教育とは

横須賀收大会長
 最初に登壇した大生定義氏(立教大)は,チーム医療におけるプロフェッショナリズムを考察。患者・家族とのコミュニケーション,医療チームの一員としての責任,内省や自律,さまざまなジレンマへの対処,対人的な距離感やバランス感覚はノンテクニカルスキルに包含され,プロフェッショナルとして質の高い医療を提供するために求められる重要な要素だと述べた。氏は,「チームSTEPPS」と呼ばれる米国のチーム医療で用いられているノンテクニカルスキルの4類型をまとめたモデルを提示し,「ノンテクニカルスキルを,具体化,言語化するために役立つ,プロフェッショナルとして必要なパッケージ」と紹介。このモデルに「評価」も加えながら継続性と一貫性のある教育が必要と訴えた。

 これを受け,評価方法について研究結果を報告したのは高橋理氏(聖路加国際病院)。Professionalism MINI-Evaluation Exercise(P-MEX)というカナダで開発された教育目的の評価ツールを用い,2年以上同院で研修した専門研修医22人を対象に,3年間の評価とその経時的変化を検証した。P-MEXは4領域(医師患者間関係能力・省察能力・時間管理能力・医療者間関係能力),360度評価(指導医,同僚,下級医,看護師)による評価が特徴で,日本でも妥当性・信頼性の高い評価ツールだという。氏は,指導医の評価はおおむね上昇傾向にあるものの,2年目以降,一部項目で看護師からの評価が大きく下がった点に着目。評価者の属性が異なると,評価の視点も異なると解説した。一方,被評価者から挙がった,測定の目的が不明確といった意見を踏まえ,持続的な評価には目的の共有化を図り,被評価者が評価者からのフィードバックを得るなど,経時的に評価・確認していくことが今後も有用であると考察した。

 次に登壇した福島統氏(慈恵医大)は「"医師の適格性"を担保することで患者安全を確保する」という観点から,プロフェッショナリズムの涵養には学部教育から大学が責任を持たなければならないと主張した。氏は,英国キングス大医学部でのFitness to Practise(FtP)の実践例を紹介。英国では,1984-95年にかけてのブリストル事件,2000年のハロルド・シップマン事件と,医師が患者を殺害する事件が相次いだのをきっかけに,患者安全をめざす医学教育が検討され,卒前医学教育でFtPが導入された。問題のある学生がいれば授業教員やチューターが学年主任に報告し,支援教員が学生とコンタクトをとり支援を行う。問題が解決しない場合は医学教育責任者が対応し,それでも困難な場合,Panel(委員会)を招集。さらに問題が大きいと判断されると大学のFtP Committeeに送られ処分が検討されるという。ただし,処分が目的ではなく,あくまで学生の人間としての成長を促し見守るために問題を早期発見できるシステムとして機能している点を強調し,「日本においても学生の人間的成長への支援をしていくことが求められる」と述べた。

自然科学,人文科学から,多様なかかわりを探る

 プロフェッショナリズムの科学性について述べたのは野村英樹氏(杏林大)。医師免許制度の基盤にはプロフェッション(専門職集団)と社会との契約があり,社会から免許が与えられる一方,プロフェッションは利他的な奉仕を提供することによって互恵関係が築かれていると概説。自然科学分野の研究を例に,医のプロフェッショナリズムはヒトに生来備わっている道徳性を基盤とし,その道徳性は,進化上の自然選択の産物であると科学的に説明できると述べた。社会契約の基盤となる倫理体系やその根底にある道徳性の科学を理解することで,医師免許制度への信頼の維持・向上に貢献できるとし,そのためには教育において道徳を科学的に学び,考える機会が必要だと語った。

 「諸ジレンマとの関わり」と題し,人文学から医学を見る必要性を述べた浅井篤氏(熊本大)は,先行研究をたどりながら倫理的ジレンマの定義,医療現場における倫理的ジレンマの例,プロフェッショナルとして対応するアウトカムの3点について要約。ヒューマニズムやスピリチュアル,倫理学や歴史学といった人文学の分野から医学が学ぶことは多く,医学教育において必要な視点であると説明した。その上で,「知識」「スキル」「態度」が倫理的ジレンマにプロとして対処する「諸アウトカム」になると位置付けた。特に「態度」においては,「どんな医療専門職に自分のいちばん大切な人を担当してもらいたいか」「自分はどんなプロになりたいか」「どんな価値が求められるか」という自他への「問いかけ」や「共感」する姿勢がプロフェッショナリズムとして重要であり,氏自身,日ごろから学生や研修医に問いかけていると語った。

 総合討論では,卒前教育におけるアウトカムの評価法の設定や,アウトカムをどう見るかといった課題,医学教育が共有しなければならない教育内容の方向性など,具現化に向けた多岐にわたる活発な意見交換が行われ,盛会のうちにシンポジウムを終えた。

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