医学界新聞

2013.08.26

Medical Library 書評・新刊案内


演習を通して伝えたい
看護援助の基礎のキソ

川口 孝泰,佐藤 政枝,小西 美和子 著

《評 者》川島 みどり(日本赤十字看護大名誉教授/健和会臨床看護学研究所長)

基礎看護学の授業展開や演習の工夫が視覚的に理解しやすい良書

 「看護を志望する昨今の看護学生の日常生活経験と知識の少なさに驚いた」。著者らの本書執筆動機は,看護教育に携わる教員らの共通の思いに違いない。背景には,長年にわたって培われてきた“当たり前”の感覚や慣習が忘れ去られつつある現代社会の変貌がある。著者らは,それを当然の流れとはしなかった。看護の初心者の学生たちに看護の役割を伝える上で,まずは準備教育としての看護技術の“基礎のキソ”にフォーカスを当てることが重要であるとした。そして,2002年の「看護学教育の在り方に関する検討会」の報告書を土台に,看護技術を支える重要な柱を(1)技術提供の前提 (2)技術の考え方と展開方法 (3)エビデンスに基づく手順という三要素とした。そして,「看護の基本的機能」を縦糸に「日常生活援助のための看護技術」を横糸にした知の枠組みのタペストリーを提示したのである。

 例えば,排便に焦点を当てた排泄の項では,援助を受ける立場からの気がかりなことを,学生のレポートを基に再構成するなど,日常の基礎看護学の授業展開や演習を踏まえた工夫が随所に見られる。豊富なイラストにより,視覚的に理解を深める工夫もされていて,親しみのもてる著書である。

 しかし,全体を通読して気付いたのは,看護に対してまっさらな初心者にとっての「基礎のキソ」が,これまでの基礎看護学の範疇とほとんど重なっていることでよしとすべきか,ということであった。とりわけ演習を通して伝える基礎のキソであるなら,何よりも他人を援助することの意味と価値を知り,その醍醐味を体験できるような導入をめざすべきではなかったか。違和感となったのは,「看護基礎教育の教科書として」と位置付けながら,内容は教師に向かって書かれたものであることから来ていた。だとすれば,生活感覚の薄れた新入生への基礎技術以前の基礎とは何かを,看護教育界全体の課題として論議すべきであると思う。その際,本書は種々の有用な問題を提起するであろう。

B5・頁160 定価2,940円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01774-9


ナースのミカタ 小児看護
知っておきたい53の疾患

右田 真 編

《評 者》川出 素子(板橋中央看護専門学校専任教員・小児看護学)

「小児看護は難しい」そんな声に応える一冊

 「早くこのような本に出会いたかった」。この本を読み終えて思ったことである。

 小児の特徴の一つに,疾病の進み方が一般に成人より速く,短期のうちに危険な状態に陥りやすいということがある。そのため医療者の観察力,疾患の理解,豊富な知識が求められる。そのための助けとなると感じたからである。

 また,新人看護師や看護学生から「小児看護は覚えることが多く難しい」という声をよく聞く。検査値・数値が記載されているポケットサイズの本を参考にしていることがあるが,ポケットサイズで詳しく疾患について書かれているものはほとんどない。

 その点でも『ナースのミカタ 小児看護』は新人看護師や学生の助けになりそうだ。本書は持ち運びにも容易なサイズでありながら,小児の成長発達や特徴,主要な53の疾患,臨床現場で生じる疑問などが写真・イラストを交え解説され,誰にでも活用しやすいものとなっている。

 Chapter 1では,小児を理解するために必要な,成長発達や栄養,バイタルサインなどの基本事項について解説されている。小児看護は,成長発達の理解から始まるといわれるが,何から覚えていいか混乱することがある。本書では,要点がまとめて記載されているため,必要な情報がすぐに見つけられる。例えば小児のバイタルサイン測定時の知識や観察については,成人との正常値の基準の違いだけでなく,「乳幼児の場合は脈が触れる範囲が狭いので,第2,3指の指腹部を用います」など具体的な測定方法が挙げられており,小児と接したことのない新人看護師や学生にも十分に理解できる内容となっている。さらに,異常呼吸である陥没呼吸などについては患児の写真が掲載されており,観察していく上で参考になる。

 混合病棟などでは,緊急で小児の入院があった際,本書が一冊あれば,最低限必要な小児とその疾患の理解ができると思われる。

 Chapter 2では,先天異常,感染症,呼吸器疾患,循環器疾患,消化器疾患,腎臓疾患,神経疾患,筋疾患,血液疾患・悪性腫瘍,アレルギー性疾患・膠原病,内分泌代謝疾患,新生児の疾患と12項目に分け,それぞれ主要な疾患が解説されている。取り上げられている疾患のほとんどが,評者が小児病棟に勤務していたころ看てきた疾患であり,臨床の場面で疑問となることや家族への対応なども,本書で具体的に解説されている。

 疾患の解説は,随所にイラストや写真が記載されているため,読みやすく理解しやすい。また,X線写真,CTの読影についても触れられており,病態の理解が深められる。

 感染症については,予防接種や感染症の臨床経過も解説され,医療従事者だけでなく,小児にかかわるすべての人に理解しやすい。他職種に活用できる内容であり,家族への説明などにも使えそうだ。

 また「小児看護は守備範囲が広く,どこを学習したらいいかわからない」という学生には,主要な疾患の「基礎知識」「検査と診断」「治療」と系統立てた解説がされているため,学習するポイントの参考にもなるだろう。

 本書は小児にかかわるすべての人に,間違いなく「早くこのような本に出会いたかった」と思ってもらえる一冊である。

B6・頁224 定価2,520円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01618-6

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