MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2013.07.29
Medical Library 書評・新刊案内
柴崎 浩 著
《評 者》糸山 泰人(国立精神・神経医療研究センター病院長)
神経診断の魅力を徹頭徹尾追求した書籍
神経学の魅力は多くの人が述べておられます。その魅力の一つには無限に広がる脳科学の世界につながる臨床分野であることもあげられますが,何といってもシャーロック・ホームズの世界に入り込んだような緻密な観察と論理的な推論を行いながら,難解な神経疾患に診断を下す面白さにあるのではないでしょうか。
その神経診断の魅力を徹頭徹尾追求した書籍,柴崎浩著『神経診断学を学ぶ人のために 第2版』が,この度出版されました。柴崎先生は私が神経学を学び始めたころにその基礎から臨床のすべてを教えていただいた先生であり,また世の中にwalking dictionaryといわれる人物の存在を初めて認識させられた先生でもあります。まさに私の神経学の師と敬う先生であります。
神経学の教科書は世界にあまたありますが,その多くは疾患単位に分類されていてそれぞれの疾患の症候,検査,治療の解説が書かれているものであったり,あるいは大脳・小脳・脳幹・脊髄というように神経解剖ごとに疾患を羅列してそれらの診療情報を記載したものであったり,また個々の代表的な神経症候学を詳しく述べたものがほとんどであります。本書においては,実際の臨床現場に立ったとき,患者から症状をいかに聴取し,それに関連した神経学的診察をいかに行い,そこから得られる神経症候をいかに観察し推測し,それらをいかに合理的な神経診断につなげていくかが具体的に解説されています。このような教科書が一人の著者において書かれたことは大変貴重なものと考えます。
本書の診断に至るまでの基本となる考え方は3 step diagnosisであります。診断にかかわる事柄を混然と考えるのではなく,まず最初に第1ステップとして解剖学的診断,すなわち病変部位診断を専ら考え,次に考えを切り替え第2ステップとして病因診断を検討し,そして最終ステップとして臨床診断としてまとめる過程が重要だとしています。中でも重視しているのが,第1ステップの解剖学的診断に至るプロセスであり,それに至るまでの病歴聴取や神経学的診察における重要な観察と推測のポイントが随所に見受けられます。例えば,「主訴は患者が主として訴える症状であるかのように一般では考えられがちであるが,これは必ずしも正しくない。むしろ,その患者の診断にとって最も大事な症状,あるいは前景に立っている症状を主訴として記載するほうが妥当と考える」はまさに柴崎流の診断学の起点となる考えであります。
本書は実際の神経診断に携わる読者にふさわしい項目立てになっています。診断の基本的な考え方,神経疾患の主要な症候,それに大まかな神経系障害による症候の項目という組立になっています。各項目においては必要な神経系の構造とネットワーク,およびその生理学的・薬理学的働きが要領よく述べてあり,それらを理解した後に診察所見をどのように推理して合理的な診断へ至るかという過程がまさに柴崎浩先生が身近におられるような語り口で解説されています。各項目ともよくまとまって書かれていますが,それらの中でも脳神経系の症候,特に眼球運動障害,また大脳基底核をはじめとした随意運動の中枢調節,それに不随意運動,中でもミオクローヌスの項目は圧巻です。これらに加えて,多くの読者が興味を持つ注目のトピックをまとめたコラムが実に要領よく述べてあり,神経診断学の修行中において一服のお茶をいただく感があります。
神経学はまさに日進月歩の神経科学分野とともにあり,神経難病が克服されるのもそう遠くはない時代になったともいえます。そういった神経学の基本が神経診断学であります。神経学を学び,教え,進化させる方々に柴崎先生が心血を注がれて書かれたこの『神経診断学を学ぶ人のために 第2版』をぜひお薦めいたします。
B5・頁400 定価8,925円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01632-2
秋山 正子 著
《評 者》佐藤 元美(一関市国保藤沢病院・病院事業管理者)
医師・医学生にすすめたい「帰れない者たち」の新たな地平
たまたまなのだが,中島みゆきの「帰れない者たちへ」を聴きながら本書を読んでいたら,ちょっと涙ぐんでしまった。この曲は松本清張原作のテレビドラマ『けものみち』の主題歌であった。帰れないのは施設や病院から帰れないのではない。それは知っていても,帰れない者たちの悲哀は共通している。何に,どこに帰れないのか。故郷へ,職場へ,家庭へ,地域へ帰れない者の悲しみである。普通に暮らすことを断念したつらさである。
私は,岩手県一関市藤沢町で医療だけでなく予防から医療,そして介護からみとりまでを担当する幸運を得ている。そうしてみるとこれまで見えなかったことが見えるようになった。人は暮らす動物である。裸では生きていけないから,服を着るように,一人では生きていけないから,家庭や地域に守られて生きていくのが人間だ。暮らしを失ってからの長い命を大方の人々は恐れている。
著者の秋山さんは訪問看護を通して,医療やケアの意味を開拓してきた。日本のマギーズセンターと呼ばれる「暮らしの保健室」はその成果の一つである。高齢化の進む都心の団地,その周辺には東京女子医大病院や国立国際医療センター,東京医大病院など日本を代表する高機能病院が林立している。しかしそれでも,あるいはそれだからさまざまな問題の解決は高度医療に期待され,急性期医療に適さない問題は未解決のまま,“暮らせない人々,帰れない者たち”がつくられてしまう。本書では,かかりつけ医のパワーや訪問看護ス
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