FAQ 母体血を用いた新しい出生前検査(関沢明彦)
寄稿
2013.07.29
【FAQ】
患者や医療者のFAQ(Frequently Asked Questions;頻繁に尋ねられる質問)に,その領域のエキスパートが答えます。
今回のテーマ
母体血を用いた新しい出生前検査
【今回の回答者】関沢 明彦(昭和大学医学部産婦人科学講座教授)
無侵襲的出生前遺伝学的検査(Non-Invasive Prenatal Genetic Testing: NIPT),いわゆる「新しい出生前検査」の報道をきっかけに,いま出生前検査が注目を集めています。本年4月より認可を受けた医療機関で臨床研究として開始された母体血胎児染色体検査を中心に,出生前検査の知識をアップデートしましょう。
■FAQ1
「出生前検査」には,現在どのようなものがありますか。
「出生前検査」には,超音波装置を用いて胎児の発育,健康度,形態的な異常所見の有無などを評価する検査と,超音波検査や母体の血液検査で胎児の染色体異常の可能性を推定する非確定的検査(スクリーニング検査),ならびに,胎児細胞を用いた胎児の染色体や遺伝子の検査(確定的検査)があります(表)。どの検査も,胎児に重篤で治療法のない疾患が発見される可能性があり,検査前には妊婦がそのことを十分に理解している必要があります。
表 出生前検査の一覧 |
確定的検査を行うには,母体の羊水や絨毛などから胎児細胞を採取する必要があります。胎児細胞を直接分析できるため精度は高いものの,侵襲的な検査であり流産のリスクを伴います。
こうした検査によるリスクを回避するために,また染色体異常を持つ児の70%が35歳未満の妊婦から出生していることもあり,胎児期に染色体異常の可能性を統計学的に評価する方法が研究されてきました。それが,母体血清マーカー検査(クアトロ検査など)や超音波検査(胎児の後頸部浮腫)です。これらの検査方法は,流産のリスクがなく,偽陽性率5%水準で70-80%のダウン症候群を検出できますが,偽陽性率が高く,陽性的中率の低い検査です。欧米では,精度向上のため,妊娠11-13週の妊婦を対象に,超音波検査と母体血清マーカー検査を組み合わせたコンバインド検査が行われていますが,偽陽性率5%水準で83%のダウン症候群を検出できる程度の精度しかありません。
そんな中,スクリーニング検査ではありますが,より精度の高い検査としてNIPTが登場し,母体血胎児染色体検査が臨床研究として一部機関で開始されました。
Answer…出生前検査には,胎児の形態的変化の評価と,染色体疾患の評価があります。染色体疾患の評価には,侵襲的なものと非侵襲的なものがあり,非侵襲的な検査には,母体血清マーカー検査や超音波による胎児後頸部浮腫の観察,現在臨床研究として行われている母体血胎児染色体検査などがあります。
■FAQ2
NIPTは,これまでの出生前検査と比べてどこが新しいのでしょうか?
NIPTは,母体血からの胎児の染色体検査として実用化され,血漿中cell-free DNA(cfDNA)をmassively parallel sequencing (MPS)法で解析する検査手法です。妊娠初期の10週から検査可能で,羊水検査や絨毛検査とは異なり,非侵襲的な点が特徴です。検査で用いる胎児cfDNAの大部分は胎児細胞由来ではなく,胎盤の絨毛細胞に由来している点に注意が必要です。
MPS法とは,母体血漿中のcfDNA断片を次世代シークエンサーを用いて網羅的に解析し,個々の断片の由来をヒトゲノム情報と照合して確認し,特定の染色体に由来する断片の量的な変化を評価することで,染色体の数的異常を検出する方法です。例えば胎児が21番染色体に異常を持つ場合,母体血漿中cfDNAに含まれる胎児の21番染色体由来のcfDNA断片量は,正常核型に比較し1.5倍に増加することがわかっています。検査では,母体血漿中cfDNA全体に占める21番染色体由来断片の割合が,胎児が正常核型の場合には1.30%であるのに対し,1.42%と多いことを根拠に胎児のダウン症候群の可能性を検出しています(図)。そのため,本検査は遺伝学的検査ではなく,ス...
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