医学界新聞

寄稿

2013.07.22

【書評特集】

看護師養成校 採用決定者が語る
このテキストに決めた理由

 数ある書籍から何を選べばいいか,テキスト選定は難しい。担当者は時に頭を悩ますこともこともあるのではないか。厳選された1冊に「どのような授業をめざすか」「学生にどのような看護師になってほしいか」という教育方針が表れる。本特集では,看護師養成校の教員が,採用に至った経緯や活用方法を紹介する。


基本から学ぶ看護過程と看護診断 第7版

ロザリンダ・アルファロールフィーヴァ 著
本郷 久美子 監訳

《評 者》久保 真知子(市立小樽病院高等看護学院 教務主幹)

ハテナを自らチェックし「考えていくシナプス」を育てる

教科書選定の考え方
 当校では次年度の教科書を選定するに当たり次のことを重要点と考えている。(1)学校のシラバスに合致している,(2)講師にも使いやすい,(3)在学中だけでなく卒業後も数年間は使用できる内容を含む,(4)カリキュラムでは直接触れないがぜひ学生に持たせたい本。(1)(2)は当然のこと,(3)は就業先のさまざまな理念や看護方式に対応できるように,(4)は学校の教育理念に合致する看護観や哲学的内容を含む副読本などがある。当校は授業料などの学校経費が比較的安いので,学生のうちにいい本を多く持たせたいと考えている。

考えて行動する看護師を育てる
 3年間の限られた看護教育課程の中で,学生に精選して教えることは何なのか,多くの教員が悩むところだ。ともすれば詰め込みになったり,型を教えることで精一杯と感じたり,ジレンマを抱えている学校や教員も多いのではないか。特に看護学校における看護過程は,単に看護のツールでなく,看護の本質をどのように学生に伝えるかという学校の教育理念を反映する重要な科目である。

 2012年に第7版を重ねた本書は,看護過程の考え方を基本からわかりやすく説明し,電子カルテやクリティカルパスなど時代の変化に対応してきている。特に今回の改訂ではクリティカルシンキングの考え方を取り入れ,「看護とは何をすればよいのか」から「何をどのようにするとよいのかを考えていく」ことに重点が置かれている。看護過程を初めて学習する看護学生には,翻訳本であることや看護診断の考え方も登場するのでちょっと難しいと思うかもしれない。当校の看護過程の授業では,事例を使って具体的に看護過程を展開させる演習に多くの時間を割きながら,本書ともう1冊の教科書を使っている。看護診断については紹介のみにとどめ,深い内容の授業はしていない。

 学生は授業で学んだ知識をもとに,2年次前期に初めての看護過程を展開する臨地実習に入る。看護の現場では,慣れない環境の中,事例の"Aさん"とは違った刻々と変化する現実の対象者に触れ,学生の頭の中はハテナでいっぱいになる。学内の授業と現実の世界を埋めていくのは学生の「知りたい」という気持ちとそこから「考えていく力」だ。頭の中がハテナでいっぱいになったら,本書の「ルール」や「box」をぜひ見てほしい。今まで教員が実習指導で学生に伝えていた重要な言葉が,学生自らがチェックできる形で載っている。それを道標に自分の態度や行動を見直すことができる。指導してもらって当たり前ではなく,自ら事に当たり,考える力を身につけ「考えていくシナプス」を伸ばしていってほしい。

個別性のある看護のために卒業してからも使える
 当校では看護過程を特定の看護理論家に限定せずにゴードンの11パターンを使って教えている。卒業生はさまざまな病院や施設に就職する。就業先では,学生時代の実習施設とは違った看護方式や記録方法を用いているところもあるだろう。就職して初めて看護診断を使うことになっても,本書に触れていれば比較的容易に移行できると考える。

 電子カルテが主流となり,看護診断やクリティカルパスが多くの施設で導入され,看護の効率化や経済性が重要視される時代である。そのような中にあっても看護の対象が人間である限り,看護は最終的には対象者の望む健康や安寧をめざすものであるはずだ。卒業後,学生時代に学んだことを思い出しながら,もう一度本書を開けば,著者の言う"ワンサイズの服はだれにでもあうわけではない""常に患者の個別のニーズを明らかにする"という看護の原点に戻ることができる。

B5・頁368 定価2,730円(本体2,600円+税5%)医学書院
ISBN978-4-260-01689-6


生活機能からみた 老年看護過程
+病態・生活機能関連図 第2版

山田 律子,萩野 悦子,井出 訓 編
佐々木 英忠 編集協力

《評 者》下村 美佳子(龍馬看護ふくし専門学校看護学科 専任教員)

老年看護学実習で大活躍のサブテキスト

 授業の中で,二十歳前後の学生に高齢者のイメージを尋ねると,明るい答えは返ってこない。高齢者の"加齢変化とアセスメント"を学ぶと,機能の低下・減少という言葉ばかり表現されていて,ますます高齢者に対するマイナスのイメージを持ってしまう。

 2009年の看護教育カリキュラム改正により,看護師教育の「基本的考え方」として看護の対象者を「健康を損ねているものとしてのみとらえるのではなく,疾患や障害を有している生活者としてとらえる」方向が示された。編者の山田律子氏らによる「生活行動モデルによる看護過程」は,従来の「問題解決型思考」ではなく,ICF(国際生活機能分類)の考え方とも合致する「目標指向型思考」であり,「看護問題」ではなく「看護の焦点」ととらえ,老年看護をプラスのイメージで展開することができるようになった。

 本校のある高知県は,秋田県に次いで高齢化率第2位である。当然,老年看護学実習にかかわらず学生が受け持つ患者は高齢者である場合が多い。先ごろ出された厚労省研究班の調査では,高齢者のうち認知症の人は推計15%で,2012年時点で,約462万人に

この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。

開く

医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。

医学界新聞公式SNS

  • Facebook