「探しものは何ですか?」(渡辺さゆり)
寄稿
2013.07.22
【寄稿】
「探しものは何ですか?」
看護大学図書館における文献検索講習会の取り組みについて
渡辺 さゆり(日本赤十字広島看護大学図書館参事)
私たち図書館司書は図書館利用者のサポーターです。司書という職業は,「探しもの」をする利用者に向き合い,支援し,利用者が「探しもの」を見つけたときは一緒にワクワクして,「探すって楽しい」と感じてもらえることがうれしくなる職業です。さまざまな角度からさまざまな方法で利用者を支援することが図書館の役割です。
日赤広島看護大は2000年4月,広島県の西部廿日市市に開学した看護系単科大学です。04年4月には大学院が開設され,09年4月には助産師教育課程,同年6月には認定看護師教育課程が開設されました。学生数は,院生を含め約630人,教職員は約70人,司書は2人です。
図書館は,13年4月1日時点で,蔵書冊数約6万冊,購入雑誌数145誌,利用可能な主要データベースは,「医中誌Web」「メディカルオンライン」「最新看護索引Web」「GeNii学術コンテンツ・ポータル」「CINAHL with Full Text」等を整備しています。建物は教育研究棟の中心に位置し,吹き抜けのある2層円形構造のやわらかで豊かな教育研究の空間を提供しています。世界遺産・日本三景の一つである「安芸の宮島」と,瀬戸内海の多島美が一望できる閲覧スペースは学生のお気に入りの場所のひとつです。
フットワークのよい,きめ細かいサービス
本学の図書館の現状は,少ない蔵書,少ない職員と,一見短所ばかりですが,これを長所にすることはできないかと考えてきました。少ない蔵書の小規模図書館は,「機敏性がある」と考え,「フットワークのよい」と換言します。少ない職員は,「柔軟性がある」ととらえ,「きめ細かいサービス」と変換します。それぞれの短所を長所に変え,それらを武器にしていこうと考えました。そして,「フットワークのよい,きめ細かいサービスの実現」を目標とし,看護大学だからこそできることは何か,当館の特徴を分析し,さまざまな取り組みを実践してきました。
まず,当館の特徴を分析したところ,3点の強みが考えられました。1点目は,「充実した看護資料」。蔵書数は少ないですが,看護関係に限定すると,専門領域の図書や雑誌はそろっています。2点目は,「充実した看護文献検索ツール」。前述の通り,検索ツールであるデータベースや二次資料が多数整備されています。3点目は,「蓄積された看護文献検索講習会実施のノウハウ」です。これらの強みを生かして2012年度に図書館で実施した文献検索講習会は,開催回数50回,参加者は延べ832人でした。内訳は,(1)新入生オリエンテーションが8回,(2)教員と図書館との連携による開催が20回,(3)図書館主催が19回,(4)看護職対象が3回です。
少ない職員と少ない蔵書でも,「フットワークのよい,きめ細かいサービス」が実現できる実践例として,本稿では,(2)の教員・図書館連携開催と(4)の看護職対象講習会について紹介します。
ワクワクする文献検索を
年に20回開催している教員・図書館連携開催の内容は,教員と司書が協議しながら,学年別に目標を設定して取り組んでいます。看護学部1年生の前期は,本学の図書館をしっかり活用してもらうことを目的とした「図書館徹底活用術」です。「OPAC(オンライン閲覧目録)」と「医中誌Web」を中心に,本学所蔵資料の入手体験を実施しています。1年生の後期には,雑誌論文の検索と入手を目的とし,医中誌を中心としたデータベースの検索体験と,文献管理ソフトの登録を実施しています。2年生では,医中誌,CiNii等の検索結果を文献管理ソフトへ取り込み,文献を電子媒体で管理する体験。3年生では,データベース検索と文献管理ソフトをより実践的に使う内容です。
「宝探し,ワクワクしました」。3年生の文献検索講習会後に実施したアンケートに記載された学生のコメントです。3年生144人は2組に分かれ,1組は図書館で司書が文献検索を担当し,もう1組は教員が教室で講義を担当します。90分経過すると学生は交替し,司書と教員は同じ内容をもう一度行います。
私が担当した講習会の内容は,パワーポイントを用い文献入手方法の概要解説と,「さあ,やってみよう!」と題した演習の2部構成です。楽しみながら文献検索に参加できることをめざし,次の4点を工夫しました。
1)キーボード代わりの付箋
「これから『たちあい出産』に関する文献を探します。目の前の付箋がキーボードの代わりです。さあ,検索語を入力してみましょう!」。付箋に各自入力する検索語を記入し,教室のホワイトボードに貼ります。すると,「立合い」「立ち合い」「立会い」「立会」「立ち会い」「立ちあい」「たちあい」等複数のキーワードが並びました。「たちあい」の一言でも,漢字ひらがなで検索の範囲が変わってきます。「たちあい」の大きな集合をつくるためには,「OR検索」が重要であることを視覚から実感してもらいました。
2)150枚のスライド
学生を引きつけるための工夫として,20分間に150枚のスライドをテンポよく一気に上映しました。
3)病院実習と同じメンバー
チームは,病院実習と同じメンバーとしました。この時間限りのグループではない点が,例題を解いていくときに一層の連帯感を持つことができたようです。
4)気分は「宝探し」
求める文献を探すためには,検索結果から具体的な雑誌名,巻号,発行年,著者,論文名などを的確に読み取る必要があります。演習では,設定した5問の検索例題を解答用紙に繰り返し記述することで,書誌情報の読み取りに慣れることを目標としました。しかし,繰り返し5問も書誌情報を書き込むことは,単調な作業となり学生は飽きてしまうのではないかと想定し,5問全部答えると最後に言葉が出てくる「宝探し」のようなワクワク感をもたせました。
臨床看護職を対象にした「トワイライト講習会」
前に述べた当館の3つの特徴のうち,特に学部生/院生を対象とした文献検索講習会の実施ノウハウは臨床の看護職にもニーズがあり,臨床における看護研究の一助になるのではないかと考えました。そこで,08年度からは看護職を対象とした「トワイライト講習会」を開始しました。
看護師の就業時間終了後に参加できるよう配慮し,開始時間を18時にしたことが「トワイライト講習会」の名称の由来です。
12年度の講習会の内容は,自宅からインターネットを使ってできる看護文献の探し方に焦点を絞り,目的に応じて探索する道具(=データベース)と検索のコツ(キーワード)および入手のコツ(芋づると全文)を紹介しました。2人1組で,具体的なキーワードによる「AND検索」と「OR検索」体験,引用文献と被引用文献体験,論文の全文入手体験の3つの体験を実施しました。学生対象の講習会同様,求める論文に到達するためには,具体的な雑誌名,巻号,発行年,著者,論文名を確認しなければなりません。このことを簡単に理解するために,身近な雑誌を使って,雑誌名,巻号,発行年を意識してもらいました。「安いお肉だっていいんです!」という身近な特集記事を例にとり,この特集記事を読むための探しものは『オレンジページ』2012;28(23)ということを理解してもらいました。
11年度までは年2回開催していましたが,アンケートの結果から,12年度は3回開催としました。昨年度のアンケートに「講習会の中でじっくりと時間をかけて取り組みたい」との意見があったため,これを受けて,今年度は例年の1時間コースに加え,自分の課題を解決する「課題解決編」を企画し,2コースの開催を予定しています。
写真 左:瀬戸内海を見下ろす図書館での講習会。右:「たちあい出産」を例にOR検索を学ぶ。 |
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本学の図書館の前に広がる瀬戸内海は,やがて太平洋という大きな海につながります。利用者が情報の探し方を体験し,大きな情報の海に出ることの楽しさを実感できる図書館をこれからもめざしていきます。
◆2013年度看護職対象「トワイライト講習会」 案内1)開催日時
2)場所:日本赤十字広島看護大学図書館 3)問い合わせ先
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渡辺さゆり氏 1979年より広島女子大(現県立広島大)附属図書館勤務。2000年より現職。「小さな図書館だからこそできる大きなサービスをめざし,日々試行錯誤しています」。 |
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