医学界新聞

2013.07.08

Medical Library 書評・新刊案内


神経診断学を学ぶ人のために
第2版

柴﨑 浩 著

《評 者》祖父江 元(名大大学院教授・神経内科学)

神経診察に関わる全ての人々に薦めたい啓発の書

 柴﨑浩先生の『神経診断学を学ぶ人のために』改訂第2版が出版された。この書は既に2009年に第1版が出版され大変好評であったが,今回,多くの改訂が加えられ装いも新たに出版されたものである。

 まず,柴﨑先生ならではの大変な労作であると感じる。序で先生自ら述べられているが,電算化や画像化がどれだけ進んでも,神経診断学は学習と経験に基づいた病歴聴取と診察の中から生まれるものであることをまず宣言されている。最近の神経診断がややもすると画像やコンピューターに基づく知識に偏りすぎていて,安直な形で進められてしまっていることへの警鐘にもなっている。神経診断学は,理論に基づき系統的に行えば正しい診断に達することができるものであり,かつその背後に潜む神経系の美しさや素晴らしさが見えてくることを示しているのが本書である。

 本書にはいくつかの特徴がある。

 その第1は,柴﨑先生がお一人で執筆された点である。先生の長年にわたる経験や考え方あるいは提言をまとめた書であることである。全編に満ちる確信の書きぶりと小気味よい端正な記述の流れは,まさにこのことによっている。

 第2は,診断や病態理解に至る解剖学的,神経機能的背景が,まさに互いに関連する形で述べられており,考え方の道筋が示されている。特に不随意運動,姿勢・歩行,運動機能などは先生ご自身の研究成果も多く取り入れられて,考え方の根拠がはっきり述べられている。

 第3には実践的であるということである。三段階診断法や病歴聴取,診療の手順を始め,各項目に診察の具体的な手順が述べられていて初心者にも診断の流れやポイントが理解できるようになっている。さらに具体的な疾患の記載が手際よく文脈に挿入されており,知らず知らずのうちに疾患にたどり着いている。

 第4には新しい神経学の知見が盛り込まれていることである。それは新規の疾患遺伝子であったり,治療法であったり,疾患分類であったりする。このup-to-dateは改訂版の大きな特徴である。

 第5には90にも達するコラムの存在である。ポイントを押さえたテーマの選択と簡潔な記述のコラム欄は本書の大きな特徴で,重要な情報が凝集されており,本文と絶妙な掛け合いになっている。

 第6は,視床の項の存在である。視床についてこれだけ簡潔にその系統的な機能がまとめられているものはあまり例を見ない。特にその中継核としての視床の重要性をあらためて考えさせられる項目である。

 最近の診療の電算化は電子カルテをはじめ,画像や検査,情報の扱いなど,われわれの日常の診療に大きな変化をもたらしている。もちろん多くの良い点が見られるが,神経診察の領域でも,ややもすると不都合が起こっているかもしれない。例えば患者の神経症候の変化を時系列でみることがおろそかになっていないか。感覚障害の分布や強度,modalityを細かく描出する作業は,以前は診察の基本であったが,IT化とともに稀薄になってはいないか。若い人たちは,電子化情報の中に本質があると誤解してはいないか。本書は,臨床神経学の本質は,患者が訴える症状とその時間的経過の把握,および診察によって得られる症候の組み合わせであるとする考え方は少しも変わってはいないことを教えているように見える。

 本書がこのような時代の中で,あらためて改訂版として出版される意義は誠に大きいと考えられる。

 本書は,一方では,神経診断は決して難しいものではなく,その背景を理解することによって多くの人が共有すべきものであることを述べている。また神経診察は極めて実践的なものであり,診断や治療に向かうtoolとして多くの人が共有すべきものであることを示している。

 神経診察にかかわる全ての人々に,啓発の書として本書を薦めたい。

B5・頁400 定価8,925円(本体8,500円+税5%)医学書院
ISBN978-4-260-01632-2


心臓外科の刺激伝導系

黒澤 博身 著

《評 者》中西 敏雄(女子医大病院心臓病センター教授・循環器小児科学)

先天性心疾患の診断治療に携わるすべての関係者必読の書

 本書評の結論をまず冒頭に述べたい。先天性心疾患の解剖や刺激伝導系の解剖は,外科医にとっては必須の知識であり,外科医には本書は必読の書である。内科医,小児科医にとっては,外科医と先天性心疾患患者の診断治療について討論する上で必要な知識が本書の中にちりばめられている。先天性心疾患の解剖を理解したいと欲する内科医,小児科医には強く本書をお薦めする。

 以下に本書の内容を私なりの理解で紹介

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