医学界新聞

寄稿

2013.06.24

視点

保健医療分野での国際協力

阿部俊子(衆議院議員 外務大臣政務官)=写真
大塚航(秘書官)


 外務大臣政務官を拝命してから5か月が経過しました。担当は国際協力,国際法と領事,担当地域は中東・アフリカです。自分自身がセカンドキャリアとして看護職を選択した原点には,開発途上国の看護教員をめざした経緯があります。前職の大学教員時代の教え子が何人もJICAなど国際保健分野で活躍している影響もあり,政務官としての担当を国際協力・ODAと希望しました。

 日本の国際協力は,人間の安全保障の理念――最も脆弱な個人を含む,人間一人ひとりに着目し,直面する脅威に包括的に対処し,保護だけではない,能力強化を図ること――に立脚します。

 国際協力には国益と国際公益という二つの目的があります。資源,経済,環境,紛争などの解決のために二国間・多国間で協力することは,将来の日本の平和と繁栄,すなわち国益につながります。さらに飢餓・貧困克服にも取り組んでいくことは,先進国日本として,世界平和を考えた国際公益を実践する責務です。

 日本の国際協力では,例えば感染症に脆弱な子どもにワクチンを供与するだけではなく,保健システム強化を中心に,教育,安全な飲料水へのアクセス,栄養価の高い食事支援なども含めた包括的な援助に取り組んでいます。

 「いのちを守る」ための国際医療保健は,国際協力の中でも重要な位置を占めています。国連ミレニアム・サミットで示されたミレニアム開発目標(MDGs)では,極度の貧困と飢餓の撲滅など2015年までに達成すべき8つの目標のうち,MDG4(乳幼児死亡率の削減),MDG5(妊産婦の健康の改善),MDG6(HIV/エイズ,マラリア,その他の疾病のまん延の防止)の3つが保健分野です。

 保健関連MDGsのうち,特に母子保健(15年までに妊産婦死亡率を1990年の水準から4分の1に削減する,15年までにリプロダクティブ・ヘルスの普遍的アクセスを達成)については達成が遅れています。日本における母子手帳が活用されている地域もありますが,識字率の低いところでは普及も難しく,地域保健指導が課題です。

 HIV/エイズ,結核,マラリアの三大感染症に関して,日本は「世界エイズ・結核・マラリア対策基金(世界基金)」等を通じた支援に力を入れています。さらに,本年4月設立の「グローバルヘルス技術振興基金」では,研究開発が不十分な「顧みられない熱帯病(NTD)」などの疾病治療薬について,途上国向けの医薬品研究開発と供給支援を官民連携で促進しています。

 4月に2泊6日の弾丸出張で訪問したケニアで,長崎大・井上真吾氏の薬剤開発の取り組みを視察しました。現場を見ることで国際協力における課題も実感しました。

 15年に期限を迎えるMDGsにおいては,その後継枠組み(ポストMDGs)の策定に向けた議論がなされています。5月17日には,岸田文雄外相から,日本の皆保険制度――誰もが基礎的な保健医療サービスを享受できる「ユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)」を途上国に導入できるよう日本が貢献していく方針が発表されました。ポストMDGsの目標にUHCが含まれれば,医療者を中心とした財政的・政治的動員が日本に期待されます。

 最後に,国連などの国際機関に日本人職員を増やすということも重要な課題です。政府は,国際機関に就職志望の若者を政府の経費負担でWHOや国連開発計画(UNDP)などに派遣するJPO(Junior Professional Officer)派遣制度を実施し,国際機関への応募者を増やすための広報活動と応募支援,研修等を通じた優秀な人材の発掘と育成,採用や昇進に向けた働き掛けなどを積極的に行っています。しかしながら,政府の国際機関への拠出金に比べ日本人職員の数は少なく,さらなる増員が必要です。

 財政的貢献の減額に伴って日本の外交におけるプレゼンスの低下が懸念されますが,日本が独自の医療保健制度を構築してきた底力を発揮できるよう,今後も海外に情報発信していきます。


あべとしこ氏
三井記念病院高等看護学院卒後,1997年米国イリノイ大シカゴ校博士課程修了(看護管理学)。東医歯大准教授,日本看護協会副会長などを経て,2005年9月に衆議院議員に当選(自由民主党・当選3回)。12年12月外務大臣政務官就任。ODAを含む国際協力,国際法,中東・アフリカ地域等を担当。

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