医学界新聞

2013.05.06

Medical Library 書評・新刊案内


誰も教えてくれなかった「風邪」の診かた
重篤な疾患を見極める!

岸田 直樹 著

《評 者》山中 克郎(藤田保衛大病院・総合救急内科)

医学生や研修医,ベテラン医師にも購読を勧めたい良書

 風邪の診断をするときによく思い出すのは,田坂佳千先生の「かぜ症候群における医師の存在意義は,他疾患の鑑別・除外である」という教えである。ありふれた疾患の水面下には,目では見えない大きく深い世界が隠れている。内科全般にわたる広範な医学知識と適切な問診や身体所見から目に見えない部分を感じ取ることが必要だ。風邪のふりをした,とんでもない重症疾患があるのだ。

 風邪には咳,咽頭痛,鼻汁の3つの症状がある。この中の一つの症状しかなければ風邪の診断は怪しい。咳+発熱だけなら肺炎,咽頭痛+発熱だけなら急性喉頭蓋炎,鼻汁+発熱だけなら副鼻腔炎かもしれない。本書では典型的な風邪の症状について,いくつかの症状パターンに分けてわかりやすく解説されている。漢方処方が不得意な私にとっては,咳には「麦門冬湯」,鼻水には「小青竜湯」,咽頭痛には「桔梗湯」との提案はありがたい(p11)。診療の幅が広がりそうだ。漢方はことさら強い主張はないのに,中国3000年の歴史から凛としてロマンチックな雰囲気を醸し出してくれる。

 さらに,忙しい臨床医が陥りやすいピットフォールについて具体例が示されている。長引く外来では思考をちょっと休めたりしたくなるが,風邪という診断をつけて思考停止に陥ることだけは避けたい。肺炎と風邪との違いについてのポイント解説が実に明快である。

・全肺炎の7%で初期は肺炎像がはっきりしない ……p48
・肺炎を疑う病歴の極意:(1)悪寒戦慄を伴う38℃以上の発熱+咳,(2)二峰性発熱,(3)38℃以下でも高齢者や肺に基礎疾患がある人の気道症状+寝汗 ……p49
・マイコプラズマ肺炎の特徴:鼻汁,咽頭痛,38℃以上の発熱が3日間以上続く若年成人,流行あり,胸部レントゲン写真で浸潤影,皮疹(多形滲出性紅斑以外でもよい),関節腫脹,肝機能異常 ……p55

 また,次のような実践にすぐ役立ち,他の医師にちょっと自慢できるクリニカル・パールも満載である。

・初期に局所臓器所見がはっきりしにくい感染症:(1)急性腎盂腎炎,(2)急性前立腺炎,(3)肝膿瘍,(4)化膿性胆管炎,(5)感染性心内膜炎,(6)カテーテル関連血流感染症,(7)蜂窩織炎,(8)カンピロバクター腸炎の初期,(9)歯髄炎,(10)肛門周囲膿瘍,(11)その他:髄膜炎菌敗血症,サルモネラ,レプトスピラ,レジオネラ,ブルセラ ……p64
・成人+初期に高熱のみとなりうるウイルス疾患:(1)インフルエンザ,(2)アデノ,(3)ヘルペス(成人水痘の初期など),(4)麻疹 ……p70
・高齢者の多関節炎の鑑別診断:(1)非典型結晶性関節炎,(2)streptococcal arthritis(特にG群),(3)傍腫瘍性症候群(特に肺癌) ……p106
・「頸部痛なのに頸部に何もない」ならば,(1)大動脈解離(頸動脈解離を伴わなくてもよい),(2)心筋梗塞(狭心症),(3)くも膜下出血,を考える ……p129
・高齢者の診療では家族が訴える「何か変」は,ほとんどの場合正しい ……p161

 風邪診療をすっきりと粋にこなしたい医学生や研修医,そしてベテラン医師にも広く購読を勧めたい良書である。この本はcommon diseaseを極めることこそ臨床医としての真の実力を高めるのだと考えている多くの臨床家の心に響くだろう。時を経ても永遠に新しい古典のように,この本の智慧が若手医師に語り継がれることを私は望んでいる。

A5・頁192 定価3,360円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01717-6


 その機能と臨床 第4版

信原 克哉 著

《評 者》井樋 栄二(東北大大学院教授・整形外科学)

読むほどに味わい深い肩関節外科の“独創的”臨床書

 1987年,評者がちょうど肩関節外科医としての勉強を始めたころであるが,本書の第2版が出版された。それを手に取って大きな衝撃を受けた。普通の教科書とは全く異なり,全体に一つの流れがある。思わず先を読みたくなる,まるで小説でも読んでいるかのような錯覚にとらわれる内容に驚かされた。それは信原克哉という一人の人間による一貫した哲学で書かれた書物だからである。難解な部分もあるが,何度も読むうちに隠された意味が見えてくる味わい深い書物である。

 名著と言われて久しい本書の11年ぶりの改訂版が上梓された。本書第3版の英訳版が,英国医学会が優れた医学書に対して贈る権威ある賞「優秀図書賞」を2004年に整形外科部門で受賞していることも,本書が国際的水準からみても秀逸な書籍であることを如実に物語っている。

 このたび,信原先生ご自身から書評のご依頼をいただき恐縮している。と同時にこのような名著の書評を依頼されたことを大変光栄に思う。今回の改訂に当たっては,前版発刊以降の約10年分の膨大な関連文献の中から重要なものを加え,文献総数は約2300にも及んでいる。このように膨大な科学的根拠に基づく解説書であるにもかかわらず,信原先生特有の軽快でユーモラスな語り口のおかげで肩が凝ることもなく読み進むことができる,極めて“独創的”な臨床書といえる。特にここ10年間,著しく進歩を遂げたバイオメカニクス,スポーツ障害,理学療法に関する部分は大幅に刷新されている。また,カラーの図版(写真含む)を多用することで見やすい内容になっており,さらにA4判へと本のサイズを上げ,また上製から並製にすることで,本の開きやすさや読みやすさといった点にも細かな配慮がみられる。肩関節外科を志す者はもちろんのこと,整形外科医であれば一度は手に取るべき書物である。

 日本は,肩関節外科の領域では古い歴史もあり,ある面では世界をリードしてきた。しかし本書に収録されている腱板疎部損傷や動揺性肩関節など日本発の疾患概念が,国際的に必ずしも正しく認知されているとはいえないのが現状である。関節鏡という手術器具も日本発でありながら,米国,ヨーロッパにおいて急速に発展し,今では日本が追いかける立場にさえなってしまった。それは日本の肩関節外科医の多くが内向き志向であること(国内学会での発表,国内誌への投稿で満足している),世界に向けての情報発信があまりにも少なかったことがその原因と考えられる。

 本書とその英訳本がブレイクスルーとなって,日本の,そして世界の肩関節外科医が共通の理解と認識の上で議論を深め,どこでも誰にでも世界標準の診療を提供できる日が来ることを望む次第である。

A4・頁544 定価18,900円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01676-6


小児から高齢者までの姿勢保持
工学的視点を臨床に活かす 第2版

日本リハビリテーション工学協会SIG姿勢保持 編

《評 者》染谷 淳司(東京小児療育病院・みどり愛育園理学療法士/らっこ支援者の会代表)

「姿勢保持」の基礎から応用までを正しく学べる有益な書

 1980年以来,工房や車いす製作者,時には著者たちSIG姿勢保持運営スタッフと共労し,小児や重症児・者など多様な障がいをお持ちの方々の姿勢保持環境の改善やスポーツに関与してきたPTとして,感想を述べさせていただく。

 総論の第1章「姿勢保持の基礎知識」では,姿勢保持の概要と歴史,姿勢保持装置の基礎知識やチェックポイントが簡潔明瞭に記載されている。そして,第4章「姿勢保持装置製作の実際」に連携し,実践的な知識や技術が紹介されている。日本における姿勢保持の分野をリードし,歴史を築かれてきた繁成剛,飯島浩の両氏を中心に,工業デザイン・リハビリ工学技師たちがこれらの骨格を担い執筆している。さらに,厚労省障害福祉専門官の髙木憲司氏による特別資料「座位保持装置・車いすなどに関する支給制度について」は端的・詳細・最新情報である。以上のように,過去から現在に至る姿勢保持について有効に学べる内容である。

 応用編では,第2章「小児」で,脳性麻痺,二分脊椎,筋ジストロフィーに関しての「問題点とチェックポイント」も含め力作的に記載されている。著者の露峰牧子氏の「身体だけでなく精神的,心の成長も含めて経験させたい」という言葉が強く印象に残る。そして,「小児疾患における姿勢保持の基礎と実際」の辻清張氏も経験豊富なPTである。OTの堀口淳氏(「日常生活」),教員の篠原勇氏(「教育現場」),工学士の中村詩子氏,PTの榎勢道彦氏。彼らは真摯に障がい児・者に寄り添ってきた方々であり,その経験に基づいた指針と事例的アプローチが紹介され大いに参考になる。

 第3章「高齢者 4.高齢者介護施設における姿勢保持」で齋藤芳徳氏は,「生きようとする意欲を支える」ことを合言葉として掲げ,入所利用施設での介護システムと住環境,姿勢保持,車椅子,入浴の支援などについて,多面的に行動様式論としてとらえて論じている。

 第5章「生活支援と姿勢保持」では,遊び,コミュニケーション,さらに,水・乗馬・スキー,自転車,セーリングなどと,スポーツ参加をも保障するための姿勢保持が紹介されている。今回の改訂に伴う加筆もあり,その機能援助のための特記と貴重な実践から培ってきた具体的な器具・環境支援の実績が紹介されている。著者らの「共に人生を楽しむ」心意気とその援助の術が伝わってくる。

 健康であり,隣人と共に歩みたいと誰もが願うであろう。「小児から高齢者まで」の方々が,自らの厳しい障がいや加齢を「工学的視点を臨床に活かし」ながら受容し乗り越えて,日々の生活に意欲的に臨んでいく。その生活基盤は,メリハリがあり,生き生きとした「姿勢保持」の展開であろう。著者たちは,日本の「姿勢保持」を築いてきた多彩なエンジニアやセラピストなどであり,豊富な経験と実績を有している。その持ち前の本領を発揮し,共労して作り上げたのが的確なタイトルを冠したこの書籍である。見やすいイラストや写真も多用され,わかりやすい構成になっている。当事者,初心者から経験者までのサポーター,多くの関係者の方々が「姿勢保持」の歴史,基礎から応用までを正しく学べる有益な書であるといえるであろう。

B5・頁256 定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01541-7


医療事故の舞台裏
25のケースから学ぶ日常診療の心得

長野 展久 著

《評 者》長尾 能雅(名大病院副病院長/医療の質・安全管理部教授)

医療事故の悲しみと苦しみが生んだ,渾身の指導書

 医療事故とはどういうものか,100人の医師に問えば100の答えが返ってくる。何が過誤で,何が合併症か,事故調査はどうあるべきか,司法は,賠償は,と議論は尽きない。しかし,多くの医師は医療事故を断片的,一方向的にしか知る立場になく,その全体像を多角的に説明できる者は少ない。

 本書には極めてリアリティに富む25の医療事故のエピソードと,その顛末が記されている。いずれのエピソードも,医療者,患者,司法,そして社会の思考回路を誇張なく伝えるものであり,日々医療事故と向き合っている医療安全管理者からすれば,これこそが医療事故の実態とうなずける。著者は誰に肩入れすることなく,可能な限りの中立性と自制を保ちながら,粛々と事故事実と再発防止策をつづっている。

 著者の長野展久氏は脳神経外科医として研鑽を積んだ現役医師であると同時に,損害保険会社の顧問医として多くの医療事故をジャッジしてきた経歴を持つ。著者ならではの視点から指摘される医療現場の課題は興味深い。例えば著者は,医療者がストレスのピーク時や,思い通りにならない症例を抱えたときに感じる「陰性感情」に注目し,警鐘を鳴らしている。陰性感情を持った医療者は,いつしか患者に“プシコ”“アル中”“心因性”“クレーマー”“モンスター”“コンビニ受診”といったレッテルを貼り,解決を図ろうとする。これはやがて周囲に伝播し,チーム全体の判断能力を変化させてしまう。医療事故調査会などでは指摘されにくい,しかし誰にも覚えのあるリアルな紛争要因である。

 また,本書の最大の功績は,事故症例を丁寧に記述することで,ほかに類例を見ない優れた臨床指南書を完成させた点にある。再発防止についても,いたずらにシステムに偏重するのではなく,医療者が事故に学び,自身の臨床行動や思考パターンを謙虚に見直すことを第一に説いている。通常紛争情報はクローズド・クレームと呼ばれ,公開されないことが多いが,著者は賠償額も含め,大部分をオープンにした。著者の姿勢から,再発防止への願いや覚悟が伝わってくる。

 研修医も,指導医も,安全管理者も,トラブル回避術を羅列した安易な虎の巻に頼るのではなく,本書を読んでほしい。今夜起こるかもしれない深刻な事態と,その処方箋が記されている。『もし許されるなら,医療事故につながりそうな場面に出動して,主治医の耳元で注意を促したいところです』。著者の偽らざる本心である。医療事故の悲しみと苦しみが生んだ,渾身の指導書である。

A5・頁272 定価2,625円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01663-6


そうだったのか!
臨床に役立つ循環薬理学

古川 哲史 著

《評 者》青沼 和隆(筑波大医学医療系教授・循環器内科学)

忙しく臨床に取り組む循環器医のための一冊

 今回,臨床薬理学の領域の中でも,誰もが最も苦難する循環薬理の分野に特化した画期的な循環薬理学新書が刊行された。筆者は東京医科歯科大学難治疾患研究所生体情報薬理学分野の古川哲史教授である。古川先生はもともと循環器内科教室で研鑽を積まれ,臨床医として米国留学を果たしているのであるが,留学先のマイアミ大学で循環薬理学の面白さに見事はまってしまい,帰国後は臨床薬理学の分野で目覚ましい業績を挙げられた,いわば臨床医のセンスをもった薬理学者である。卒後所属された臨床の教室が私と同じである縁で,研修医時代の東京医科歯科大学,循環器専門医となられ米国留学直前の武蔵野赤十字病院で,共に仕事をした仲である。

 本書を拝読してみると,この本の題名そのままに,かゆいところに手が届く理路整然とした解説が至る所に散りばめられており,まさに日頃忙しく臨床に取り組んでおられる循環器医のための一冊であることがわかる。

 本書は私のようなある程度経験を積んだ臨床医にとっては,日常臨床で薬物を処方する場面においてその薬物の項目を開いてさっと目を通すことで,自分が経験的に,いわゆる匙加減で使用していた薬物に対する奥底にある深い意義を教えてくれる。なるほど自分の考えが間違っていなかった,あるいは目からウロコの新しい考え方が身につくという利点がある。

 あるいは初期研修医や後期研修医のようにいまだ経験の浅い医師にとっては,寝る前に1ページ目から少しずつ読んでいくことで,必ずや素晴らしい循環薬理の知識が身につき,さほど厚くない本書を読破した暁には,百戦錬磨の経験豊富な先輩医師に対して対等に,あるいはむしろ余裕をもって適切な薬物の選択を提案できるというものである。

 最後に,経験の少ない医師にとっても経験豊富な医師にとっても,あらゆる臨床の場面で本書のタイトルにあるように「そうだったのか」と膝を打つことができる良書であると考え,全ての臨床循環器医に推薦させていただく次第である。

A5変型・頁216 定価4,725円(税5%込)MEDSi
http://www.medsi.co.jp/

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