医学界新聞

対談・座談会

2013.03.11

【座談会】

“循環器内科医”をめざす君たちへ
香坂 俊氏(慶應義塾大学医学部 循環器内科・講師)=司会
平岡 栄治氏(東京ベイ・浦安市川医療センター 総合内科部長)
西原 崇創氏(聖路加国際病院循環器内科/富士重工業健保太田記念病院循環器内科)
北井 豪氏(神戸市立医療センター中央市民病院 循環器内科)


 心筋梗塞や不整脈といった致死的な疾患に対し,カテーテル・インターベンションやアブレーションなどの手技で劇的な回復を導く循環器内科。華やかな手技に魅力を感じる医学生,研修医の方も多いのではないでしょうか。

 専門的な手技や知識はもちろん必須ですが,心血管疾患の予防の重要性がますます高まるなかでは循環器内科の専門教育においても総合的な考え方が大切になってきています。本座談会では専門医取得後のキャリアパスを含め,一人前の循環器内科医を育てるためのノウハウを,臨床・教育の第一線に立つ4人が議論しました。


香坂 循環器内科医を養成するためには,医学部卒業後に初期研修2年,内科研修2年,さらに循環器内科の専門研修を3-4年行うのが一般的な流れとなります。米国でも同様に,一般内科研修3年と循環器フェロー4年の経験が求められ,日米ともに一人前になるためには7-8年の期間を要することになります。この期間をどう捉えるかは人によって異なると思いますが,同じような専門職である弁護士の司法修習や宇宙飛行士のASCAN基礎訓練の期間がたった1-2年であることを考え合わせると,医師の研修期間は極めて長いスパンで考えられています。

 そこで本日は,人生の長期間を投資するからこそ大切となる,循環器内科の専門医を育てるための“コンセプト”について,先生方と議論していければと思います。

専門研修での学びを深めるための一般内科研修

香坂 先生方の施設では,どのようなプログラムで循環器内科医を養成しているのですか。

西原 私が教育プログラムの作成や実際の現場での教育に携わっていたころの聖路加国際病院(以下,聖路加)では,内科領域を志望する研修医はまず初期研修期間(2年間)を含む3年間の内科総合研修を受けてもらい,興味を持つ専門科を自由に選択できる4年目を経て,循環器内科志望であればその後に2年間以上の専門研修を行うプログラムとなっていました。

北井 神戸市立医療センター中央市民病院では,2年間の初期研修の後,3年間の循環器専門研修がすぐに始まり合計5年間の研修期間となっています。

香坂 2年+3年のシステムは,かなり短い印象を持ちます。

北井 研修期間に議論は確かにありますが,専門研修の3年間でひと通りの循環器内科のスキルを身につけられるようなプログラムを組んでいます。

 専門研修1年目では,救急患者や急変患者への対応力の習得を最優先に,循環器診療の基礎を徹底的に身につけます。2年目では,カテーテル・インターベンションやペースメーカーなどの手技習得,また一般外来診療も担当してもらい,3年目ではサブスペシャリティの要望に合わせてプログラムを決めています。3年間の専門研修が短すぎるとは感じませんが,専門研修に入る前の研修期間が2年でよいかは疑問を持つこともありますね。

香坂 専門研修に早く進み,専門医も学位も早く取得したいと考える医学生・研修医は,日本では多いように感じています。ですが,米国では3年間の一般内科(general internal medicine)研修を修了しなくては内科の専門領域に一切触れることはできません。

 初期研修の期間が短いなかで一般内科の素養が不十分なまま専門医となり,それこそ手技偏重などバランスの偏った医師が養成されてしまうことを危惧しますが,その点はいかがですか。

平岡 そうですね。私は,日本で循環器の専門研修まで行った後に米国で一般内科を研修したのですが,実は大きなカルチャーショックを受けました。

 米国の一般内科研修では,内科疾患のすべてをカバーできるよう,病棟では急性期疾患の管理や周術期の内科コンサルト,外来では胸痛・腹痛などの救急はもちろん,継続外来や他科からのコンサルト,さらにはエビデンスに基づく予防医学の教育を受けます。臨床に必要な能力もACGME(卒後医学教育認可評議会)の「6つのコンピテンシー」(註1)として明確に規定され,研修内容がどの能力の涵養につながるかを意識して学びます。

 留学前は,例えば急変時に補助循環装置を使えるのが「できる医師」という感覚を持っていたのですが,米国との意識の違いにショックを受け,自分は一般内科のスキルがまったく足りなかったと感じました。

西原 内科の一般的な知識や技能を重点的に学ぶことで,専門研修でも学びの奥行きが広まります。聖路加の場合,「少なくとも3年は行わなければ内科研修として不十分」という意識がありました。

香坂 今日の循環器内科では,患者さんの長期的な予後をきちんと考え,目に見える症状以外にも気を配らなければ本当の意味で回復したとは言えないという考え方が浸透してきています。だからこそ,専門医もきちんと一般内科の素養を身につけることが,ますます大事になるかと思います。

一般内科のスキルはいつ身につければよいか

香坂 一方で,例えば循環器病棟の患者さんが肺炎を併発した場合,呼吸器科の力を借りて診察を行うことになりがちな各施設での現状を考えると,専門研修を始めてからのほうが適切なコンサルト能力など,一般内科のスキルの習得に適していると感じることがあります。

北井 確かに,自分の初期研修を振り返ってもどうしても各科縦割りの研修が中心で,横のつながりに当たる一般内科研修としての指導は不足していたような印象を持っています。専門研修に入ってから一般内科のスキルが足りないことに気づき,そこから学ぶ必要性を認識する状況は多いと思います。このような点も踏まえ,当院では総合内科を立ち上げ,現在は初期研修の2年間で十分学べるプログラムとしています。

西原 医局ごとにローテートするような研修システムでは,一般内科研修は不足しがちでした。しかし初期研修が必修化され,特に市中病院では総合内科が研修の中心となる施設も増えてきたため,早いうちから一般内科の重要性が浸透してきていると感じます。私は研修医に,「基礎工事(初期研修での一般内科研修)をしっかりしないと高いビル(専門領域)は建たない」とよく例えるのですが,卒後2-3年でどれだけ多くの疾患を経験し,身につけたかで,その後の専門研修の充実度は変わると考えています。

香坂 初期研修では,必修とされる内科研修の期間は6か月だけです。

北井 「期間が短い」という初期研修医の意見は多いのですが,例えば産婦人科のローテーション中でも,患者さんを診察する限り内科の要素は必ずあります。ですから,意識さえすればどの診療科の研修中であっても得られるものはあります。むしろ,他科のローテーションには,内科研修にない要素も多く学べるという利点があるため,研修を受ける側がしっかりと意識を持てば幅広いスキルを身につけられると考えています。

平岡 それに教える側の姿勢も大切です。一般内科のスキルが重要だということを,専門医が研修医にしっかり伝えていくことが重要ですね。

カンファレンスの肝は「目的」の明確化

香坂 初期研修医の指導に当たるなかで,工夫されていることはありますか。

北井 循環器内科をローテーションする初期研修医には専門研修の指導のように詳細に教えるよう気をつけています。もちろん,教育の中心は

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