看護現場の“勤務表づくり”に変革を(井部俊子,眞野惠子,池田惠津子,佐々木司)
対談・座談会
2013.02.25
【座談会】看護現場の“勤務表づくり”に変革を | |
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日看協『看護職の夜勤・交代制勤務に関するガイドライン』の発表を控え,看護師が生き生きと過ごせる働き方に注目が集まっています。一方,看護現場では人員不足や長時間の夜勤・残業など,その実現を妨げる多くの課題を抱えているのも実情です。
本座談会では,管理者・現場ともに満足度の高い“勤務表づくり”に焦点を当て,看護現場の労働負担軽減への方策を議論。安全・健康を守る勤務体制が「絵に描いたもち」とならないよう,看護管理の在り方を探ります。
井部 交代制勤務に関する多くの研究が行われています。労働科学の知見からは,看護師にどのような働き方が求められるのでしょうか。
佐々木 夜勤を行う看護師には,健康面,業務の安全面に加え,特に女性の場合,出産・育児・介護を含めた生活面の3つのリスクがあることがわかっています。労働科学の知見では,それらのリスクを踏まえ1982年に発表された「ルーテンフランツ9原則」(表1)という基本的なガイドラインを遵守することが,長く働き続けられる交代制勤務を可能にすると示されています。
表1 ルーテンフランツ9原則 | |
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編集室註:「1.夜勤は最小限にとどめるべき」は,連続夜勤回数を少なくすべきことを示している。 |
この原則を看護師,介護士などヘルスワーカー向けに修正したのが,ポワソネが2000年に打ち出した「ポワソネ6原則」(表2)です。この2つの原則が看護師の交代制勤務のスタンダードの考え方となっています。
表2 ポワソネ6原則 | |
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看護現場ではいま,何が課題となっているのか
井部 夜勤勤務編成を行う実際の現場では,ルーテンフランツ9原則やポワソネ6原則がどのくらい生かされているのでしょうか。
眞野 当院では,12時間15分勤務の2交代制を1983年より採用しています(図1)。シフトを組む上では連続した夜勤・日中勤の後は休暇を保障するなど休みを取りやすくしています。
図1 藤田保健衛生大学病院の勤務形態 |
池田 当院は,日勤8時間,夜勤16時間という変則2交代制を昨年まで採用していましたが,12年3月から一部の病棟で日勤より始業時間の遅い「中日勤」帯を設置し,夜勤を14時間に短縮した体制を開始。8月より全病棟で導入しています(図2)。
図2 大阪府済生会吹田病院の新たな勤務形態 |
井部 交代制勤務を行う上で,何か問題は起きていますか。
池田 「夜勤は最小限にとどめるべき」という原則は当然理解しているのですが,部署ごとの看護師配置数が決まっているため一部の看護師の夜勤回数が増えてしまっています。
眞野 当院でも連続夜勤2回までを守って勤務表を作成していますが,看護師ごとの夜勤回数に差が生じているのが現状です。また,いかに時間内に勤務を終わらせるかも大きな課題です。
池田 以前に比べると,現場の看護師の残業は増えていると感じますね。
佐々木 やはり看護師の絶対数が不足しているのだと思います。どの原則を優先するかを決め,妥協点を模索することも大事です。
井部 ただ人手不足といっても“人が仕事を作る”面もあるため,増えた人数分業務が増えます。10人増やしてもさらに10人必要となりかねません。
佐々木 時間内に仕事が終わらない原因は,結局は労働負担の問題にたどり着きます。生活援助技術である看護はやろうと思えば際限なくできるわけですが,労働負担を減らす方策を考えることが必要でしょう。
労働科学の知見からは労働負担を減らす3つの手法が考えられていて,第一に業務(ワーク)としての労働を減らす,第二に職務権限(ジョブ)を委譲する,そして第三に勤務表(システム),すなわち勤務体制を変えることがあります。それらにどう線を引くかが労働負担軽減の最大の解決策です。
「渡す」「もらう」「つないでいく」
井部 では,看護師の疲弊を防ぐ上でも重要な労働負担の軽減は,どのように行っていけばよいのでしょうか。
佐々木 看護労働はケアとキュアに分けられますが,医療技術の進歩に伴いキュアの負担が重くなってきていると考えられます。キュアの部分は,医師や薬剤師など他職種に預けることも一つの方法ではないでしょうか。
眞野 現在でも,採血では臨床検査技師によるサポートがあり,また薬剤師も病棟に配置されています。本来ならば他職種間で業務分担がなされるはずですが,なかなかうまくいきません。
池田 看護師側にも業務分担を図れない理由があると感じます。看護師は専門職業人としての思いが強く,例えば日勤中に緊急入院があり夜勤との交代時間を迎えても,「ここまでは自分の仕事」という気持ちを持つ方が多いです。ですが,交代制勤務を採用しているのですから,やはり引き継ぐことが大事でしょう。
井部 以前ニューヨークの病院を視察した際,導尿を行っていた看護師が自分のシフトが終わった途端,パタッとやめて休憩に入る光景を見ました。そういった割り切り方を日本の看護師はしないし,おそらく日本の文化的にできないのだと思います。伝統的なチーム看護のなかで培われた文化が,長時間働かざるを得ない状況を作り出しているように思えます。
私はそれを「行き過ぎた気遣い」と呼んでいます。気遣いは大切ですが,「こんな仕事を残しては申し訳ない」というような過剰な気遣いのために引き継げない。この根は深いと思います。
池田 先輩が仕事をしていると,後輩は先に帰りにくい風土もありますね。そこも「行き過ぎた気遣い」の現れなのかもしれませんね。
眞野 まさにその通りですね。看護は24時間継続することにも意味があるので,「渡す」「もらう」「つないでいく」ところの意識改革を,現場は図っていかなければなりません。
佐々木 労働を契約の上で行う文化を持つ欧米では,決まった時間になったらぱっと終了するのが仕事です。その辺りの改善は,やはり看護管理者の役目ではないでしょうか。
ポイントは業務内容の整理
井部 看護管理者の役割は,日勤や夜勤での業務内容をどう変革するかにあります。労働負担軽減のためには,決まった時間内に終わるよう看護管理者が業務を整理していくことが大切です。
翻って現状を考えると,現在の夜勤帯は翌日の日勤帯用の薬剤の確認や書類整理など,ルーティンワークを課し過ぎていると思うのです。夜勤はナースコールや患者の対応などに限定する必要があるのではないでしょうか。
佐々木 深夜に薬剤の確認はすべきでないでしょう。眠たい看護師が行っている業務ですからやはり間違えますし,米国でも夜勤帯でのインスリン投与は禁止されています。
池田 本来であれば夜勤は必要最小限の業務とし,他の業務は日勤帯に行うべきなのだと思います。ですが入院者数が増え,退院支援も求められ,さらに病棟稼働率も高まりつつある現状を考えると,抜本的に業務内容の全体を見直す必要があります。
眞野 当院では,夜勤帯にも少人数ですが希望する看護助手に入ってもらっています。看護師とペアを組みおむつ交換などを2人で行うため時間の短縮につながり,また緊急の検体提出も手伝ってもらえるので楽になったという声を聞きます。システマチックにそういった体制を構築できれば,負担軽減につながるかもしれませんね。
井部 マンパワーの面では,大阪府済生会吹田病院ではナースバンクも活用されていますね。
池田 「くわい制度」1)という当院オリジナルのナースバンクを運営しています。定職を持たない近隣の看護師に,「許す時間だけ働いてください」という制度です。
現在,大学院生や子育て中の方など約30人がエントリーしています。マンパワーを少しでも補うことで,急用時に有休取得が可能になったりとよい効果も出ています。
佐々木 パートの看護師を有効に活用するためにも,業務内容が決まっていることはポイントですね。
看護記録に由来する残業を減らすには?
眞野 業務時間内に仕事が終わらない理由を調査したところ,看護記録の記載に時間を取られるという問題もあるようでした。
井部 おそらく多くの病院では,記録は業務時間終了後にデスクワークで行っているのが実態だと思います。これもやはり業務時間終了とともに終わるシステムの構築が求められます。
池田 当院では看護助手の業務拡大を図りながら,同時記録が可能な体制づくりにトライしているのですが,なかなかうまくいきません。「一生懸命シーツやおむつの交換をしている間に,どうして看護師は座っているのか」という看護助手からの批判もあり,まずはチームで仕事をするという意識をもっと培っていかないといけないと感じています。
眞野 私はいま,福井大病院で導入されているベッドサイドでの看護を2人で行うパートナーシップ・ナーシング・システム(第2979号参照)を参考に,ベッドサイドで記録を行うスタイルを導入して超過勤務を減らす試みをしています。現在,夜勤免除で働いている育児中の看護師に試験的に実施してもらっていますが,定時に業務を終えられるようになったと聞きます。
佐々木 記録の面では,PCが各個人にないことも問題ではないですか。
眞野 ええ。特に新人は先輩が来たらPCを譲らなくてはならない雰囲気があり,始業前に来る看護師もいます。
井部 1人1台PCを使用していても,記録には時間がかかるという話を聞きます。というのも,結局業務終了後に入力しているからです。
眞野 ステーションで記録するという紙カルテ時代の風土がまだ残っているのでしょうね。
佐々木 もう一つ,現在はモバイル技術が進歩しているので無線を活用することも有用ではないでしょうか。ベッドサイドで患者さんと「今日の検査値は少しよくなっていましたね」とコミュニケーションを取りながらデータを入力していくこともできます。
眞野 ベッドサイドで記録を行いその場で完結するような体制ができれば,患者さんは看護師が側に居ることで満足と安心感が得られます。また一人ひとりの患者さんと多く向き合うことにつながり,看護師のやりがいも増すと思います。
傾斜配置そのものが時代に合わなくなっている
井部 「夜勤もできて一人前」という考え方がこれまでの看護師にはありましたが,夜勤免除されている看護師も戦力とカウントされる現在では,それに見合った新たな勤務体制の在り方を考えていかなくてはなりません。
眞野 看護師の生活の質が重視され,多くの施設では妊娠したら夜勤免除を取得できるようになりましたが,その一方で夜勤の負担が独身の看護師に集中してしまっています。
井部 昔とは環境が異なるわけですから,看護管理者が希望や批判をきちんと受け入れて管理していかなくてはいけないと痛切に感じます。
実は私は,固定シフト制を導入したらよいと考えています。日勤・準夜勤・夜勤をすべて経験するのではなく,例えば1か月間は同じシフトを続けるような働き方はどうでしょうか。
佐々木 人間は昼に活動する生き物ですから,夜勤専従にはリスクがあります。最近の研究では,北海油田で油を掘削する労働者のように,生活する社会が完全な昼夜逆転をしている場合は夜勤専従でも生体リズムを含め完全に適応するものの,その他の業種の夜勤専従者では日勤指向型に保たれた社会で生活しているため,適応しないことがわかっています。
最近は日勤帯の看護師が業務の忙しさのために,ついつい患者さんを昼間に寝かせてしまい,そのような患者さんが夜に目が覚めてしまうこともあると聞きます。労働負担が日勤,準夜勤,夜勤の違いによらずほぼ等しくなってきていることから,工場のようにどの勤務帯も同じ人数で回す体制は考えられそうですね。
井部 常時7対1の人員配置のなかで,日勤帯の配置人数は多く,夜勤帯は減らすという傾斜配置には問題があると私も感じています。
池田 傾斜配置そのものが時代に合わなくなってきているのでしょうね。
「仮眠を取らないと危険」看護師に働き方の教育を
佐々木 やむを得ず夜勤専従制を導入する場合でも,健康リスクの観点から仮眠を取って日勤指向型の生活にしておくべきです。夜勤を続けると体は見かけ上夜勤に適応してきますが,生体リズムは変わらないのです。仮眠にはアンカー・スリープ効果2)があるので必ず寝る時間帯をつくることが大切です。
眞野 横になってもなかなか眠れない人もいます。私自身,病棟看護師のころは仮眠ができないタイプだったのですがどうしたらよいですか。
佐々木 眠れないと思っていても,横になれば意外と脳波の波形は眠っていることが知られています。睡眠は,寝る前の疲労を回復する役割が大きいのですが,起床後の作業負荷で睡眠感が変わってきます。したがって仮眠の前に,起きてから行う業務を整理して心理的な不安を除いておけば横になるだけでも十分意味はあるのです。
また,睡眠しやすい環境づくりや認知行動療法など眠るためのテクニックは種々あるので,そういったことの教育が重要でしょう。環境づくりで最も大切なのは,実は看護管理者が「寝ていいよ」という安心感を与えることです。
井部 「仮眠を取らないことのリスク」のような,仕事を行う上での基本的な教育が不足していると感じます。現在の基礎看護教育は「よいケアの在り方」に偏っているため,労働基準法の内容や生活の整え方など,働くことに関する基礎教育がもっと必要でしょう。
佐々木 そうですね。自分自身が健康でなければ,よいケアはできないわけですから。
コミュニケーションと信頼が満足度の高い勤務表
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