医学界新聞

2013.01.21

Medical Library 書評・新刊案内


がん化学療法 レジメン管理マニュアル

濱 敏弘 監修
青山 剛,東 加奈子,川上 和宜,宮田 広樹 編

《評 者》安藤 雄一(名大病院教授・化学療法学)

チーム医療の中で薬剤師が果たす可能性を垣間見ることのできる書

 全国の病院で外来化学療法室が稼働し,エビデンスに基づいた治療レジメンが登録され,横断的なキャンサーボードやカンファレンスが開かれるようになった。分子標的治療薬によりがん薬物療法の治療成績が向上し,治療適応の判断から副作用マネジメント,患者や家族の心のケアに至るまで,専門的な知識と豊富な経験を持つ専門家(プロフェッショナル)の存在はもはや不可欠になっている。薬剤師の職域は日々の処方監査と疑義照会からはじまり,服薬指導,抗がん薬の調剤,レジメンの管理へと広がった。さらに診療現場やカンファレンスでは医師や他職種と意見を交えながらチーム医療に積極的に参加する薬剤師も増えてきた。

 一方で,がん薬物療法という共通の目的のために多職種がそれぞれの専門性を発揮するのがチーム医療の本質であり,ただ役割分担を決めて作業すればよいというものではない。評者は常日ごろより,薬剤師の方々は薬剤の適正使用から科学的な整合性の吟味,臓器障害や併存症を持つ患者の用量や薬剤選択,薬物相互作用の可能性など他職種とは異なる独自の視点を大切にしてほしいと思っている。刻々と変化するがん薬物療法を取り巻く状況を踏まえると,このたび本書が上梓されたのは時流なのであろうか。

 本書は乳がん,肺がんなど臓器ごとの各章から構成されており,それぞれの代表的な標準レジメンについてその内容から,処方監査のポイント,減量・中止基準,調剤のノウハウ,投与時の注意点,副作用マネジメントまで,多くの表を用いてよくまとめられている。しかし,ここまでの内容であれば,既に優れた類書も多い中,本書には比較的よくできたマニュアル本としての価値しかなかったかもしれない。

 特筆すべき点は,やはり各項目の末尾に設けられた「薬学的ケアのポイント」であろう。それぞれのレジメンによる治療を受けた“CASE”について,担当の薬剤師がそのとき何を考えてどう行動したか,型にはまったマニュアルでもDI情報でもない一人ひとりの薬剤師自身の生の声をそこに聞くことができる。医師でも看護師でもないまさに薬剤師としての視点である。したがって,本書は決して一時の流行に乗ったものではなく,本書を通して私たちは近未来のチーム医療の中で薬剤師が果たす大きな可能性を垣間見ることができるのである。これは高名なレビュアーでも医師でもなく,臨床現場で日々がん患者と向き合って悪戦苦闘している中堅から若手の薬剤師の方々に執筆の機会が与えられた幸運によるものであり,本書をそのように企画され監修された濱敏弘先生に深く敬意を表したい。

B6変・頁368 定価3,990円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01637-7


小児から高齢者までの姿勢保持
工学的視点を臨床に活かす 第2版

日本リハビリテーション工学協会 SIG姿勢保持 編

《評 者》宮田 広善(姫路市総合福祉通園センター所長)

リハビリテーション工学の集大成といえる書

 リハビリテーション工学の実践書であり理論書である本書が,新たな執筆者を加え多くの項目を追加して改訂された。

 思えば,「Nothing about us without us(われわれ抜きにわれわれのことは何も決めるな)」を合言葉に,世界中から国際連合に集まった障害当事者たちの参加の下で,「障害者の権利に関する条約」が採択されたのは本書初版出版の前年であった。それ以後の5年間,わが国ではこの条約の批准に向けて,法制度だけでなく障害福祉の理念が大きく変化した。

 特筆すべきは,障害関係法の憲法ともいうべき障害者基本法の抜本改正である。障害を,「障害及び社会的障壁により継続的に日常生活又は社会生活に相当な制限を受ける状態」と定義し,従来の医学モデルから社会・生活モデルへと大転換を果たしたのだ。わが国の施策は今後,本書が掲げる「日常生活場面での具体的な支援」を課題にして進んでいこうとしている。

 障害は治らない。しかし,障害があっても生活を楽しみ,人生を豊かに送ることは可能である。「障害を軽減する」という医学モデルの目標を持ち続けてきたわが国の福祉,医療,教育には,「障害があっても豊かな人生は保障される」という社会モデルへの変革が求められている。リハビリテーション工学はその先駆けとなるべき使命を課せられているのだ。

 本書はリハビリテーション工学の集大成である。内容は基礎・理論から臨床・応用まで,対象は乳幼児から高齢者まで,そして生活場面からスポーツや遊びの場面まで,さまざまな実践家がその専門性と経験をもとに,具体的かつ臨床的に執筆した数少ない実践書である。同時に,先駆者たちが現場の意識を変え制度の枠を押し広げながら臨床実践を形にしてきたリハビリテーション工学の歴史書でもある。

 本書はまた,障害のある人を支援する者に求められる高邁な理念や高い理想を読者に与えてくれる理論書でもある。本書から,障害とは何か,障害者の暮らしはどうあるべきか,自立とは何かを考えていただきたい。障害のある子どもの育ちや障害のある人の暮らしを支える執筆者たちの熱い想いと障害者支援の未来が感じられるはずだ。

 本書は,医療,福祉,教育の現場の職員だけでなく,学生や研究者そして当事者や家族の方々にも読んでいただきたい。必ず障害のある人に暮らしの安心と豊かさを保障するための指針を与えてくれるだろう。

B5・頁256 定価4,935円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01541-7

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