医学界新聞

2013.01.14

Medical Library 書評・新刊案内


腹腔鏡下大腸癌手術
発生からみた筋膜解剖に基づく手術手技

加納 宣康 監修
三毛 牧夫 著

《評 者》杉山 保幸(帝京大溝口病院教授・消化器外科学)

単なる手術書にとどまらない,多様な論点で大腸癌患者診療に福音をもたらす書

 本書は現在のホットトピックスの1つである腹腔鏡下大腸癌手術の手技を解説しているので,大きなカテゴリーとしては医学書に分類されることは論をまたないが,それだけでは済まされないと感じたのは小生だけであろうか。カテゴリーを細分類すると,タイトルからは「手術手技書」となるが,よく読んでみると「腹部の臨床解剖学書」としたほうがよいともいえる。また,「消化管外科医が手術を修得するための基本的な心構え」といった教育論書でもある。さらには「大腸癌手術における覚書」といった著者自身のエッセイというように判断しても妥当かもしれない。文章の端々に著者の外科医としてのポリシーが述べられ,時には人生観も言外の意として込められているからである。

 著者が豊富な手術経験と莫大な数の論文検索を基にして得た解剖学的知識と手術手技を,初心者の立場に立って解説してあるため,非常に理解しやすい内容になっている点が本書の特徴である。すべての図がハンド・ライティングで描写されており,カラー写真が多用されている従来の手術書とは趣を異にしている。"手術記事の中の図を,下手でも自分で描けるのが真の外科医である"と駆け出しのころに恩師から教えられたことを今でも鮮明に記憶している。撮影技術の進歩で写真やビデオとして手術記録を残すことがほとんどという現況で,術中体位,ポート・鉗子の挿入図,腹腔内での操作状況,などすべてが手描きである点が,著者の"外科医魂"の現れでもある。同時に,随所で断面図を挿入して読者の三次元的な理解をアシストしているところは心憎いばかりの教育的配慮である。

 また,腹腔鏡下手術のみに焦点を当てておらず,常に開腹手術の場合との対比を念頭に置いて解説が進められているのも賞賛に値する。とりわけ,S状結腸切除術および右側結腸切除術の際の,内側アプローチか外側アプローチかに関する解説においてはその点が詳述されており,興味深いものであった。大腸癌に対する手術において,腹腔鏡下で手術を行うのか,それとも開腹で行うのかはアプローチの違いだけであり,本質である「過不足のない手術」をめざすことを強調して,その目的に合致した手術を遂行するための知識を読者に伝授することを基本理念としている姿勢には敬意を表したい。

 一方,用語の定義を明確にし,共通の認識の下でディスカッションを行うことが必要不可欠であることを冒頭で提唱しておいてから,解剖および手術手技の解説を展開しているプロセスにも,著者のサイエンティストとしての非凡さを垣間見ることができる。基礎編の最後に記述された「わが国の『大腸癌取扱い規約 第7版』は,これらの現実から離れた考察のなかにあり,片手落ちと言わざるをえない」は,経験と知識の裏付けがなければできない批判であるのは火を見るよりも明らかである。

 今後,本書が多くの外科医や解剖学・発生学・組織学を専門とする基礎医学者によって精読され,賛否両論が著者の元に寄せられて,結果的に大腸癌患者の診療に福音がもたらされることを願ってやまない。

A4・頁232 定価12,600円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01476-2


呼吸器外科手術のすべて

白日 高歩 著
川原 克信 執筆協力

《評 者》池田 徳彦(東医大主任教授・呼吸器外科学)

基本手技でも高難度手術でも,どんな局面にも対処できる呼吸器外科医必携の書

 白日高歩先生の『呼吸器外科手術のすべて』がこのほど医学書院から出版され,僭越ながら書評を述べさせていただく機会を得たことを誠に光栄に感じております。本書は題名にふさわしく,新旧も含め,呼吸器外科に関するあらゆる技術と知識が網羅され,加えて,一挙手一投足まで直接手ほどきを受けているように,理解しやすい内容であることを強調させていただきます。白日先生が多くの後進の育成に当たられ,その蓄積された指導経験の賜物と感銘を受けました。

 本書は白日先生がお一人で執筆されたため,多数の執筆者の共同作業にありがちな内容の重複や相違がなく,一貫して明解,簡潔な記載となっています。そして膨大な呼吸器外科の内容を的確な視点の基に50項目に分割し,合計556点の質の高いイラストを用いて,特に手術の山場となる点,合併症回避に留意すべき点に関しては,非常に丹念な記述がされています。

 外科は普遍的な基礎的手技と日進月歩の新しい分野が混在しながら進歩していきます。従来の手技の熟練のみに満足していたのでは,いつの間にか時代に取り残されてしまいます。しかし,基本的な手技の習得なしには新たな分野への挑戦は不可能でもあります。したがって,これからの呼吸器外科医にはオールラウンドにあらゆる手技を身につけることが望まれます。われわれは定型的な開胸手術はもとより,早期癌に対する胸腔鏡手術や縮小手術,進行癌に対する拡大手術,感染性疾患や合併症に対するリカバリー手術など,日常遭遇するどのような状況においても対処できる技術と知識を持たねばなりません。

 本書では定型的な肺葉手術,各種区域切除,拡大手術,胸腔鏡手術などあらゆる項目が網羅されていますが,それぞれの項目に軽重はなく,すべてが必要にして十分な内容で完結され,経験の長短を問わず呼吸器外科医を満足させるものと確信します。

 同じ術式でも開胸と胸腔鏡下では術者から見た術野は異なりますが,それを十分に再現した実践的なイラストとなっており,術前のシミュレーションに最適と考えます。

 また,分岐部切除再建のように体験の機会がめったにない術式に際しては,今までに培われた技術を応用し,一段階上のレベルの局面に対応しなければならないこともあります。本書を術前に一読すれば著者に直接指導を受けたと同様に手術手順が整理されるでしょう。臨床的には難渋する膿胸の解説も詳細であり,各種術式の手技とポイントが細部に至るまでわかりやすく記述されています。

 通常の手術書では往々にして省かれてしまう細かな事柄も,大事なものは丹念にイラストを用いて説明がなされています。例えば出血に対する対処法も胸壁,癒着部,肋間動脈,気管支動脈,肺動脈に関してそれぞれの記載があり,特に若い外科医にとっては必携の書となるでしょう。

 本書は完成度の高い名著であり,臨床,後進の教育,あるいは机の上でも己の技量を磨くために最適の書として強く推薦いたします。

A4・頁424 定価26,250円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-00791-7

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