「褥瘡は痛くない」という先入観を打ち破る(小林陽子)
寄稿
2012.11.19
【視点】
「褥瘡は痛くない」という先入観を打ち破る
小林陽子(東京都健康長寿医療センター/皮膚・排泄ケア認定看護師)
2012年度に改訂された褥瘡予防・管理ガイドライン(第3版)に「QOL・疼痛」という項目が追加され,褥瘡の痛みの問題とケアについて記載されました。筆者はこれが「褥瘡の痛み」の問題に光をあてるきっかけになるものと期待しています。
これまで,慢性褥瘡の疼痛はあまり話題になりませんでした。むしろ,褥瘡の原因のひとつである「知覚低下(障害)」から「褥瘡は痛くないもの」と思い込んでいる医療者も少なくないのが現状だと思います。確かに,知覚低下(障害)のある患者さんは,通常なら「痛い」「つらい」と不快に感じる同一体位や硬い床面・座面での長時間の臥床・座位を不快に感じることができないため,褥瘡を形成してしまうことがあります。
しかし,かといって「褥瘡を持つ人全員が,知覚の低下(障害)を引き起こしており,痛みがない」と安易に判断することはできません。「褥瘡は痛くない」という医療者の決めつけが,患者さんのQOLを著しく損なっているのではないかと,懸念しています。
そこで筆者らは2011年8月から12年2月まで,当センターの患者さん50人の褥瘡回診時にフェイススケールを用いて,疼痛の評価・アセスメントを行いました。その結果,褥瘡処置・ケア時に疼痛を訴えた患者さんは50人中42人。そのうち23人が急性褥瘡,19人が慢性褥瘡をもつ患者さんでした。実に80%以上の患者さんが褥瘡を痛いと感じていたのです。疼痛の原因には「外科的デブリードマン」「排膿の処置」「体位変換」などが挙がりました。これらの結果からうかがえるのは,医療者の側が「痛くない」と思い込んで処置している一方で,患者さんは痛みを感じているのに自分の思いを訴えられていない,あるいは,患者さんが訴えていることに医療者が気付いていないという状況です。
また,褥瘡は仙骨部や臀部など,自分の目で確認できない位置に形成されてしまうことがしばしばあります。「痛くないだろう」という予測のもと,医療者が十分な説明を行わずに処置に入ると,褥瘡とはどういうものか,どういった処置を受けるのかということをきちんと認識できていない患者さんが不安・恐怖を覚え,より痛みが増強するケースもあるようです。
いずれにしても,痛みの原因は患者さんによって異なるので,一人ずつ痛みの原因を明らかにし,それらを除去し,疼痛を緩和するケアを実施する必要があります。ひとたび患者さんが「褥瘡ケアは痛く,つらいケア」であると認識してしまえば,日々行われる褥瘡ケアはその患者さんにとって耐えがたい苦痛を強いる時間となるでしょう。
褥瘡を持つ患者さんに対して「痛くないだろう」と決めつけるのではなく,むしろ「痛みはあるだろう」と予測し,十分に配慮したケアを提供することが必要ではないでしょうか。
小林陽子
1999年より東京都老人医療センター(現・東京都健康長寿医療センター)。2006年に皮膚・排泄ケア認定看護師を取得。褥瘡,ストーマ,失禁分野におけるケアの実践と相談や教育を院内外問わず実施している。 |
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