医学界新聞

2012.11.19

日本放射線看護学会が設立される


 日本放射線看護学会の設立大会が,9月29日に西沢義子会長(弘前大大学院)のもと,弘前大(青森県弘前市)で開催された。「放射線看護の高度化・専門化を目指して」をテーマに掲げた今会,全国から看護師,保健師ら約250人が集まった。

シンポジウムのようす

臨床・地域・産業をつなぐ実践と知の集積を

 学会の開催に当たり,西沢会長が挨拶に立った。東日本大震災による福島第一原発事故は,看護職者が放射線について正しく理解し,正確な知識を人々に普及させる役割を担う必要性を認識させるきっかけになったと氏は強調。大学院に放射線看護の専門コースを設置している弘前大・長崎大・鹿児島大の3大学が中心となって本学会を設立したという経緯を紹介し,今後,放射線看護の学術的基盤を構築していきたいと語った。

 設立記念講演では,小西恵美子理事長(鹿児島大)が登壇した。氏はこれまでの日本の放射線看護の歩みについて,原爆の被害にあった広島・長崎における看護師の被爆者救護活動までさかのぼって考察。放射線看護実践の要は放射線防護の知識を持つことと指摘した。

 また,過去に日本が経験した広島・長崎の原爆(1945年),東海村核燃料工場臨界事故(1999年),福島第一原発事故 (2011年)の放射線災害・事故例から,放射線看護の価値と責任について言及。看護師の倫理綱領や,一人の患者に対する責任とその他の多数の人々に対する責任,命の危機に瀕する被ばく患者の尊厳・安全と環境汚染の防護とのバランスを考慮する重要性を訴えた。最後に氏は,放射線看護の枠組みを各地域や産業現場の人々,また被ばく患者のケアをも実践できる,より高度なものへと拡大・変革することが急務になっていると結んだ。

放射線看護の重要性が議論される

 シンポジウム「放射線看護専門看護師の必要性と期待される役割」(座長=鹿児島大・松成裕子氏)では,浦田秀子(長崎大大学院),齋藤陽子(弘前大大学院),中嶋由美子(福島医大病院)の3氏が話題提供を行った。

 初めに登壇した浦田氏は,長崎大大学院で行われている放射線看護専門看護師コースの内容を紹介。東日本大震災後においては,同コースの学生が大学院で学んだ知識を基に福島県の市町村で支援活動を行ったことを報告した。

 続いて齋藤氏が,放射線看護専門看護師に求められる役割について述べた。氏は,放射線看護の専門性を持つ看護師には,有害事象の予防とケア,検査のインフォームド・コンセントやリスクコミュニケーションなどの役割が期待されると発言。また,今後は放射線看護領域の中に,画像診断,放射線治療,IVR,緊急被ばく医療などの“サブスペシャリティ”を構築していく必要があると訴えた。

 東日本大震災による原発事故後,緊急被ばく医療に対応した福島医大病院。中嶋氏は,その際に行われた同院の取り組みを紹介した。同院では,被災者たちを受け入れるため,放射線に関する知識を持たない看護師たちも対応できるようにREMAT(緊急被曝医療支援チーム)などの専門職者の助言を受けられる体制を整え,がん放射線療法看護認定看護師が中心となることで緊急被ばく医療体制を構築するに至った。こうした医療体制の整備を急遽迫られた経験から,氏は放射線の基礎的知識や放射線防護に関する知識を持つ重要性を認識したと述べ,看護基礎教育に放射線の系統的な教育内容を含めることが必須という見解を示した。

 総合討論では,「放射線診療に携わっていない看護師にとって放射線の理解は難しく,何度も学ばないと身につかない。福島医大病院ではどのような取り組みにより,短期間での緊急被ばく医療体制の構築を実現できたのか」という質問があがった。中嶋氏は,「がん放射線療法認定看護師だけでなくさまざまな専門家のサポートがあった。限られた人員で短期間の講習会を開催し,また個々の看護師が自己学習できるようなシステムづくりを行った」と述べ,多職種連携の重要性を示した。

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