見知らぬ世界へのどこでもドア(金川英雄)
寄稿
2012.11.12
【寄稿】
見知らぬ世界へのどこでもドアなぜ,『精神病者私宅監置ノ実況』を現代語訳したのか
金川 英雄(東京武蔵野病院・精神科)
「呉秀三」(MEMO)という名は,精神障害者の待遇の改善と日本の精神医療の近代化に努めた人として,ご存じの方も多いのではないでしょうか。
今回,私が現代語訳をした呉秀三・樫田五郎著『精神病者私宅監置ノ実況』は,90年前に行われた私宅監置,いわゆる座敷牢調査の報告書(写真1)です。この調査は,東京帝国大学医科大学教授で東京府立松沢病院院長だった呉秀三が,日本各地に医局員を派遣して行ったものです。報告書中の一文「我が邦(くに)十何万の精神病者は実にこの病を受けたるの不幸のほかに,この邦に生まれたるの不幸を重ぬるものというべし」は有名です。この報告書は戦後再発見され,2回にわたって創造出版から原文のまま復刻されています。
写真1 報告書の第二十七例より | |
視察者たちは,監置理由,期間,被監置者や監置室の状況に関する記述の他,被監置者の様子を撮影した記録も残している。 |
“読解の困難さ”を理由に埋もれるのはもったいない
私は全国に残る古い精神障害者民間施設を歩き,そこに残る資料を分析することをライフワークにしています(写真2)。その調査結果を『精神病院の社会史』(金川英雄,堀みゆき.青弓社;2009年)にまとめたことがあるのですが,これを書く際の一次資料として『精神病者私宅監置ノ実況』を読みました。そして,この書物が民俗学的・社会学的価値にあふれたものであることに気付きました。このような重要な資料が,読解の困難さのために多くの人の目に触れずにいるのはもったいない。そう思い,現代語訳に取り掛かるに至ったのです。
写真2 高尾山の旅籠に残る宿帳 | |
『精神病者私宅監置ノ実況』においても,高尾山は水治療の場として紹介されている。この旅籠の宿帳には,宿泊者の病名(脳病・目病・精神病)まで記載されていることがわかる。 |
原文の“読解の困難さ”としては,以下の3点が挙げられます。
1)明治・大正時代の古い漢字,現在の旧字体よりさらに前の旧字体が使われているので,漢字を同定するのが困難
2)現在では使われることのない単語が多い
3)言い回しが格調高い漢文調
具体例を挙げてみ
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