日本発の新たな疾患概念IgG4関連疾患の潮流(神澤輝実)
寄稿
2012.11.12
【寄稿】
日本発の新たな疾患概念
IgG4関連疾患の潮流
神澤 輝実(がん感染症センター東京都立駒込病院 消化器内科部長)
IgG4関連疾患は,諸臓器におけるIgG4陽性形質細胞の浸潤を伴う腫大や腫瘤形成と,血中のIgG4値の上昇を特徴とする新たな疾患概念である。本邦から発信されたこの概念は,現在世界的に注目を集めている。本稿では,IgG4関連疾患の変遷と今後の問題点を概説する。
自己免疫性膵炎からIgG4関連硬化性疾患の提唱
膵臓癌という診断で切除したら慢性膵炎だった症例は,腫瘤形成性膵炎として以前から問題視されてきた。また,後腹膜線維症,硬化性胆管炎や眼窩内偽腫瘍など全身の広範囲の組織に硬化性の線維性増生を認める原因不明の疾患は,1960年代よりmultifocal fibrosclerosis(MF)と呼ばれてきた。当院の病理科は,膵頭部癌の診断で切除された2例の腫瘤形成性膵炎を,病理組織学的にリンパ球と形質細胞の密な浸潤と線維化を呈し多数の閉塞性静脈炎を有することから,特殊な膵臓の炎症性腫瘤として1991年に「lymphoplasmacytic sclerosing pancreatitis」の名称で報告した1)。
東京女子医科大学のグループは,びまん性の膵腫大と膵管狭細像,高γグロブリン血症と自己抗体陽性を示しステロイド治療が著効した例より,自己免疫性膵炎という概念を1995年に発表した2)。また2001年には,信州大学のグループが自己免疫性膵炎患者では血中のIgG4値が特異的に上昇することを報告した3)。
そのころ,われわれが経験した10数例の自己免疫性膵炎患者は,高頻度に胆管狭窄や唾液腺疾患などを合併しており,本症は全身性疾患である可能性を考えた。数冊の試薬カタログからIgG4抗体を探し出して英国から購入し,自己免疫性膵炎患者の切除や生検された諸臓器において抗IgG4染色を行った。その結果,多数のIgG4陽性形質細胞浸潤が膵臓だけでなく,胆管,唾液腺,消化管やリンパ節などに認められ,また多くの組織に線維化と閉塞性静脈炎が認められた。慢性膵炎,原発性硬化性胆管炎の胆管やシェーグレン症候群の唾液腺ではIgG4陽性形質細胞の密な浸潤は認められなかったことから,われわれはこれらの疾患とは異なる機序で発生する,IgG4が関連する新しい疾患概念として「IgG4関連硬化性疾患」を2003年に発表した4)。
本疾患は,全身性疾患で線維化と閉塞性静脈炎を生じる膵,胆管,胆嚢,唾液腺,後腹膜などにおいて臨床徴候を呈する(図1)。自己免疫性膵炎は本疾患の膵病変であり,その膵外病変は諸臓器の病巣である。一臓器のみの場合もあるが,同時性または異時性に複数の臓器が侵される場合もあり,高率にリンパ節腫大を伴う。従来原因不明のMFと呼ばれてきた疾患群は,この疾患である可能性が高い。高齢の男性に好発し,ステロイドが奏効する。血中IgG4値の測定と,抗IgG4抗体による免疫染色が診断に有用である。腫瘤の形成とリンパ節腫大により,診療当初は悪性腫瘍が疑われることが多いが,本症はステロイド治療が有効なことより,慎重な鑑別診断を行い無益な手術を避ける必要がある。
図1 自己免疫性膵炎に合併する主なIgG4関連疾患 |
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