医学界新聞

2012.10.22

第14回日本褥瘡学会開催


 第14回日本褥瘡学会(会長=金沢医大・川上重彦氏)が,9月1-2日,パシフィコ横浜(横浜市)で開催された。今回のテーマは「がんばろう日本2012――世界に示そう日本の褥瘡ケア,褥瘡治療」。本紙では,褥瘡の予防や治療には欠かせないとされてきた体位変換を見直し,在宅医療や急性期病院においても実施可能な体位変換について議論されたシンポジウム「体位変換の"現状"について考える――体位変換は必要か?」(座長=北大/褥瘡・創傷治癒研究所・大浦武彦氏,京大・宮地良樹氏)のもようを報告する。

シンポジウムのようす
人的負担を減らしながら,個別の状態に応じた褥瘡管理計画を

 褥瘡の予防や治療には,体圧を受ける部位を定期的に変更し,外圧を低減させる除圧が重要と考えられている。ガイドラインでは2-4時間ごとの体位変換が奨励されているが,人的な体位変換は看護師や介護人にかかる負担が大きく,創周辺の刺激による創面の悪化も懸念される。大浦氏は,こうした問題を提起した上で,人的体位変換をなくす見地から体位変換の在り方を考えるべきと述べた。

 体位変換に関する論文や各種ガイドラインから,体位変換間隔の変遷を調べた田中マキ子氏(山口県立大)によると,国内の文献で「2時間ごと」の体位変換が明確に記されたのは,1977年に東京都老人総合研究所が発刊した『褥瘡――病態とケア』。本書の発刊以降,多くの教科書が体位変換間隔を「2時間ごと」と記載するようになった。しかし,その根拠として動物実験の結果などが用いられていたことから,氏は「"2時間ごと"に明確な根拠があるとは言えない」と指摘。一方,「4時間ごと」の体位変換を有効とする臨床研究は国内外で発表されており,2003年には日本褥瘡学会学術教育委員会が「画一的に2時間ごとの体位変換計画とするのではなく,個別の状態に応じた計画が推奨される」と結論付けている。これらの資料から氏は,体位変換間隔への固定的な意識や脅迫的な観念を一掃し,複合的要素の影響を明らかにしながら,患者ごとに最適な基準や目標を設けることが重要と主張した。

 中村義徳氏(天理よろづ相談所病院在宅世話どりセンター)は,在宅医療における体位変換の現状を調べるために,訪問看護師と介護人を対象にアンケートを実施。その結果,両者の多くが褥瘡・肺炎・関節拘縮の予防の観点から体位変換を必要と考えているが,2-4時間ごとの体位変換は実現できていないことが明らかになった。その理由として,一定時間おきの体位変換は負担が大きく現実的ではない,高齢の介護人には体力的に不可能との意見が挙げられたことから,氏は在宅医療における人的体位変換を中心とした褥瘡管理計画には限界がある,との見解を示した。

 急性期病院において呼吸管理を要する患者の体位変換は,褥瘡だけでなく呼吸器疾患の予防のためにも重要と考えられている。福田正人氏(平成会病院)は,自動体位変換機能の使用が,呼吸器管理に及ぼす影響について発表した。同院では,業務効率と人工呼吸管理の安全性を高める目的で,自動体位変換機能付きエアマットを導入。その結果,機能の多用によって呼吸器合併症が増加する等の影響は認められなかった。また,人員が呼吸器管理に重点配置され,安全性が高まったと評価した。

 シンポジウムの後半には,大村氏が人的体位変換の不要な仙骨部除圧オーバーレイマットレス(特殊OM)とその効果を紹介。続いて,芳賀理己氏(中村記念病院),能登山薫氏(南札幌病院),土屋隼人氏(札幌西円山病院)から,それぞれ重度の褥瘡を抱える患者に特殊OMを用いた事例が紹介され,患者に適した医療福祉機器を利用しながら個々の状態を考慮したケアを行うことによって,負担の大きい人的体位変換を行わなくても褥瘡を治療できることが報告された。