医学界新聞

2012.09.24

第16回 日本看護管理学会開催


 第16回日本看護管理学会が8月23-24日,「未来(あす)の医療を牽引(リード)する看護管理」をテーマに開催された(大会長=札幌市立大・中村惠子氏,会場=札幌コンベンションセンター)。本紙では,看護政策研究に必要な大規模データベースの構築を説いた講演と,同学会に新設された教育委員会が企画したシンポジウムの模様を報告する。


医療関係者「以外」を説得するために普遍性の確保を

 「政策提言に値する分析結果を出すには,個票データならば標本数100万人単位以上が国際標準」。教育講演「看護政策に必要な医療経済学」では,医療政策・経済学者の兪炳匡(Byung-Kwang Yoo)氏(カリフォルニア大デービス校)がこう強調した。医療関係者「以外」を説得できる研究とするためには,一病院や一地方のみが対象の研究ではなく,全国を代表する大規模データの分析研究による普遍性の確保が不可欠なのだという。

 看護政策研究の先行例として兪氏が挙げたのが,米国のNational Sample Survey of Registered Nurses(NSSRN)を用いた研究だ。同調査は約5万5000人のデータに高度な統計学的手法を用いることで,標本数310万人(米国の全看護師数に相当)に値する政策研究が可能になるという。データの収集・利用については,プライバシー保護など明確なルールが確立されており,個票データのダウンロードに事務手続きは全く必要ない。

 日本で看護政策研究を進める上では,こうしたインフラ整備のほか,複数の学部・大学が連携して修士レベルの統計学・経済学の知識を持つ看護師を育成すると同時に,医療経済学者・統計学者との学際的研究の実現が必要であるとの見解を示した。

中村惠子大会長 兪炳匡氏

混沌を紐解き,概念化する力

 日本看護管理学会では今年度,教育委員会を新設した(委員長=聖路加看護大・井部俊子氏)。同委員会では,現任の看護管理者を対象とした看護管理に関する教育内容・方法の検討,看護基礎教育における看護管理学教育の標準化の検討を行う予定だ。教育委員会の始動に当たり,「教育委員会旗上げシンポジウム――看護管理者の軌跡」が企画された。

 シンポジウムでは,倉岡有美子(聖路加看護大),佐々木菜名代(川崎市立多摩病院),武村雪絵(東大医科研病院)の3氏が自らの看護管理実践と,実践に影響を与えた教育について話題提供を行い,その後に会場とのディスカッションが行われた。「どのような学習機会が現場で役に立ったか」との会場からの質問に,倉岡氏は大学院で課される必読文献を題材にした発表を例示。佐々木氏は,「理論を学ぶことによって,今後起こり得る状況を想定することができ,冷静な対処が可能になった」と述べた。さらに武村氏は,「看護理論だけでなく哲学や法律,経営など他領域の学問を学ぶことで,現象をさまざまな切り口で捉えることができた」と報告。これを受けて座長の井部氏は,「看護管理者には現場の混沌を紐解き,概念化していく力が必要」と指摘した。

 そのほか,「過去の事例から学び,経験を深める教育」「多様な意見を聞く力」などのキーワードがディスカッションを通して示された。最後に井部氏は,「看護管理者としてのコンピテンシーを明らかにし,そのために必要な教育を検討していきたい」と,教育委員会の当面の方針を示し,シンポジウムを閉じた。

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