MEDICAL LIBRARY 書評・新刊案内
2012.08.27
Medical Library 書評・新刊案内
岡西 雅子 著
《評 者》島尾 忠男(結核予防会顧問)
人生を生きるとはどういうことかと考える機会に
著者の御尊父は高名な結核専門家であり,晩年には医学史的な観点からのご寄稿を結核予防会も何度か頂戴し,ご逝去後は長年にわたり蒐集された結核関連の切手を結核予防会にご寄贈くださった。それを頂戴しにご自宅に伺い,雅子さんにもお目にかかる機会があり,ご自身ご不自由の中をパーキンソン病に悩むお父上を長年在宅で介護されたことは承知していたが,今回ご著書を拝読して,自らが難治疾患である膠原病との長年の闘いを続けながら,というよりは共生しながら,お父上を在宅で介護された,凄まじいとしか言いようのない生き様に圧倒された。お父上にも何度か苛立った対応をしながら,すぐにそれを反省し,介護に戻られるのは,悟りきった聖人に近い心境であろうか。それが雅子さんの周辺に多くの素晴らしい方々が集まってくる契機となったのではないだろうか。往診をいとわず,最善の治療と処置をしてくれた家庭医,牧師さんご夫婦,泊まり込んでお父上の在宅介護に協力してくれた方々,在宅介護がかなり進んだ今日でも,このようなチームの誕生は考えられない。
慢性疾患に罹患することは,人間を,そして人生を,深く考える良い機会となる。一昔前の結核の療養はその典型的な一例であり,若者に多かった結核患者が,生命の危険に曝されながら,人生について,人間について考える中から,多くの優れた文芸作品や芸術が生まれた。膠原病も難治の慢性疾患であり,免疫学の研究がこれほど進んできても,自身に対する過剰な反応を制御する方法は,十分には解明されていない。ステロイドは過剰反応を抑える有力な手段であるが,副作用が避けられない。2回もほとんど動けない状態で長期間入院された雅子さんが,ご自分で歩くことができ,父上の介護もある程度可能になるまでに回復された背景には,強い意志でつらいリハビリに取り組んだ努力があった。これらの経験を読むことによって,同じ病に悩む者が大いに勇気づけられるであろう。
パーキンソン病も慢性の難治疾患で,起伏はあるが徐々に進行する。その経過中に,オンオフ現象があることを,初めて勉強させていただいた。岡西先生があれだけのご病状を抱えながら,できる限り生きる道を選ばれたのは,原稿執筆への思い,そしてそれを筆耕された雅子さんの協力があったからできたことであろう。
評者は東大医学部1年生のときに,雅子さんの母方の祖父である宮川米次先生の寄生虫学の講義を受けたことがある。旧帝国大学の医学者を代表するような方であった。評者も岡西先生と同じ結核を専門領域に選んだが,結核予防会に勤めたため,直接ご指導を受ける機会はなかった。若いうちはともかく,年を取って結核の歴史にも触れるような原稿を書く機会も増えたが,その際に参考になったのが岡西先生の多くのご著書であった。縁あって雅子さんの著書を拝読させていただき,あらためて人生を生きるとはどういうことかと考える良い機会を与えていただいたと思っている。
四六判・頁256 定価1,890円(税5%込)医学書院
ISBN978-4-260-01597-4


日本フットケア学会 編
《評 者》館 正弘(東北大大学院教授・形成外科学)
執筆陣の教育にかける熱い心がひしひしと感じられる本
フットケアはスキンケアやネイルケアのみに限定されるのではなく,生活習慣病の増加に伴って発生するさまざまな足病変の予防から治療までを網羅する,広範囲かつ多彩な取り組みを包含する。足・下腿に難治性の潰瘍や壊疽を持つために,健康な社会生活を送ることができない患者は増加の一途をたどっているものの,専門施設の数が足りないことも問題点として表面化してきている。早期診断と適切な加療によって大切断を回避できる道筋はできつつあるものの,実態は手遅れの足が医療の谷間でさまよっているのが実情に近い。筆者の科(形成外科)でも,入院患者数の30-40%に上ることがある。
国内外の学会でLimb salvage(患肢温存)のためのセッションは多く行われているが,課題として浮かび上がってきている事項は,専門施設と地域の医療機関との連携の重要性,および患者教育を含めた医療従事者への教育の必要性である。今現在,日本において医学生・看護学生に救肢についてのテーマで多職種による講義を実施している教育機関はまずないであろう。そうした中,教育に着目して精力的に啓蒙活動を行ってきたのが日本フットケア学会であり,学会が総力を挙げて編集した『フットケア(第2版)』がこのたび上梓された。
初版が2006年7月であるから,5年あまりで改訂第2版を出版されたことは,この分野の急激な進歩と患者層の多様化を裏付けるものである。第2版では,リハビリテーションの基礎知識,理学療法士によるサポート,義肢・装具についての項目,さらに特殊な病態としてのリウマチ・膠原病患者のフットケアが追加された。
本書は5つのパートに分かれており,総論に続いて,第2章では検査やスクリーニングの方法,チームの構成・体制作り,第3章ではさまざまな...
この記事はログインすると全文を読むことができます。
医学書院IDをお持ちでない方は医学書院IDを取得(無料)ください。
いま話題の記事
-
医学界新聞プラス
[第1回]心エコーレポートの見方をざっくり教えてください
『循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.04.26
-
医学界新聞プラス
[第3回]冠動脈造影でLADとLCX の区別がつきません……
『医学界新聞プラス 循環器病棟の業務が全然わからないので、うし先生に聞いてみた。』より連載 2024.05.10
-
医学界新聞プラス
[第1回]ビタミンB1は救急外来でいつ,誰に,どれだけ投与するのか?
『救急外来,ここだけの話』より連載 2021.06.25
-
医学界新聞プラス
[第2回]アセトアミノフェン経口製剤(カロナールⓇ)は 空腹時に服薬することが可能か?
『医薬品情報のひきだし』より連載 2022.08.05
-
対談・座談会 2025.03.11
最新の記事
-
対談・座談会 2025.04.08
-
対談・座談会 2025.04.08
-
腹痛診療アップデート
「急性腹症診療ガイドライン2025」をひもとく対談・座談会 2025.04.08
-
野木真将氏に聞く
国際水準の医師育成をめざす認証評価
ACGME-I認証を取得した亀田総合病院の歩みインタビュー 2025.04.08
-
能登半島地震による被災者の口腔への影響と,地域で連携した「食べる」支援の継続
寄稿 2025.04.08
開く
医学書院IDの登録設定により、
更新通知をメールで受け取れます。