増える在宅医療ニーズに応えるために(山田雅子)
インタビュー
2012.08.27
【interview】
増える在宅医療ニーズに応えるために
山田雅子氏(聖路加看護大学看護実践開発研究センター・センター長)に聞く
多死時代,超高齢社会と言われる現在,在宅医療のニーズは高まっている。しかし,その中心を担う訪問看護の供給量は十分とは言い難い。では,どのような方略を描けば,そのニーズに応えることができるのだろうか。本紙では,実践者,厚労省専門官,教員とさまざまな立場で在宅看護領域に携わってきた山田雅子氏に話を聞いた。
「在宅看護」の考え方は,病院勤務看護師にも必要
――日本の訪問看護ステーション(以下,ステーション)の概況と現状の問題点を教えてください。
山田 1事業所当たりの平均常勤看護師数は4.2人で,看護職員が5人未満の事業所が全体の50%以上を占めるのですが,小規模事業所ほど経営効率が悪く,看護師1人にかかる負担も大きいため,各地域で継続的な訪問看護活動の実施が困難な現状があります。
――地域医療を担うステーションに小規模事業所が多い点は課題ですね。
山田 ええ。やはり組織が大きいほうが,経営もサービス提供内容も,職員の福利厚生も安定します。現状を変えるために,小規模事業所を大規模化するだけでなく,複数の事業所間での協力体制をつくり,業務の効率化,地域医療連携の質の向上を図る体制づくりが進められています。
また,年次推移を見ると,ステーション件数自体は微増しているものの,訪問看護を行う病院・診療所が減少しており,結果として訪問看護の担い手の総数は減少傾向にあるという課題も存在します。
――現状を考えると,病院による訪問看護の実施増加が望まれます。
山田 国内の就業看護職員130万人のうち,ステーションで働く看護職員は3万人足らずで全体の約2%にすぎず,残りの約90%以上は病院・診療所に集中しています。訪問看護利用者数の増加に対応していくためには,病院からの訪問看護の実施も必要不可欠と言えます。
――病院から訪問看護を行うほうが,より患者さんや家族のためになるケースもあるのでしょうか。
山田 もちろんです。現在は退院調整看護が注目されていますが,「何が何でも地域の診療所やステーションにつなぐ」ことが調整業務ではないはずです。
例えば,末期がんの患者さんで,退院後2週間程度で亡くなると予測される場合は,病院から訪問看護を実施するほうがよいのではないでしょうか。患者さんやその家族にとって,残された時間の短さからも在宅へ移行する準備は可能な限り短縮したいものです。介護認定の申請は帰宅後でもできますし,帰宅前から福祉用具を借りることも可能です。ですから,退院の時点で,患者さんの情報を持っている病院の医師・看護師が核になってかかわり,自宅での療養支援ができれば,残された貴重な時間を有効に活用することができると思います。
このような支援が実践されるためには,病院勤務の看護師も在宅看護の考え方を身につける必要があると言えるでしょう。
――在宅看護の考え方が必要なのは,訪問看護師に限らないわけですね。
山田 そうです。病気を抱える患者さんが本来の生活の場で,より満足度の高い生活を送ることができるよう支援するのが在宅看護です。そこで重視されているのは,患者さんの生活に思いを巡らせ,病気や治療をいかに見るかという視点。これは訪問看護師に限ったことではなく,病院に勤務する病棟・外来看護師も持つべき考え方であり,これこそが看護師の専門性につながる発想とも言えると考えています。
今後,患者さんの生き方を支援する手段として,訪問看護などの在宅看護を病院から行う看護師が増えることを期待しています。
――病院内の運営を重視するあまり,病棟の看護師が在宅に出ていくことを嫌がる管理者もいると聞きます。
山田 在宅医療に対するニーズが増加する今,「病院をいかに上手く運営するか」ではなく,「地域住民の医療や看護へのニーズが満たされているか」へと,看護管理者も意識を変革していかなければなりませんね。
地域協働で,新卒看護師の雇用・育成を
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