急性期脳梗塞治療の新時代(山上宏)
寄稿
2012.08.20
【寄稿】
急性期脳梗塞治療の新時代
脳梗塞患者の機能予後を高めるために
山上 宏(国立循環器病研究センター 脳神経内科医長)
2011年の厚労省人口動態統計月報年計(概数)の概説では,脳血管障害による死亡数は12万3784人で,わが国の死因の第4位であった。脳血管障害は1970年代までは死因の第1位であったが,高血圧治療の普及により致死的な重症脳出血が減少。その結果,近年は脳梗塞が脳血管障害での死亡者数の約4分の3を占めるようになっている。
死因としては減少しているが,脳血管障害は片麻痺などの後遺症が残るため,介護が必要となった原因疾患の第1位であり,寝たきりを含む重い介護要因の実に約4割を占めている。また,長期入院が必要であり,高齢化が進むわが国の医療費高騰の原因としても,大きな問題を抱える疾患である。
脳血管障害を減少させるためには,予防が第一であり,次いで高血圧や脂質異常症など生活習慣病の管理と,心房細動例への抗凝固療法の徹底が重要である。しかし,万が一脳梗塞を発症した場合でも,最新の急性期治療法の進歩により,少しでも早く治療を受ければ,救命や後遺症の低減が得られるようになりつつある。
本稿では,いま大きく変わりつつある急性期脳梗塞の治療法について概説する。
rt-PA静注療法の適用時間が4.5時間に
脳梗塞急性期治療として高い有効性が証明されているのが,組織プラスミノーゲン活性化因子(recombinant tissue plasminogen activator;rt-PA)による血栓溶解療法である。1995年に報告されたNINDS rt-PA study(N Engl J Med. 1995[PMID: 7477192])では,発症3時間以内の急性期脳梗塞に対するrt-PA静注療法が,3か月後の社会生活が自立した患者を有意に増加させることを明らかにした。この結果により世界中で脳梗塞に対するrt-PAの使用が認可され,わが国でも2005年10月から保険適用となった。しかしながら,rt-PA静注療法は脳梗塞の症状出現から3時間以内しか使えないことや,出血性合併症が増加する可能性があることから,適用となる症例が限られており,脳梗塞症例の約3-5%程度にしか使用されていないのが現状である。
2008年にECASS 3は,rt-PA静注療法が発症3-4.5時間の脳梗塞にも有効であることを示し(N Engl J Med. 2008[PMID:18815396]),各国で適用拡大が進んでいる。日本でも今年中には発症4.5時間までの脳梗塞に保険適用が拡大される見込みである。
増える血管内治療の選択肢
内頸動脈や中大脳動脈など,主幹脳動脈の急性閉塞による脳梗塞は,発症早期に閉塞血管の再開通が得られないと生命予後や機能予後が極めて不良となる。そこで,主幹脳動脈閉塞による急性期脳梗塞で,rt-PA静注療法が行えない例や,施行後も症状の改善が認められない例に,カテーテルを用いた血管内治療によって血流再開を得るための新たなデバイスが,今日次々と開発されている。
1.局所血栓溶解療法
マイクロカテーテルを用いてウロキナーゼやrt-PAなどの血栓溶解薬を血管閉塞部位に局所動注する治療で,1980年代後半から行われていた。局所血栓溶解療法は,PROACT 2や,わが国で行われたMELT-Japanなどの比較試験により,発症6時間以内の中大脳動脈閉塞例に対する有効性が証明され,rt-PA静注禁忌例における治療法のひとつとして推奨されている。また...
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